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表現技法

「暇だな。何か話をしよう。」
 だだっ広い野原。モヤのため周りは全く見えない。所々に白い花が咲いていることだけが目視できる情報だ。

「結構だ。別にお前と話すために歩いている訳じゃない。」

「そうだな…。これは僕が10年前くらいに知り合いから聞いた話だが」

「だから、いらないといっているだろ。」

「君に『聞いてくれ』とも言っていないだろ。」

「ったく……。」


 これは僕が10年前くらいに知り合いから聞いた話だが、その知り合いを高橋と名付けようか。その人には立花という男のクラスメイトがいた。特に何があったわけではないが、席が近かったため接する機会が多く、その上元々お互い友人を多く作る性ではないため2人で行動することが多くなった。
 半年以上の時間がすぎた時、その日々に変化が生じた。ある日から立花がクラスの中心となっている香月という奴と多く行動することが増えたのだ。昼休みや放課後はそいつに呼ばれて他数人と共に教室から出て行く。それと対応して高橋は1人になった。別に1人を嫌うことはなかったが、やはり少し寂しかった。休み時間に立花に聞くと「趣味が合う」ということで仲良くなったらしい。しかし、お世辞にも社交的とは言えない立花が趣味が合う程度でいきなりクラスの中心人物と行動するまでになるだろうか。あまりにもそれに至るプロセスが無さすぎる。高橋たちの関係もやっと一般的にいう関係になってきたのに。なんの趣味か聞いたが、なぜか曖昧な返事で濁された。気心も知り、立花の趣味もある程度知っているのにはっきり言ってはくれなかった。僕は非常に気になったが、あまり詮索するのも忍びないとそれ以上は聞かなかった。
 すると1ヶ月後、立花は学校に来なくなった。心配になった高橋は担任に何かあったのか聞いたが、一身上の都合だと言われてそれ以上は教えてくれなかった。立花に連絡しようにも生憎、連絡先を交換していなかったためその道も途絶えた。
 そんな時、香月達の言葉が耳に入った。
「思いの外早かったな。」
 その時、今までの全てが繋がった。全部が納得いった。立花を救わないといけない。しかし、高橋には学校内に会話をする人はいない。教師ともさほど仲良くしていない。その上、クラスの中心に盾つけるほどの勇気も無かった。正直八方塞がりだった。でも、立花を救いたい。そうなった時に僕が考えられることは1つしかなかった。

 3日後、僕は屋上に彼を呼び出した。
「来てくれてありがとう。」
「別にいいんだけどさ。どうしたんだい?いきなり呼び出して。」
「僕は彼を救いたいと思っている。」
「彼。それは誰だい?」
「彼を救うために僕は一生懸命に考えた。けれど、僕にできることはこれしかないと思った。」
「だから、彼って誰だい?手を貸したいが対象がわからないと貸しようがないよ。」
「手を貸してもらう必要はないよ。僕1人でどうにかなりそうだから。」
「じゃあ、なんで呼び出したんだい?意味がわからない。」
 高橋はその答えに応答することはなく、少しずつ彼に近づく。彼は高橋に不気味さを感じたのか、後退りを始める。高橋は止まらない。どんどん進んで、彼は遂に手摺りに手をついた。その瞬間、彼の身体は宙に舞った。手摺りが脆くなっていたのだ。
 10分後、警察や救急車が校庭に集まる。午後の授業は無くなり早く帰ることになった。高橋は達成感に満ち溢れていた。


「…これがお前が経験したことか。」
「お、聞いてくれたのかい。嬉しいよ。」
「俺の質問に答えろ。」
「何を言っているんだい?聞いた話だと最初に言っただろう。」
「確かにお前は聞いた話だと言っていた。それなら、高橋という奴のことは『高橋』ないしは『彼』と言われるだろう。しかし、お前は後半になるにつれ『僕』と言っていた。お前の一人称も『僕』だしな」
「僕が高橋に感情移入してしまったとは考えなかったのかい?」
「確かにそれもあるな。しかし、このようなことを否定する時は、否定するだけで終わるはずだ。他の選択肢を出すようなことはしない。つまり、俺が言ったことから少しでも離れようとしているのではないか?図星だったが故に。」
「…君は友達がいないだろ?」
「さあな。そんな言葉で表したことが無いからわからない。」
 すると、野原が途切れ川が見えてきた。目の前には橋が一本掛けられている。
「よし、着いた。」
「これを渡るのかい?」
「お前がな。」
「君は行かないのかい?」
「俺はただの案内人。ここまでが俺の仕事だ。」
「そうか。僕はどちらに行くのかな?」
「さあな。お前がどんな人生を送ってきたかによるからな。」
「なら、明るい方に行くだろうな。」
「人を殺したのにか?」
「彼を救うためにやったことだ。立花を救うために僕は立花を殺した。評価されるべきだろ。」
「…お前にとって立花はどんな奴だったんだ?」
「それはもちろん」

      かけがえのない友達だよ

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