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私たち、30歳までに結婚できなかったらさ。

高校生のあの頃、
寮生活だった私の生活は
朝から夜まで何かに追われる日々で
課題と部活と、それからテスト
毎日忙しく過ぎてヘトヘトになる。
学生生活は鬼のスピードで進んでいった。

そんな生活にも私には楽しみがあった。

時々、寝る前にかかってくる友達からの電話。
何気ない会話を永遠にして、笑い合う。
時には夜更かしのしすぎで、寝坊しかけたこともあったが
私の忙しい日々を少しだけ彩る時間だった。

寮生活は就寝の時間がある。
だから、先生にバレないように
小さな声でヒソヒソとイヤホンをつけて話す私。
何度かバレたこともあったけど、
それでも辞める理由にはならなかった。

よく電話がかかってきていたあの彼は、
一つ年下のラグビー部の男の子。

学校が苦しい日も
時には落ち込んだあの日も
彼との電話の時だけは学校のことを忘れて
内容のないバカな話で盛り上がった。
きっとあの忙しかった頃の心の拠り所だったと思う。

人生で初めて知った。夜の電話の楽しさ
時々、キュンとさせてくれるような言葉をかけてくれて、
そんな彼のことを少しずつ気にかけるようになった。
きっと両思いだったんだと思う。

しかし、思うように恋が進んだわけではなかった。
私の親友も彼に興味があると知ったのは
そのすぐあとだった。何か私たちの中で始まりかけていたのか、
でも、すぐに身を引いた。
高校生だった私の中で、友達がいないということは
何よりも恐れていたし、
恋愛初心者でまだ何が好きなのかわかっていなかった私には、
到底親友より、好きな人を選ぶことはできなかった。

だから、彼のことは友達として
心の中で切り替えてしまった。

そんな中、月日が経って、
お互い別々の大学に行き、
あんなに話していたのに、
連絡も取らなくなった。

お正月、ラインを見ると1件
久しぶりにメッセージが来た。
あけましておめでとう。
何年も話してなかった彼からのメッセージは
少しのときめきだった。

そこから、少しずつ話してると
彼が暇だから電話していい?
そう聞いてきたので、電話に出ることにした。

やっほー。
高校生の時と何も変わらない少し低めの声。
久しぶりすぎて、気まずくなるのかと思いきや
すぐに話題が広がり、たわいもない会話を1時間ほど
あっという間に時間は経っていった。

すると、彼が突然私に対してのことを話し始めた。
俺ずっと話したかったんだよね。
ちなみにさ、高校の時から
君のこと思ってる人ここにいるよ?

俺、大学もいいところでて、英語も話せて、
将来は安定だと思うし、海外転勤とかもあると思う。
そんなビジョン見えてる。
だからさ、俺の横、いつでもあいてるよ?

あまりの唐突な話にびっくりしたことを隠すのに必死だった。
というより、冗談でしょ。と笑って誤魔化した。

彼が私に夢を聞いてきた。
そして、主婦なんてどう?そう聞いてくるから
私はいい奥さんになれる自信はあるよ。
でも、主婦って何するんだろう。私がそう聞くと。

君の好きなことしてていいよ。そう彼答えた。

俺が稼いでくるから、君の好きなこと俺のお金でなんでも。
車も、家も買うし、お迎えにもいってあげるから。
どこにでもついていくし、海外だったら一緒に来てほしい。
全然追いかけるし、追わせて欲しい。
女の子は愛される方が幸せだよ。お姫様のように扱う。
そんな言葉を言われたのは初めてだった。

続けて、30歳までにお互い結婚してなかったら
俺の席空けといてね。そう言ってきた。
彼の衝撃的な言葉の数に圧倒されて、
でも少し嬉しかった。映画以外でも
こんな約束ってあるんだ。

高校のあの日に戻ったような気持ちだった。

そういえば、彼はいつも私を笑顔にしてくれること言ってくれてたっけな。

ただ、彼のことをもう一度好きになりたいとは
思わなかった。
時間は流れてる。私も変わった。
月日が経って、私にはパートナーがいる
今の彼と、結婚したい思える人か、そう言われるとそれは分からなけれど、
彼は、だからこそ、そういう約束の申し出をしたんだと思う。

私は、いいよ。なんて言えるわけがなかったけれど、
同時に、やだ。その言葉も出てこなかったのが事実。

曖昧な返事を残し電話を切った。
あの頃の高校生の会話を思い出した。
甘酸っぱい、実らない恋だった。
神様は意地悪だと、少しだけ。
今になってチャンスが来ても
どうしようもできない私の気持ちは
複雑で曖昧な心のざわめきを感じた。


もう私の気持ちは冷め切ってしまっているのか。
いやきっと、懐かしいあの頃に、恋をしているのかな。
まだ先の長い未来、そう思いたい。
もしくは、30歳になったらわかるのかもしれない。
私たちが交わした秘密の約束と共に。




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