ガイト

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もう一つ 表現技法

「なにも話さないんだな。」 永遠に続いているような野原の空気が不意に揺れる。 「…逆に何か話して欲しいんですか?」 「断じてない。だが、『ここはどこなんだ』とか『貴方は何者だ』とかをよく聞かれるからな。」 「…大体想像がつくじゃないですか、こんな場所。聞くのは無粋かと。」 一つ沈黙が起きる。 「お前友達いないだろ。」 「…いや、いたんだと思います。多分。」 「多分か。」 沈黙がこんなに耳障りになったのは初めてだった。  人と仲良くなる方法がわからなかった。幼少期は意識をしな

    • 昇華・凝固

      『残された実験施設。金縛り。異常洪水。雀と女が死ぬ雨。謎の女。飛行船』  意識がはっきりしない中、急いでメモ帳に書いた。5時22分。起きるには早すぎるが、30分後に起きる自信もない。青だったはずの毛羽立ったタオルケットを蹴り上げ、ベットをみしっと鳴らしながら体を起こす。それだけで息が切れた。深呼吸が必要だった。けれど少しうれしかった。 『残された実験施設。金縛り。異常洪水。雀と女が死ぬ雨。謎の女。飛行船』  18時40分。帰りの歩道橋でメモ帳を開くと殴り書きでそう書いてあっ

      • 見栄え

         タバコの煙が宙に舞う。  居酒屋の入り口前にある灰皿の前には私しかいなかった。店内の笑い声がここにも届く。木製フレームの引き戸ガラスから覗く。店内の奥にある小上がりで私の向かいにいた人が口を大きく開け笑っている。へそが斜め向かいにいる私の同僚の子に向いている。腰を上げずに体を向けたのか、座布団が散らかっている。今回も面白くなることは無い。このまま帰ってしまおうか。そう思ってもコンビニに支払うものがあると言って出てきたため、財布とボックスの8ミリしか持ってきていない。ハンドバ

        • 202号室

           真ん中に寝転がる。天井には丸い日焼けが存在している。冷たさが背中から頭に届く。こんなに冷たかったのか。カーペットが一面にあったから気づかなかった。四肢を投げ出す。何にもぶつかることなく大の字になる。こんなに広かったのか。ベットや棚があったから気づかなかった。フローリングは一部が窪んでいる。この部屋の床は柔らかかった様だ。  私は今日、この部屋を出ていく。 「あーーーー!!」  少し響んだ(どよんだ)部屋。部屋に沈む私。こんなに響くのか。ものが多くて気づかなかった。自分の

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        もう一つ 表現技法

          結婚は唯一選べる家族

          わたしはおとうさんとおかあさんのような記号になりたくありません。  小学2年の授業参観。作文発表で私の読み出しに、教室全体にそよ風の通る音が響いたことを覚えている。それが両親を慕わない餓鬼への称賛の音だったのか、それとも「きごう」という言葉による思考のエラー音だったのかはわからない。ただ、教壇の女性教師が目を見開いていたため、とてもレアなことだったのだろうと思っている。両親はいなかった。 おとうさんとおかあさんは、ときどきけんかをします。なんでけんかしているかは分かりませ

          結婚は唯一選べる家族

          感情

          ごめん。君に記号をつけたくないんだ。

          なぞなぞ

          とっさに僕に言った。 「もんだいです」 「え、何?いきなり」 「もんだいです」 うんとは言えない。その言葉に意思を感じた。 「きみはきみでも食べられないきみは?」 みみを疑った。 とっぴょうしも無く出た言葉 いだいたと思った意思は間違いだったようだ。 「たくさんあるなぁ。でも多分、きみ、だよ」 「いや、どういう意味?」 やはりか。 いつもの問答だ。 るいは友を呼ぶと思っていたがここまで回り諄いとは。 「とうぜんだろ?」 「きみにはわかっていても、私には伝わらないよ」 「はあ。

          なぞなぞ

           深夜。金曜日が土曜日になろうとする。夏の鬱陶しい日和も影を潜め、扇風機も自分の出番は終わったかのように部屋の片隅に佇んでいる。  私は久方ぶりに缶チューハイを買った。薄手のジップパーカーを着てバイト先から帰るいつもの道からはみ出したのだ。  閉店間際のキンキンに冷えたスーパーは煌々としながらも何故か淋しさを纏っていた。だだっ広いフロアに惣菜を選ぶサラリーマンと長い夏休みにも終わりを感じだした大学生集団、そしていそいそと締め作業に精を出す店員の5人が疎らに動いていたからだろ

