世馗

書きたいものを書く。

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最近の記事

【禍話リライト】嫁入りの山

昔からその山では『嫁入り』があるとされていた。 普通はそれが狐の嫁入りとかピュアなものかと思うけれど、"それ"は土着のマタギのような人たちの強い訛りと方言と符丁みたいなもので名前は聞き取れず、どういったモノなのかはわからない。獣か怪異か、それ以外か。ただ〇〇の嫁入りがあると言われていた。 それを見てしまうと良くないことや最悪死んだりするというありがちな展開ではあるものの、死因は一辺倒で”なにかに喉笛を噛み千切られる”のだという。だからそんな死体が見つかったら「ああ、こいつ〇〇

    • 【禍話リライト】どっちでもいいの

      就職に失敗にして地元の大分に帰った時の話。 ちょうどよく同級生のツテで仕事を紹介してもらえる流れになり、1ヶ月ばかり待ってくれということだったので貯めていたお金も少しばかりあったし、話がまとまるまで実家でのんびりと過ごすことにした。 しばらくぶりに帰った地元は時間の流れもあって所々様変わりしていて、家に面している大通りなども整備されて綺麗になっていた。九州では有名な量販店も近くに出来ている。道路も四車線になったり歩道橋も新しいものが建てられていたが、それにしても夜中に度々ク

      • 【禍話リライト】九死の夜

        それは博多で仕事があった夜の出来事だった。 博多という土地は酒も美味ければ食べ物も美味い。もちろんラーメンだって絶品だ。飲み会で満足するまで食って飲んで気持ち良く酔いが回り、そろそろ宿泊しているビジネスホテル戻ろうとしていた時ふとトイレに行きたくなった。 繁華街の道とはいえ、いま歩いているところはビルの隙間のひっそりとした人気のない区画でコンビニも近くに見当たらない。しかしホテルに着くまでの距離を我慢できる自信もない。どうしたものかと困ったまま進んでいると、前方に入り口に明

        • 【禍話リライト】山霊

          その山は標高が低く、少し頑張れば登頂できるような初心者向けであるにも拘わらず時々遭難が起きるような山だった。 小学生だった頃Aくんは山の近くの団地に住んでいたのだが、散歩好きが高じてあるおっちゃんと仲良くなっていた。おっちゃんはどこか味のある風貌をした人と話すのが好きな気の良い性格で、学者肌なのか早々に仕事を辞めてその山の動物や草木を調査して自己満足でどこだかに発表しているのだという。山の麓にあるうどん屋に大抵入り浸っているのはどうやら店主と同級生のようで、そこに毎日のように

        【禍話リライト】嫁入りの山

          【禍話リライト】死相の鏡

          『鏡の家』と呼称される家があった。 由来がどういったものか定かではないが、昔そこには祈祷するための場所があった。いまだにそういった風習が続いている地方もあるらしいが拝み屋である女性が独自にやっていたところで、短くも一代で終わってしまった。 その拝み屋がどうやら死ぬ前に何人かいるうちの内弟子の1人に変なことを言っていたという。死相というものがわからなかったけれどようやくわかった。いま私の顔に出ているものが最たる死相だから、有事の際にスケッチかなにかで映してほしいと。どうやら死

          【禍話リライト】死相の鏡

          【禍話リライト】井戸を潰した家

          大学に在学期間ギリギリでやっと卒業できた先輩がいて、所属していた体育会系のサークルでお祝いとして賑やかに酒盛りをしていた。 その先輩というのが話は面白いし人好きのする性格で飲み会などの集まりには必ずと言っていいほど来てくれるが、自分の家に絶対に人を呼ばないという1つの謎があった。そういった集まりがあればなんやかんや理由をつけたりして他人の家でやるようにしていた。 性格からして潔癖症というわけでもないし、1人暮らしと聞いていたので誰に気兼ねするわけでもないだろう。逆に男の1人暮

          【禍話リライト】井戸を潰した家

          【禍話リライト】クルクルパーの家

          兄妹か姉弟、どちらかの近親相姦の果てに生まれた双子がいた。そういった交わりで出来た子どもというのは先天的に病弱であったり身体的異常を持つことが多い傾向にあるが、その双子も精神面での異常を発露していた。その子らを閉じ込めていたという噂がある2階建ての家が、某避暑地の道も奥まったところにぽつりとある。 そこは昔からクルクルパーの家と呼ばれていた。2階の窓には鉄格子が嵌っていたのだろう跡がまざまざとあるが、どこにも上階へ行く階段が見当たらない。代わりにどこにでもあるような脚立が置い

          【禍話リライト】クルクルパーの家

          【禍話リライト】古新聞の家

          昔、田舎の誰も手をつけないような自然のままの小高い山を若い夫婦が買った。その土地の人間ではなく、誰も知らない都会から来た夫婦だった。大工をたくさん呼んで2階建ての家を建てたが、周辺の住民には挨拶ひとつもなかったという。まああんな辺鄙な場所に住もうとしているんだからどこか変な夫婦なのだろうと誰も気にしなかった。 ふ、と。道路を走っている引っ越しトラックの幌が風になびいていたのでなんとはなしに眺めていると、小学生の女の子が使うようなものが見える。あの夫婦には子どもがいるのかと思っ

