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サーキュラーエコノミーと6つの資本:槌屋詩野さんが考えるエコノミーの本質


経済には、お金という価値だけではなく、他にも様々な種類の価値があるのではないでしょうか。

サーキュラーエコノミーつまりは「循環」を実現するために持続可能性を持たせて経済を回すにはどうしたらよいのか。そもそもエコノミーとは何か?ソーシャルビジネス、コミュニティビジネスのあり方とは。

Impact HUB Tokyo(以下IHT)代表の槌屋詩野さんより、Leaning Studioという勉強会でこれから事業を始める人向けにエコノミーについての考えをシェアしていただきました。


「エコノミー=お金」だけじゃない

ソーシャルビジネス、コミュニティビジネスや、SDGsに関係する事業を起こす時に、想いはあっても、お金にならないから諦めるというのは、非常によくある話だと想います。私からすると、想いがあって、他に誰もやっていないならやるべきだし、ファーストエントリーが取れる可能性があるので、戦略方法を考えるのですよね。現在お金になっていないところを、ハックするからこそ面白いと思っているんです。今日お話しすることも今すぐはピンとこないし目の前のビジネスには使えないかもしれない。でも、今知っておくとあとで花開く可能性があるかもしれないので、みなさんに種まきができたらと思っています。

いきなりギリシャ哲学に入りますが、実はエコノミーって、オイコノミクスという、古代ギリシャの哲学者達が言っていたものから来ています。家政論というのがあったんです。オイコスというのが家で、ノモスというのが法律、ルールです。家政というのは家庭の管理、運営をすることを言っていました。家の中の管理と家の外の管理で分けていたんです。

さらにジェンダー的な話をすると、家の中の管理は女、家の外の管理は男、だったのがギリシャの考え方です。要は外で、例えば戦争、体外的、敵との交渉と書いてありますけど、それ以外にも例えば狩猟、狩りをして持ってくるとかもそうですね。

一方で、家の中の管理、つまり現代的に言えば家事、は女というのがギリシャ時代からありました。一見、男女に関するステレオタイプがあるように見えますね。
ただ、家庭の管理において一番重要とされていたのが「適材適所」の考え方。女は様々な人モノ金の資源を適材適所に配置することが役割だったのです。外から男たちがとってきた獲物を腐らないように処理し保管し在庫を計算して、余らせないように有効活用する。男は調達、女はマネジメントでした。オイコノミクスで扱うのは全然お金だけじゃないですよね。様々な物資を循環することでした。つまり循環というのは、「家の外から持ち込まれたものを家の中で加工したり消費して外に出すという」1つの結束点として行われていたのです。こう考えた時、オイコノミクスと聞いて、エコノミー=お金っと想い浮かべますか?

「サーキュラーエコノミー」とは資本が形や価値を変えて巡ること

本来サーキュラーエコノミーというのは、お金だけじゃなくて様々な資源が回ることをいうんですよね。みなさん、エコノミーはお金と思うかもしれないですが、お金って本当に沢山の要素のうちの1部分しか見えていない話だと思っています。最近、言説としては7つや8つなどどんどん増えていっていますが、世の中には6つの資本があると言っている人達がいます。

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社会的資本は比較的皆さん体感しやすいので、日常用語の中でもでてきますが、お金の資本は、金融資本なんです。他にも知識、アイデアなどの知的本、それから人的資本もあります。起業家は社会的資本にかなり頼って事業をしています。彼らは普通の生活をしている人よりもさらに、社会的資本(つまり関係性の資本)を取りに行こうとする。そのため起業家は人の集まる場所に行き、人と繋がるということに投資をします。だから、起業家は必然的に集まる性質を持っていて、コワーキングスペースや起業家のイベントや起業家が集まるメディアやオンラインサロンなどが経済合理性にかなうのです。皆さんの事業や考えている事業を、6つの資本から見ていくと、見え方が変わるのではないでしょうか。


