【禍話リライト】クルクルパーの家

兄妹か姉弟、どちらかの近親相姦の果てに生まれた双子がいた。そういった交わりで出来た子どもというのは先天的に病弱であったり身体的異常を持つことが多い傾向にあるが、その双子も精神面での異常を発露していた。その子らを閉じ込めていたという噂がある2階建ての家が、某避暑地の道も奥まったところにぽつりとある。
そこは昔からクルクルパーの家と呼ばれていた。2階の窓には鉄格子が嵌っていたのだろう跡がまざまざとあるが、どこにも上階へ行く階段が見当たらない。代わりにどこにでもあるような脚立が置いてあるが、肝試しに訪れた有志が持ってきたのかはたまた当時もそうやって上っていたのかは定かではない。
その家の両親はもともと金持ちであったらしく何人かで双子を世話していたのだが、双子もその世話人も揃っておかしくなってしまった。診察していた医者からなにから関わった人間全員が。理由はわからない。そこで狂ってしまった人間は証拠隠滅のために施設へバラバラに転院させられて、とうとう最後にはそこには空っぽになった家しか残らなかった。もはや荒れるに任せて朽ちていくばかりのそこへ行くと、誰が名付けたのか知れないが『クルクルパー』が出てくるのだという。

それがどういったモノなのか正体は誰の口からも語られたことはなかったが、そんな気の抜けたような名前をしているのなら大したことはないのだろう。たとえ頭がおかしい人間が出てきたとしても人数に頼れば殴るなりすればいい。俺らの絆があれば大丈夫だ。そんな無鉄砲で楽天的なグループ6、7人がその家へ肝試しに行った。
しかし大言壮語を吐いたとはいえ、怖いものは怖い。それで街頭の少なさを危惧したことを言い訳に夕方頃そこへ向かった。もし狂人がいても対抗できるようバットやメリケンサックといったものを装備して、酒を飲んだテンションで「もし向かって来てもこれで一発だぜ!」と盛り上がりながら。
そんなガラの悪いヤンキーのようなグループに1人だけ女の子がいた。といっても素行は普通の子だ。他の男連中ならまだしも、これからいくような場所へ無理に連れていくわけにはいかない。
「なあ、○○はどうする?」
「私は怖いから外に居るわ」
「おう。じゃあ車のエンジン掛けとくから。鍵掛けとけよ」
車が停めることができた場所から伸びに伸びた草をかき分けて10mほど。森の影に埋もれるように白塗りの建物があった。だんだんと日も暮れていく暗さにぼうっと浮かび上がるその家は、独特の威圧感を持ってそこに佇んでいた。
中へ入ってみるも長い年月のあいだに荒らされていてこれといったものは残っていない。目立だったものといえばホームレスが寝泊まりした形跡があったくらいだった。ぐるぐると周りを探索してみると、噂通り2階へ通じる階段はない。脚立もあるにはあったがボロボロになっていて、上ってもし壊れてしまって怪我を負ったら担がなくてはいけないだろう。足元も良くない上に車まで距離がある。どうしたものかと言いながら歩いていると向こうからガサガサと音がして。なんだなんだと驚きながらも身構えていると顔を出したのは車に残っていたはずの女の子で、あまりにも誰もいなすぎて1人がいる方が怖いから来てしまったという。
建物の中までは勇気がないからいけないけど遠巻きに見てるね、と言う女の子になにかあったら呼べよと告げて周囲を回ってみると2階の窓に聞いていた通りの鉄格子の跡が残っている。だとすればこの家に関わっていた全員が気が触れてしまったというのも信憑性がある。
しかし、精神を患っていた双子から狂気が伝染したというのはにわかには信じがたい。そういった迷信はあるかもしれないが全員がそうなってしまうなんて話に尾ひれがついたようにしか思えないが、1人がネットで調べるとこの場所が元々良くない場所だったという意見もあったのだと言う。
そのうちに先に歩いていた2人が大声で騒ぎ出し、走ってそこへ向かうと裏手に鳥居のようなものが見受けられて。積まれた石も祠も、古びてもなおそのままそこに残っていた。どう考えても地元の神社の敷地に無理やり家を建ててしまったのではと思うほどに唐突にそこに在る。
もしかしてなにかの宗教の施設だったものを空いていたからといって家にしてしまったのではないか。推理まがいの考察をしながら盛り上がっていると、正面で待っていたはずの女の子がなにやら大声で叫んでいる。

