日本企業と主要なステイクホルダーの関係:従業員

日本企業にとって、従業員は最も重要なステイクホルダーであるとされてきた。例えば、伊丹 (2000, 59) は従業員主権という言葉を用い、企業はそこにコミットして長期間働く人々のものであり、彼らが企業のメインの「主権者」である、と述べている。また、日本的経営慣行も従業員を重視したものとなっていた。ここで、日本的経営慣行とは、年功序列制、終身雇用制、企業内労働組合を意味する。年功序列制とは、勤続年数、年齢などに応じて役職や賃金を上昇させる人事制度であり、終身雇用制は従業員が新卒で入社後に企業内で訓練を受け、退職まで同じ企業に勤め続ける、という労働慣行を意味する。また、企業別労働組合は企業ごとに常勤の従業員だけを組合員として組織する労働組合を意味し、産業別労働組合とは異なる形態の労働組合である (Abegglen 1958)。神林 (2016) によれば、終身雇用制にみられるような長期雇用慣行は、1980年代以降ほとんど変化がなく、年功賃金体系に関しては2000年代以降、年功を維持した事業所と平坦化させた事業所の二極化が進んだという。

このほか、日本企業は新卒一括採用企業による従業員の育成を通じて企業に長期的にコミットする従業員を育む一方、従業員に対しては手厚い福利厚生プログラムを提供している。一方、正規労働者と非正規労働者は区別され、正規労働者はコア従業員として企業内において重要な人的資源としてみなされてきた (谷本, 2014)。

このように、企業とコア従業員との間には、職の安全と十分な福利厚生プログラムなどを提供することの見返りとして、長期的に企業にコミットしてもらうという、という暗黙の期待が存在していたと言える。

References

Abegglen, J. C. (1958). The Japanese factory: Aspects of its social organization. Glencoe, Ill: Free Press.

伊丹敬之 (2000) 『日本型コーポレートガバナンス:従業員主権企業の論理と改革』日本経済新聞社.

神林龍 (2016) 「日本的雇用慣行の趨勢:サーベイ」『組織科学』50(2), 4-16.

谷本寛治 (2014)『日本企業のCSR経営』千倉書房.

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?