          【禍話リライト】古新聞の家

          【禍話リライト】清酒の家

          交通事故で一家全員が亡くなった家がある。 その家は新築の綺麗なものなのだが売りにも更地にもされることもなく、逆に行くとマズいとされていた。といっても事故現場はその周辺でもない。幽霊と呼ばれるものは大概にして残留思念やその瞬間の思念がその場に焼きついてしまったもので、多くは死んだ場所に縛られてしまう。それなのに自宅に”出る”とされていたのは、その家族の思いが一番執着していた場所だったがゆえなのだろう。 その家がなぜそこまでいわくつきかと言うと、不動産屋か家主かが玄関前に清酒を

          【禍話リライト】清酒の家

          【禍話リライト】記録されていく死

          イトウさんには、ある嫌な思い出があった。 それというのも、大学のサークルで飲み会をしている際にオラオラ系の先輩がデスファイルのような実際の死体が映っているような作品を持ってきて見せてくる。皆で楽しく鍋を囲んでいるときにも面白がって見せてくる。昔は現在よりそういった規制も緩く、ネットを漁ればそこかしこに転がっているグロテスクな画像もスプラッターな動画もダウンロードすることが出来たもので、やれテロリストの処刑映像だの麻薬カルテルの拷問画像などを見せられてはやめるよう窘めるも素直

          【禍話リライト】記録されていく死

          【禍話リライト】Ⅳ階の娘

          「Aくんと君って同期だったよね?」 ある日、上司からそう話しかけられたのが事の発端だった。Aとは入社してからの同期ではあり仲は良かったものの、大企業で働いていれば配置替えで部署異動はザラだ。そうなれば忙しさの違いや残業などで疎遠になってしまうことも珍しくなく、会って話す機会も減っていった。風の噂でなにやら今の部署で頑張っていると聞いていたから、ひょっとしてけっこう出世でもしたのだろうか。そろそろ内示も決まる時期でもあるし冗談半分で「あいつ次の人事異動で良いところに行くんです

          【禍話リライト】Ⅳ階の娘

          【禍話リライト】頑張れ頑張れ

          そこは一見すると2階建ての普通の家だ。しかし周辺の住民は全員引っ越してしまい、誰1人いない。住みたいと思う人間もいない。 それというのも、ある事件が起こったのが発端だった。 昭和の折、その家には子どもが1人いた。息子なのか娘なのかは誰も知れない。というのも、今でこそ然るべき施設に入院しているような有様だったがゆえにほとんど外にも出されていなかったという。町内会の催し物があれば両親はきちんと出てくるが、「うちの子どもは……」と申し訳なさそうにしていたので、子どもがいることだけ

          【禍話リライト】頑張れ頑張れ

          【禍話リライト】イイエ

          1970年代の心霊ブームに漏れず、その学校でもこっくりさんが流行った。教師がやめろと注意してもやめず、照明がついているとバレるのでこっそり残って夜の校舎で行うことも多かったという。熱心が過ぎるともはや遊びというよりは儀式やサバトにも近い。その日も仲が良い女子4人組が帰宅するはずの踵を返し、ほとんど人がいなくなった校舎へと戻っていった。 電灯の消えた真っ暗な廊下を歩き、手探り状態で教室へと入る。まさか教師たちもこうまでしてこっくりさんをしているとは思わないのか、1週間ほど続け

          【禍話リライト】イイエ

          【禍話リライト】就寝の家

          ある日、新しく引っ越したからと大学の友人Aに誘われて、Aの家へ何人かで遊びに行くことになった。住宅が密集した道を抜けA宅を訪ねてみると、まるでお金持ちが住むような立派な家に迎えられた。 そこは近くに大型の商業施設があって、家を建てるにも抽選待ちやら順番待ちがあると噂に聞いていた。人気からしてまさに一等地と言っても過言ではない。そこにこんな良い居を構える、というのは並々ならぬ金が必要だったことだろう。まさかAがこんな家に引っ越していたとは思わず、興奮しつつAの自室を見回していた

          【禍話リライト】就寝の家

          【禍話リライト】いる

          九州にある大学の、とあるサークルであった話。 そのサークルには、いわゆる霊感少女がいた。といってもそっちの方向のサークルではなく、楽しく酒を呑んだりするがメインの健全な集まりだ。 ゲームやら音楽やら昨日見たバラエティ番組の話を皆で賑やかに話していても、その子はいつだって唐突にそういった話題を出してきた。普通だったらなんだこいつと面倒くさがられてハブられるものの、問題はその子の容姿がなかなか可愛いということだった。 なので下心丸出しの先輩が同意したり聞き返したりと構えば構うほ

          【禍話リライト】いる

          【禍話リライト】山の宴

          昔お付き合いしていた方が妹さんと個人塾に行った際に、そこの先生から聞いた話。 ようやく仕事も落ち着いてまとまった休みも取れ、久しぶりに帰省しようと列車に乗っていた。鉄オタまではいかないもののもとから列車が好きということに加え、その日は平日の空いている時期だったので、どうせならゆっくり鈍行で帰ろうとローカルな小旅行を満喫していた。 そうしていると、ある駅から偶然にも中学時代の仲の良かった同級生が乗ってきた。なんら変わっていない顔つきに笑いつつ、まさかこんなところで会うなんて

          【禍話リライト】山の宴