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2019年5月の記事一覧

他のアジアの国々のCSR(中国及びインド)

他のアジアの国々のCSR(中国及びインド)

中国においてCSRが注目されるようになったきっかけとして、胡錦涛政権における「和諧社会」の実現というスローガンが掲げられたことがあげられる。和諧社会とは、調和のとれた社会を意味し、江沢民時代の経済成長の代償としての不平等や格差を是正する、ということが目指された。とりわけ、和諧社会の実現のために (1) 都市と地方のより親密な関係を築くこと、(2) 省エネルギーと環境に対する意識を持つこと、(3)

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日本企業と主要なステイクホルダーの関係:従業員

日本企業にとって、従業員は最も重要なステイクホルダーであるとされてきた。例えば、伊丹 (2000, 59) は従業員主権という言葉を用い、企業はそこにコミットして長期間働く人々のものであり、彼らが企業のメインの「主権者」である、と述べている。また、日本的経営慣行も従業員を重視したものとなっていた。ここで、日本的経営慣行とは、年功序列制、終身雇用制、企業内労働組合を意味する。年功序列制とは、勤続年数

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日本企業と主要なステイクホルダーの関係:株主

日本企業と主要なステイクホルダーの関係:株主

日本における企業と株主の関係において特徴として、株式の持ち合いによる企業株主の存在があげられる。株式の持ち合いとは、複数の企業間で株を相互に保有し合うことであり、このような慣行は戦後からすでに日本においては行われていた。また、株式の持ち合いは明確な契約書が企業間で交わされるわけではなく、そこには、株式保有期間に関する暗黙の了解と、議決権行使に関する暗黙の了解が当事者企業間にあるのみであった (加護

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日本のCSRの歴史

日本のCSRの歴史

日本においてCSRという言葉が本格的に用いられるようになったのは2000年以降である。しかし、それ以前にも様々な社会問題や環境問題が生じており、その際には企業に何らかの責任があるのではないかということは議論されてきた。ここでは日本のCSRの歴史を簡単に振り返ることにする。

戦後の日本におけるCSRに関する問題の一つに、労使間紛争があげられる。例えば、三池争議や日産争議、王子製紙争議など、大企業に

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三方よしとCSR

三方よしとCSR

三方よしと企業の社会的責任 (CSR) との共通点および相違点を整理しておく。まずは類似点である。第一に、三方よしもCSRもどちらもビジネス主体を中心にした論理である、ということである。例えば、三方よしの主体は近江商人であり、近江商人(売り手)と小売商(買い手)および商圏(世間)の関係性という観点から述べられた概念であり、近江商人とは関係をもたないもの(例えば、当時の他の国の人々や社会)に対する善

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仏教とビジネス・エシックス:三方よしと陰徳善事

仏教とビジネス・エシックス:三方よしと陰徳善事

さて、仏教はビジネス・エシックスとどのように関係しているのであろうか。仏教の信仰を大切にしつつビジネスを行っていた人々が日本にはいる。それが近江商人と呼ばれる人々である。近江とは現在の滋賀県のあたりであり、近江商人はこの地域に本宅、本店を置き、他国に行商をしていた (青木, 2016)。近江商人の歴史は古く鎌倉時代までさかのぼることができ、江戸・明治・大正時代に主に活動していたと言われている (末

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仏教における空

仏教における空

前回のnoteでは、仏教が現世の本質を苦しみと煩悩と説き、煩悩があるから輪廻することを説明した。そして、煩悩を取り除くための方法論として四諦と八正道を説明し、煩悩を取り除いて解脱をすることができれば涅槃の境地に達することを説明した。

では具体的に煩悩を取り除くにはどのようにすればよいのか。煩悩は現世における執着や欲望であり、これらは「われが存す」という考えがあるからに他ならない。例えば、良い職業

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仏教における煩悩と輪廻

仏教における煩悩と輪廻

仏教はインドの古代宗教であるバラモン教、そしてその後発展したヒンドゥー教の後に誕生した宗教であり、バラモン教やヒンドゥー教の流れを汲んでいる宗教である。開祖はゴータマ=シッダルタであり、彼は紀元前565年から483年ごろに人物であると言われているが、その詳細の年月に関しては諸説ある状況である。彼はいわゆる王族の息子であり裕福な生活をしていたが、29歳の時に出家をして苦行を繰り返し、35歳で悟りを開

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正義論

正義論

ここでは、ロールズの正義論を取り上げる (Rawls 1971)。「正義」という言葉に対して、正義のヒーローのようなものをイメージする人もいるであろうが、ロールズの正義論では公正な分配に関する正義に焦点を当てている。よって、勧善懲悪的な正義の議論ではない点に注意する必要がある。

例えば、2019年のフォーブスの世界長者番付によれば、Amazon.com の創業者であるジェフ・ベゾズの資産は約1,

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義務論

義務論

義務論は、イマヌエル・カントによって示された規範理論であり、彼は人々の行動が道徳的であるか否かはその結果ではなく、その行動を起こす動機でもって決まるということを説いている。例えば、企業は社会的責任活動の一環として、コミュニティに対して寄付を行ったりしている。こうした活動を企業が自社のレピュテーションを向上させるために行っているのであれば、カントはそれを強く非難するであろう。レピュテーションを得られ

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功利主義

功利主義

もう一つの帰結主義の考え方は功利主義 (Utilitarianism) である。倫理的利己主義が個人の利益の最大化を推進したのに対し、功利主義では最大多数の最大幸福が行動の原理となる。より詳細に言えば、功利主義においては、ある行為が正しいと言えるのは、それが全ての人にとっての苦痛よりも快楽が最大化される場合であるとされる。この功利主義には大きく二つの考え方がある。一つ目は量的功利主義と呼ばれるもの

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