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2022年「エシカル、レスポンシブル消費」に見えるもの(後編):〜「ブーム」と向き合い、ムーブメントを構想する〜

わたしたちImpact HUB Tokyoは「日常をどうレスポンシブルに生きるか」という問いに向き合うために、この1-2年、数々の仮説検証を重ねてきました。

 
Imapct HUB Tokyoは、起業家のコミュニティとコワーキングスペースとして10年間、社会へのインパクトや働くこと、そして日々の暮らしとの接点に関わってきました。そんな中で、日々の選択に自覚的になり、時には問いを立て、自由であることを大切にし、より人生を自分らしいものとして生きるためのキッカケとしてエシカル・レスポンシブル消費にまつわる取り組みに関心を持つようになりました。
 
⇨ 前編はこちら

 
今回の記事では、前回に引き続き、エシカル・レスポンシブル消費をテーマにしているコミュニティと関わり始めて考えたことをまとめました。
 

「仕組み化」に昇華するための「主語」

これまで私たちImpact HUB Tokyoが出会ってきた起業家たちの中には、自身の事業のしくみを通して環境や人権、社会問題にアプローチしようとしている人がたくさんいました。そのような人たちは、ビジネスとしての発展性やブランディングを意識しながら製品やサービスを製作・提供し、そのバランスをとっています。
 
彼らの場合、活動の理由や目的の出自は自分自身や過去の経験が背景にあることが多いものの、ビジネスモデルの形成やブランディングにおける言語化では、その語り方を切り替えています。
主語はチームや集団、もしくは特定の対象となっていることが多く、対象となるユーザーの生活の変化、市場の変容、行動変容を目的とした発信の仕方を取る人が多く見られます。
 
この「語り方の変化」は、「仕組み化」のプロセスの一つの特徴かもしれません。活動の軸が自分の生活やライフスタイルがレスポンシブルであることになっている、というだけでなく、ビジネスや団体としてレスポンシブルな事業に取り組んでいる、という状況へと変わっていきます。

 

ブームとどう向き合うか、ビジネス戦略の多様さ

 
SDGsやエシカル・レスポンシブル消費が未曾有のブームとなっていることについて、それを追い風と捉えるか脅威やノイズと捉えるかは、この分野の人たちにとってそれぞれの戦略次第になってきていました。
 
例えば、競合が今までにない勢いで増加しています。それによる競争の増加や投資や人材などのリソースの確保に一定の心配は残ります。大資本も投入されてきました。
ですがその一方で、私たちが関わりを持った実践者たちの中にはバリューチェーンの拡充や市場の醸成を歓迎する人が多く見受けられました。この機会をビジネスチャンスとして捉え、事業の拡大を視野に入れてクラウドファンディングや投資の投入、差別化戦略などに力を入れる起業家もいました。
 
一方で、マスに伝えていかねばならないために、事業としてある程度のわかりやすさや割り切りをしなければならなかったり、「大義名分」を語り強調することを市場が求めていると感じ、それを意識した活動にしたりすることで当事者性が薄まってきている、という指摘も聞かれました。

逆に、自らの問題意識を基軸にし立ち位置を変えない、と決めている方も多くいました。持続的な経済性のためにビジネスの視点を取り入れつつ、構造的な変革を目的とする人たちです。こういうタイプの実践者たちは、急な拡大や成長を求めるよりも、SNSや対面イベントなどでの機会を生かして着々と顧客との接点を増やしていました。
こうして自分の問題意識と重なる「個人」たちと出会いながら、その人たちに提供するべき価値やターゲット設定を調整して、売上を上げようとしている人もいるのです。
 
ここまで観察してきた私たちは、起業家たちの性格や個性や信条によってとるべき戦略も変わってくる事業のあり方について、非常に興味深いと感じました。


 

共通する問いとは?

 
ここまで観察してきて、多様な戦略やその活動の形態やビジネスのフェーズ、志向性には幅が見られたのですが実は、ある一定の共通点がありました。
 
やはり、エシカル・レスポンシブル消費の分野は新興市場です。まだ、ビジネスや消費者を取り囲む「言説」も作られつつある発展途上であるからこそ、共通する問いがこんな風に浮き彫りになりました。

 

1. 横のつながり、しかも深いつながりはまだ希薄?