——事業によってもどこにフォーカスをあてていくかというのも難しいですよね。

例えばIHTは、東京のど真ん中にあったので、自然資本に対する接点が非常に少なかったんです。実はこの6つ資本をファウンダーの2人で計測している時期がずっとありました。そこで気づいたのが、実は運営しているチーム(社員)は、必ずしも金銭的資本をもらったからといって、嬉しいわけではないということなんです。それよりここで働くということで色々の人と接続できるという社会的資本があることだったりことだったり、もしくは自然へのアクセスがあるとか、そういうことのほうが価値になっているかもしれない。だからすべてをお金に換算しても、実はあまり人は幸せにならないということを、私達は体感をもって知っています。先程の自然資本に関しては、会社と作った拠点の位置を移すのは、それこそ金銭的資本が必要になるのでやめて、ファウンダーである私達が勝手に自然に近いのほうに行ってしまったということで移住したんです。

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——そうですね。確かに。そういう生き方もありますよね

会社の経営として、各人が好きな自然資本を取りに行くというのを許容する文化資本もあると思うんです。そう考えると、エコノミーってワクワクしませんか?

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エコシステム全体の取引量をどうやって増やせるかを考える

みなさん「とはいえお金は?」という悩みがあるかと思うのです。そういう時に見逃されている知的資本が実は蓄積しているかもしれませんし、それを金銭的資本に変えていくこともできると思っています。ソーシャルビジネス、コミュニティビジネスの相談を受ける時に出てくるのが、ノウハウが溜まっているから、知的資本をなんとかして金銭的資本に替えられないの?という話なのです。他にこのノウハウを持ちたいと思っている人がいたら、教えられたり、副産物産業が始まるんですよね。そうすると、メインのところではなかなかお金を稼げなくても、知的部分や人的資本のスキルを売るとか、何らかの形で金銭的資本と交換していっても、本体のところは毀損しないビジネス設計はできるんです。
また、この6つの資本の戦略思考が頭に入っていると、実は他の人と交渉する時に役立つ可能性があります。例えば、ロンドンのImpact HUBは、不動産業者と物凄く良い賃貸条件をもって取引をしていたりします。その時の彼らの交渉の仕方は、地域の治安を良くするという心理的な安全という資本だったのですが、 文化を作る役割を我々が担うよ、という資本も本来ものすごい価値だと想いますね。
色々な資本に転換して説明をしていくだけで、こんなにもビジネスは回るようになるんだなと思ったんですよね。皆さんにお勧めしたい考え方です。

——サーキュラーエコノミーにもあてはまりますよね。

サーキュラーエコノミーとは、資本を回すことだと思うんですよね。例えばアップサイクルというのも、製造資本で出てきた廃棄されたみたいなものを、どう他の資源に替えていくかとかという話だと思うんですよね。例えば、金銭的資本として価値があったものが知的資本に変わる時、「取引」が発生します。このように異なる資本の形から異なる資本の形へ、転換することが「取引」です。そういった「取引」の数をどれだけ増やすかというのが、実はサーキュラーエコノミーとしては重要なんじゃないかなと。

想いだけでユーザーエクスペリエンスを全く無視したものは金銭的資本に交換してもらえないというのはあると思いますね。要は取引量を増やそうとすると戦略が必要となるんですよね。自分の会社だけの取引量を増やすんじゃなくて、私はエコシステム全体の取引量をどうやって増やせるか、ということをサーキュラーエコノミーでは考えるんです。自然を観察して頂くとわかると思うのですが、物凄い量の取引が目に見えない勢いで行われています。ミツバチから花へ、花から何へ、みたいな形で。豊かな自然、というのは生物多様性の量が多いことであると考えた時、豊潤な自然の状態ってこの取引量が多い状態なんだと思います。

——取引が発生するという単語が結構出てきたと思うのですが、結果的に、価値は、同じ場所に留まっていても意味が無いのかなと思いました。移動が発生しないと結局価値にならないのではと想いました。

