山口純

デザインやモノを作ることの実践と理論的研究をしている。 博士論文「C.S.パースの記号…

山口純

デザインやモノを作ることの実践と理論的研究をしている。 博士論文「C.S.パースの記号論に基づく探究としての設計プロセスに関する研究」 共著「お金のために働く必要がなかったら、あなたは何をしますか?」(光文社)

最近の記事

島影圭佑さんと話した内容

今年の春くらいに京都のinta-netという場所で会ったデザイナーの島影圭佑さんへのコメントです。せっかくなのでノートに残しておきます。 上記リンクのような活動をしているということで、感想を求められて下記をか送りました。 上記コメントへの応答として、島影さんは、a「問題解決」、b「問題提起」、にたいするオルタナティブとしてc「問題の只中を生きる」という「臨床的」な態度がある、と整理しました。その後、京都芸術大学での島影さんのレクチャーを聞きに行き、下記の感想文をおくりまし

    • Conversations with Things: Prefigurative Design for a Post-anthropocentric and Post-capitalist Future

      モノとの対話:ポスト人間中心主義的でポスト資本主義的な未来のための予示的デザイン スイス建築博物館で2022年に開催された "MAKE DO WITH NOW: NEW DIRECTIONS IN JAPANESE ARCHITECTURE" 展の図録に寄稿した文章です。(個人的にWebに掲載するのは問題ないということでしたので許可を得て公開します。)下記、展示と図録のリンクです。  後日、日本語版も作ろうと思っていますが、とりあえず日本語の要約を書きます。  これまでの

      • リペアカフェと衣の自給

        都市の展覧会 for Cities Weekに、リペアカフェと、衣の自給にかんして出展した。 展覧会のテーマは「作品としての都市」。都市は、そこで生きる人たちが、生きることをとおして作っている。そういう意味での「作品」なのだと理解している。 作家の署名が刻まれ、その名前とともに歴史に残るような作品ではなく、ふつうは作品と呼ばれないような目立たない作品たち、控え目な作品たちに注目したい。そこには、家事としてなされる調理や掃除や洗濯や介護が含まれる。そして、数十年前まではその

        • 映画「東京自転車節」感想文

          妙に昭和風の主題歌がついていて、これがタイトルにもなっている。昭和の若者たちはよく、理不尽に当て所なく怒って暴力を振った。あるいは理屈っぽく空想的理想をかざして社会を批判した。しかし令和の若者たちはそんなことしない。今ある社会を否定することはもっとも忌み嫌われている。怒ってはいけない。上手くいかないことがあっても自己責任であり、決して社会のせいではない。現状を肯定し社会に感謝することが、真っ当な生き方であり、成功への道でもある。 そういう現代の規範に従って見せることを通して

        島影圭佑さんと話した内容

          資本主義なき経済学から、資本主義なき市場へ(ヤニス・ヴァルファキス)

          ヤニス・ヴァルファキスの下記の講演が面白かったのでノートを取った。 Yanis Varoufakis: From an Economics without Capitalism to Markets without Capitalism | DiEM25 https://m.youtube.com/watch?v=9aK4OztueuE 正確ではない意訳です。 ■経済学において多元主義が必要なわけ ・物理と経済は全く異なる。物理現象は理論の影響を受けないが、経済は経済理

          資本主義なき経済学から、資本主義なき市場へ(ヤニス・ヴァルファキス)

          市民や利用者だけでなく非ー人間の参加を通した温泉や地熱発電の協働的設計

          先日あったサイエンスアゴラというイベントでご一緒した鈴木杏奈さんが僕の発表を参照して文章を書いてくれました。 https://note.com/anna_suzuki/n/n4e5300ac2f69 ■美学、倫理学、論理学 設計における美学、倫理学、論理学の関係についての僕の考えを紹介しています。これは哲学者チャールズ・サンダース・パースの規範学normatice scienceの構想を発展させて設計の理論にしたものです。パースは論理学は倫理学に依存し、倫理学は美学に依存す

          市民や利用者だけでなく非ー人間の参加を通した温泉や地熱発電の協働的設計

          ブルーシートの服について(2)プラスチックの不二美

          ブルーシートでジャケットを作った話の続きです。写真はブルーシートの「トンビ」。ブルーシートのジャケットは役に立たない感じが良かったけれど、トンビだと雨具として役に立つ感じが出る。パターンは国会図書館デジタルで読める「大日本和田式洋服裁断書」より。この本はオカルト的な数字の扱いが面白い。 ブルーシートを扱うことは、その材料であるポリエチレンを含む、プラスチックというものについて考えるように促す。 子供のころの僕にとってプラスチックは、偽物の象徴だった気がする。割と素朴でプラ

          ブルーシートの服について(2)プラスチックの不二美

          Internet Archiveで読める洋服作り関連書籍

          服を作るのが好きで昔の資料を調べています。 国会図書館オンラインで読める洋服づくり関連書籍は別にまとめました。 https://note.com/hylozoic/n/n27336d3b978a/edit 以下はInternet Archiveで読めるものをまとめました。男性服メインです。発行年順です。 服飾史にかんしては素人ですのでコメントはただの感想です。しかしsack coatの形の変化、ノーテーションや製図の仕方の原理の変遷に関心があります。 The tay