同業者という点では、インスタグラムやSNSで繋がっている人たちは多々います。一定のネットワーキングやコミュニティ、クラスターのようなものは形成されつつあるようです。
 
でも、お互いの事業における「WHY(なぜこの活動をしているのか、なぜ自分なのかという『なぜ』の部分)」や原体験、エシカルやレスポンシブルに対する想いや社会性について、言語化しあったり、壁打ちしあったり、ストーリーを共有できる機会や場がまだ足りない。そう強く感じました。
 
コラボレーションの機会があったとしても、コミュニケーションはビジネス上の情報や戦略に止まっている様子。損得や利益を抜きにして、お互いの想いやビジョンに共感した上での自然発生的で有機的なパートナーシップやコラボレーションの創出は、まだまだ、これからの様子でした。
 

2. コラボ相手を信じられるか?グリーンウォッシングへの危機感はまだ低い


日本各地、主に都市部で大企業主導のさまざまなポップアップ企画や展示、イベントなどが開催されています。しかし、その中にはエシカルやレスポンシブルというテーマには沿わない経歴や実態を持つ企業や組織が、不都合な部分を隠したり、よく見せようとして主催をしているパターンもあります。いわゆる「グリーンウォッシング」です。
 
このような企画に出店経験のある実践者に話を聞きましたが、企画が発表された後に自身のブランディングとの齟齬に気がつく場合や、もしくはこの問題に全く気づいていないケースもある様子です。
 
これは社会性とビジネス性を兼ね備える事業を行う上でかなりの死活問題です。実践者が日頃から発信する社会的なメッセージやブランディング、そして信条や思想を毀損しかねないため、コラボレーションやパートナーシップ、共催を行う相手がどのような人物、企業、団体であるのかということに対しては、まさに、エシカル・レスポンシブル消費の現場にいるからこそ、より詳細な調査を行う必要があるように思えます。
ここに思いが至りにくいという理由の一つとして、欧米や日本の一部の界隈でも認識されている「グリーンウォッシング」に対する認識や危機感がまだ醸成されていない、という点が見えてきました。
 

3. タコツボ化に陥っているのかもしれない?


これは、エシカル・レスポンシブル消費に関わる実践者たち自身が、社会運動として環境、人権、社会問題に繋がれていない、つまり、理論や知識、批判に接続できていないからではないか、という仮説をImpact HUB Tokyoチームは持っています。また、グローバルに席巻している運動とも繋る機会が少ないことも、何らかの関係があると感じています。
 
エシカル・レスポンシブルの定義も「十人十色で一人一派」として広がりを見せ、また、個人の問題意識や経験が起点になっているのが現状。
 
それゆえ、批判が発生しにくい、言説に繋がりづらい、社会的に構造を揺るがすムーブメントや社会全体を変えていくソーシャル・イノベーションへと繋がっていきにくい。信頼を構築し、連帯を帯びた運動へと昇華していくための知識の共有もされにくい。全体的に個人同士がタコツボ化してしまっているのかもしれません。
 
わたしたちImpact HUB Tokyoは、「循環経済(サーキュラーエコノミー)」の効率性についてもリサーチをしてきましたが、このタコツボ化は一つの大きな課題です。
 
 

4. やっぱり「ジェンダー格差」が出るのはなぜか?


そしてもう一つ、Impact HUB Tokyoチームが気になって仕方なかったこと。それは、実践者においてもその活動のターゲット層においても、ジェンダーの不均衡が存在しているということです。
 
個人でのプロジェクトや副業としての活動は女性が多く、また、消費側においても顧客となる人は女性、特に子育て世代やその手前の世代の女性が主要な消費者となっています。これは私たちが開催したマルシェやポップアップでも非常に顕著に見られました。外部のイベントでも同様の傾向が見られるそうです。
一方で、ビジネスとしてエシカル・レスポンシブル消費に取り組むことを念頭に置いている、もしくはビジネス化を積極的に狙う活動は、男性に多く見受けられました。私たちも決して男女の二項で括りたくないものの、やはりその差は色々なところで観察され、アンバランスなジェンダー構造があると言えると感じました。
 
そもそも起業全般においてもジェンダーでのギャップは大きく見られますが、この界隈においてもその差が顕著のようです。エシカルやレスポンシブルな生活がビジネスの力を通して広がり、次第に仕組みが作られていくとするのであれば、このままの状態だと「システムを構築するのは男性」で、それを「消費者として利用するのは女性が多い」という不均衡な構図がこの業界や市場においても続く可能性があり、危機感を抱いています。
 

私たちの今後のクエスト(探究)と仮説検証は・・・

 
エシカル・レスポンシブル消費とは、「環境、社会、人に配慮した消費行動」のこと。これまで環境問題やゼロウェイスト、アニマルライツに関する取り組みの実践者には多く出会えましたが、まだ、人に関連するテーマ(ジェンダー不平等、貧困、労働、障がいなど)に向き合う実践者たちと出会えていません。
それを今後は増やしていきたいと思います。
 
また、上にあげた「共通する問い」として、「つながり?」「グリーンウォッシュ?」「タコツボ化?」「ジェンダー不均衡?」などのクエスチョニングを、私たちはもう少しもがき続けて、観察とアクションを続けていきたいと思います。
 
それらの考察や学びは私たちが実施するマルシェやイベントや様々な起業家プログラムなどに反映され、仮説検証されていきます。また引き続き、力のある限り、発信していきますので、みなさんからのいろんなお話・コメント・フィードバック・応援・叱咤激励いただきながら、仮説検証していきます。
 
 
 



この記事を書いた人たち
執筆:Kody


編集:槌屋詩野



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