まさにそうですね。先程のオイコノミクスの適材適所の話のように、加工しないと食べられない、他の調味料とくっつけないとダメとか、そういうことだと思うんですよね。投資家の人は、これが結構わかるのです。金銭的資本を1つのところにずっと置いておいてもダメだとわかっているから、動かしながら利ザヤを取っていくのが彼らの考え方ですが、常に変化させる状態をどれだけ作れるのかが難しいんですよね。人は変化を嫌うもので、できれば落ち着いていたいという本能があるからなのですが、変化させないと取引量も増えないし、新しい組み合わせも増えていかないのですよね。
だからそのためには、例えば私は、IHTでコミュニティ・ビルダーにどんな知的資本を投入しようかと考えるわけですね。すると5年後、金銭的、社会的資本を生み出してくれるかもしれないと、先に投資をするわけです。会社1つの中でもそうなのですが、複数の会社が一緒にコラボレーションをしたり、会社と自然がどういう関係性を持つかというのも、変化させたり投資したり、そこで収穫したものをどう次の投入に活かすか繰り返しをしているのです。

——今後どんなエコノミーや価値交換を作っていきたいと考えていますか?

実は、IHTを立ち上げた際、東京というロケーションに物凄く縛られる事業を始めてしまったなと思っていたんですね。でも最近移住をしたり、他の拠点のエコノミーであったり、特にその拠点の社会的資本を増幅させることに関わるようになってから、拠点を繋いで資本がまた動いていくという在り方をどう作れるかということを考えるようになりました。マイクロエコノミー、マイクロのサーキュラーのシステムと、大きなサーキュラーのシステムをデザインをどう両方できるか、かつマイクロのシステムが犠牲にならないように。例えば目黒というエコシステムと、私の住んでいる長野のエコシステムと、それから〇〇のエコシステムと、全てフラットに繋がりながら、様々な価値が交換されるようなものはあり得るのか?とかですね。
私たちは今回こうやって人々のラーニング(学習)を多拠点で接続するという仕組みを「ラーニングスタジオ」というプロジェクトでつくりだしてみたら、皆さんの知的資本、人的資本、社会的資本がどう増えたり減ったり移動したりするかというのを、長期的なスパンで、若干実験しているところがあると思っています。複数拠点から集まって、社会的資本を増築できるのか、やはり対面じゃないと増築できないのか、できるとしたら、それはどういうことがきっかけになり、その資本が動き出すのか、その資本が動く代わりに他のものが何が動いていくのかとかですね。

——なるほど。最後に、槌屋詩野さんの考える「事業」とはどういうものなのか教えてください。

プロジェクトは仮説検証し続けるもの

ビジネス、とは英語では「営み」という意味です。だから、ビジネスというのは本来行為の連続だと思っていて、多数の取引行為の総和、集合体でしかないという認識を持っています。私の中で事業は様々な取引を仮説検証するプロジェクトだと思っているんです。なので事業構築していく時は、こんな取引・こんな価値の交換・こんな資本の転換が増えるといいなというという、基本的に何らかのザクっとしたコンセプトをまず自分たちの頭の中に持っていますね。例えば自然価値がこうなればいいなとか、それが起きるための様々な線を、誰を巻き込めば実現できるかとか、どこからお金を持ってきて回るようにするかとか、仮説検証し続けている印象があります。

——なるほど。逆の方向から見ると人々の行為の連続性が統合するとか、あまりにも少ないとか、偏っているとか、ペースが遅すぎるだったり、そういうものは事業として成り立たないというのは、この行為が少ないということですよね。

そうです。かつ、一つ一つの行為に介入したり、作為的にデザインしようとしすぎるのもダメですよね。自然の行為というか取引が沢山発生する状態になっていかないと自立した事業にならない。自走するといいますか、持続可能にならないんです。


——ありがとうございます。6つの資本の考えをもとに、今後、事業を行う方も、すこし考え方を変えて、エコノミーについて考えられるきっかけになりました。


次回もテーマにそって問いを投げかけ、
深掘りしていきます。 お楽しみに。

新しい学びのプラットフォーム 
Leaning Studio




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