          Internet Archiveで読める洋服作り関連書籍

          国立国会図書館オンラインで読める洋服づくり関連書籍

          服を作るのが好きで昔の資料を調べています。 Internet Archiveで読める洋服づくり関連書籍は別にまとめました。 https://note.com/hylozoic/n/n89e40972e224 以下は国会図書館オンラインで読めるものをまとめました。男性服メインです。発行年順です。 服飾史にかんしては素人ですのでコメントはただの感想です。しかし背広の形の変化、ノーテーションや製図の仕方の原理の変遷に関心があります。特に日本においては日本人の体型や着心地の好

          国立国会図書館オンラインで読める洋服づくり関連書籍

          モンペについて

          モンペの制作の依頼を受けた。フリーのパターンを探して国会図書館デジタルでモンペを検索すると、裁縫書のほか、民俗学の本、「集団勤労作業」や「防空」の本などがみつかる。こうした本で解説されるモンペは、現代のモンペとは異なり、袴に似た直線的なパターンを持っている。現代のモンペの多くはズボンに似た曲線的なパターンをもっている。どうも戦時中ファッション性の観点から見た目をよくするためにズボン型のモンペが広まったようだ。袴型のモンペに改良を加えたものを制作したので、それについてのべる。

          モンペについて

          直線的なパターンの服

          概要最近つくった和服生地の服の紹介。京都では和服生地が安く手に入る。そこで、和服生地を直線的に裁断して作る服を考案した。この記事ではそれに関連するトピックをいくつかのべる。西洋のシャツも昔は直線的なパターンだった。日本では明治以降、和服と洋服の折衷が試みるなかで「改良服」として直線的なパターンの洋服が考案された。西洋でも20世紀初頭にはモダニストたちが直線的なパターンの洋服を新しくデザインした。今日、生地の無駄がでないゼロウェイストファッションに注目が集まっている。そのほか、

          直線的なパターンの服

          スーツの制作

          なぜ作るか私は建築を主とした設計の研究をしているけれど、モノを作ること全般に関心がある。建築の研究に進んだのは、他のモノより建物が好きだからではなくて、建築というのが最も包括的な仕方でモノづくりを扱っていると考えたからだった。今ではこの考えには問題があるとも思っている。変なヒエラルキーが持ち込まれてしまう。 人が作ったモノを見るだけではなくて、自分で作ることによって分かることがある。いろいろなモノを実際に作ってみながら、作ることについて考えたい。特に衣食住は生活に必須のもの

          スーツの制作

          ティモシー・モートン「ウイルスとの共生に感謝」およびに「これは私の美しい生命圏ではない」の感想

          ウイルスとの共生に感謝ウイルスに関するティモシー・モートンの論考 "Thank Virus for Symbiosis”にかんする日本語の記事を読んだ。 引用されている文章。 生とは両義的なものなのです。ラテン語hostisは、主人、客人、友人、敵を意味します。したがって『歓待(hospitality)』とは、あなたがドアを開く相手は殺人鬼かもしれないということを意味しています。私は死にたいとは思わないし、このウイルスによって誰にも死んでほしくないです。しかしここで私は

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          ブルーシートの服について(1):非礼拝的なオーラ

          先日書いたSFの題材、ブルーシートの服ついての長い解説です。同様なブルーシートのジャケットのビスポーク受け付けます。あなたの年収の1/300以上、一万円以上の任意の値段をいただきます。 なんでそんなものを作っているのか?もともと友人がブルーシートが好きだという話をしていて、面白いなと思ったのがきっかけです。僕はブルーシートが好きではない。多くの人はブルーシートが嫌いだろう。日本の景観を害している。ブルーシートが無ければ、日本の田園風景はもうちょっと美しくなるだろう。 ブ

          ブルーシートの服について(1):非礼拝的なオーラ

          対話としての設計

          2020年度の建築学会の大会は中止みたいだ。去年は投稿するのを忘れた。その投稿を忘れて出来なかった発表の梗概。 1.研究の背景と目的  建築の設計プロセスは「問題解決」としてではなく、人間や人間以外の存在との間の「対話」を通した「探究」として見される(山口・門内2014; 山口)。前者の見方を「問題解決としての設計」と呼ぶとする。そこでは所与の認知的・価値的な枠組みのなかで、固定的な問題設定がなされることが想定される。後者の見方を「対話による設計」と呼ぶとする。そこでは他者

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          良い空気を吸うために会う

          この機会に、わざわざ人と集まったり会ったりしに行く理由について考えてみました。 ■惰性で集まっていた? これまでわざわざ出勤したり通学したりしていたのは、ただの惰性だったかもしれない。個人の惰性ではなく社会システムの保守的な性質という意味で。これまで人と会ったり集まったりしていた機会の多くは、技術的には無しですませることができたのだし、今後は無しで済ませたらよいと言うべきなのだろうか。 大学は今年度の春学期はオンライン授業というところも多いだろう。普通の講義、講師が話して

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