          無言

          「ごめん」なんて言うなら。「いいかな?」なんて言わないでよ。 「しょうがないね」なんていうなら。「いいよ」なんて言うなよ。 「ありがとう」なんていうなら。あの時に安堵で涙なんか流さないでよ。 「私は大丈夫」なんていうなら。あの時になんとも言えない笑顔なんて見せるなよ。 「楽しかったよ」なんていうなら。いろんな場所に連れまわさないでよ。 「私も」なんて言うなら。自分から写真に誘ってくるなよ。 「またね」なんていうなら。鍵を置いていかないでよ。 「またね」なんていうなら。見送りな

          日常

           1人暮らしを始めると家族、特に母親の偉大さが身に染みる。  それは食事の時に感じるのではない。食事なんざは外に行けばいくらでも並べてある。たまにの調理なら気分転換にもなる。割高の金額を支払えば玄関を開けるだけで手に入る。それは洗濯の時に感じるものではない。確かに溜めてしまえば億劫になることはある。しかし洗濯機に押し込みボタンを押すことが出来ればそれで終いだ。初期投資を多めに行えば、干す作業もいらなくなる。体裁や皺を見ないようにすれば畳むこともしなくて済む。それは掃除の時に感

          クラスメイト

           野口美咲が死んだ。  僕がそれを聞いたのは、青空眩しい7月の朝だった。特別関わりがあったわけでは無い。せいぜい、日直が被った時に数回言葉をかわした程度だ。しかし、クラスメイトの1人がいなくなったことにはネガティブな感情を持ったようだ。よかった。  彼女は決して活発なタイプではなかった。けれど独特な空気を纏っていた。友達も特別多くはなかった。けれど、彼女と関わる人間はとても笑顔だった。  彼女は特別美人ではなかった。けれど、化粧っ気の無い肌に無垢な笑顔を持っていた。恐らく好

          クラスメイト

          サボテン

          「結構大事に育てたんだけどな笑」  火曜日の夜。床に落ちた鉢の破片を拾いながら、そんなことを呟いた。  進学を機に上京してから八年。特段不便なことがなかったため、引っ越すこともなくこの八畳一間に住み続けている。さすがに変化がないことが辛くなった私は、気持ちを紛らわすために植物を育て始めた。一応植物だったため窓際の棚に置いていたのだが、月の明かりが鬱陶しくカーテンを閉めるときに引っかかったようだ。落ちたものに触れる。親指の腹に違和感を感じた。見ると、針が刺さっていた。抜く。指か

          サボテン

          表現技法

          「暇だな。何か話をしよう。」  だだっ広い野原。モヤのため周りは全く見えない。所々に白い花が咲いていることだけが目視できる情報だ。 「結構だ。別にお前と話すために歩いている訳じゃない。」 「そうだな…。これは僕が10年前くらいに知り合いから聞いた話だが」 「だから、いらないといっているだろ。」 「君に『聞いてくれ』とも言っていないだろ。」 「ったく……。」  これは僕が10年前くらいに知り合いから聞いた話だが、その知り合いを高橋と名付けようか。その人には立花という

          表現技法

          かたつむり

           捕手のグラブから白球が溢れる。それをただ見つめるだけだった。怒号の様に聞こえる歓声と沈黙。そこで僕の記憶は途切れた。  最後の大会が終わって3日が経った。新チームは既に動き出し秋の大会に向けてしごいている、と僕の代のキャプテンが言っていた。 「やっぱお前すごいな。」 そんな返信をベッドの上から送り携帯を置く。なにか通知音がしたが無視しよう。  水が道路に打ち付けられる音で目が覚める。今日は1日雨だと天気お姉さんが笑顔で言う。朝食を口に運びながら真顔で聞き流す。  なんの

          かたつむり

          社会適合者

           昼休みの屋上。着けていたマスクを外し、ポケットから出したタバコに火をつける。元々、マスクは嫌いだ。しかし、最近は新型のウイルスのせいでマスクをつけることが当たり前とされるようになった。もしつけていなければ、周りの人から軽蔑の眼差しが与えられる。僕にとっては生き地獄といえる。そんな地獄から唯一免れられるのがこの時間だ。しかし、デスクに上着を置いてきたのは間違いだった。風が少し冷たい。  最近、上司が不機嫌なことが多い。業績があまり良くないのだろう。そのせいか、俺へのあたりが

          社会適合者

          恋愛は甘酸っぱい。それは恋愛してない奴が言うことだ。

           口が開かなくなった。大きな事故に遭ったのだ。幸い今は命に別状はない。少し間違えればここには居られなかっただろう。でも僕はそれをラッキーだったとは思えなかった。こんな経験しなければ気づかないで生きていけたのに。  人に口なんか要らないって気づかずに。  それだったらいっそのこと死んでしまえばよかった。いや、殺してくれればよかったのに。  見当違いだった。私ならどうにか出来ると思ってた。君と一緒に居られると思ってた。けど君は私の言葉を聞かず、君を貶すあの人の言葉を信じたね。私

          恋愛は甘酸っぱい。それは恋愛してない奴が言うことだ。