「帰ろうよ!!!帰ろうよおッ!!!!!」

その尋常ではない切迫した声音に只事ではないと慌てて全員で駆け寄ってどうしたんだと尋ねるも、女の子は帰ろう帰ろうとか細い声で繰り返してその場で吐いてしまった。先ほど行ったファミレスで食べたものを一切合切戻してしまっている様子に周囲は驚くも、その子は「ごめん、ごめん、でもやばい、うう、帰ろう、ねえ」と嘔吐きながらも恐怖のあまり後ずさりしていて。なにも起きていないはずなのにそこまでのリアクションをするなんて到底ありえない。
なにがなんだかわからないがまずい状況なのではないか。じわりとした恐ろしさを感じながら1番の力持ちが女の子をお姫様抱っこして力の限り走り出す。藪をかき分け草むらを踏み荒らしながら、背後から来るかもしれないなにかに怯えながら脱兎のごとく駆けていく。
ようやく人家の明かりが見えてくるような距離になってどうにか落ち着き、そのうちの1人が女の子に悪かったなと謝った。懐中電灯は男連中で全部持ってしまって携帯の明かりだけだったし、夜闇の中に聳える白塗りの家はともすればホラー映画に出てきそうな圧迫感さえある。そういうものに慣れていなければパニックを起こしかねないかもしれない。
しかし、自動販売機で買った水で胃液で焼けた喉を洗いながらも女の子は違う違うと呟く。裏手の神社が見つかったという声に全員が集まって向かっていくのを、なんとはなしに見ていたのだという。家は全部の扉が取り外されて吹き抜けになっていて、懐中電灯の明かりが移動すればどこに行ったかすぐにわかる。そうして全員が裏手に回ったと思ったら、ふと先ほどまでいなかった赤い人がいる。1階に全体的に赤い人型のようなモノが4、5人いるのだ。そんな理解不能な状況に恐怖のあまり叫ぶことも出来ず息を潜めてじっと見ていると、それらはふらふらと同じように裏手へと向かっていく。
その赤い人型たちはどうしてか普通に歩いてはいなかった。まるで時計の仕掛け人形のように2、3歩ほど歩いては、くるりと回る。スローモーションのように動きながらくるりくるりと回って近づいていく言い知れない気持ち悪さに、それらが全員追いついてしまったらまずいと察して大声で帰ろうと叫んだ。
よくわからないが吐いてしまって、吐きながらもずっと見ていると赤い人たちが家からまたぐるりぐるりと回りながら出てくる。どうにか担いでもらって逃げたはいいものの、それらは最後尾のすぐ背後にまでぐるぐるぐるぐると回りながら迫っていた。最初は2、3歩に1回だったものが、ずっとずっと回転しながら。
「あそこは駄目だよ……くるくる回りながら追いかけてくるんだもん……」
そこまで聞いてそこにいた全員が納得した。女の子が見た赤い人型がまさしく聞いていた『クルクルパー』と呼ばれるものなのだろう。どこかで伝え方を誤ってそう名付けられたそれは、いったいなんなのか。それはわからないし知りたくもない。ただ、絶対に良くないモノであることだけは判別できる。
それ以降、クルクルパーの家がどこにあるのかも行き方も誰に話されることはなく。どこかにまだその家は、ひっそりと存在している。



※本記事はフィアー飯によるツイキャス『禍話』シリーズの「震!禍話 第二夜」より一部抜粋し、文字化のため再構成したものです。(1:41:47ごろから)

https://twitcasting.tv/magabanasi/movie/435170385

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