見出し画像

日常をどうレスポンシブルに暮らすか?という問いに向き合う

「レスポンシブルな衣食住文化」の作り手を伴走支援する独自のキュレーションプロジェクト「レスポンシブル・アトリエ」を新たに立ち上げたImpact HUB Tokyo(以下、IHT)。このプロジェクトにはどのような想いや構想があるのか?代表の槌屋詩野さん(Shino)と企画担当の三塩佑子さん(Yuko)にお話を伺いました。

名称未設定のデザイン


古いものを直しながら使い続けることが「心地よい」

ー テーマである「レスポンシブル」には環境や社会、人権に対して責任を担うことが意味合いとして込められていますが、お二人がレスポンシブルであることについて考えるようになったキッカケはなんでしょうか?

Yuko:最近特によく考えるのは環境や循環についてですね。私がベルリンに住んでいた時には、日常生活の中でレスポンシブルであるという価値観が当たり前のようにありました。例えばカフェでアルバイトをしていた時に、お客さんがタンブラーとして空いたジャム瓶を持ってくることがよくあったんです。可愛いからという理由でタンブラーを買うのではなく、すでにある身の回りのものを普通に使っている姿に衝撃を受けました。コーヒーの残りカスをコミュニティガーデンの肥料に使っていたりもしましたね。
そういう場所で暮らしていたので日本に帰国してから、どう日常的に環境のことを考えて生きることができるのかということを考えていました。過剰包装やプラスチックゴミも多いし、生ゴミも分別しないなど、生活ベースで疑問を感じていたのです。

Shino:欧州での生活は、基本的に新しいものを作るというよりは古いものを直して生きていくことが多いよね。私も欧州で暮らしているうちに、新しいものに囲まれて生きることが「心地よくない」という認識に変わったなと思います。そんなときに出会ったのが、いまのImpact HUB Tokyoがある印刷工場跡地でした。リノベーションのコストを抑えるために色々な場所からセカンドハンドの家具を揃えていたし、自分たちでDIY家具も作りました。
だからこそ今になっても、どんどん家具を解体して新しい家具に変身させられるし、コミュニティのニーズに合わせたスペースのアップデートも容易に実験できる。この場所ができたときから積み重ねてきた小さな決断や選択が、大量生産・大量消費とは逆をいっていたと思います。

画像3


ー そのようなお二人の原体験があって、そこからどのようにプロジェクトとして展開していったのでしょうか。何か疑問や問いのようなものがあったのでしょうか?

Shino:数年前からサーキュラーエコノミー(循環型経済)をテーマにした学びのプロジェクトを開発していたり、日頃から大量生産や大量消費にアンチテーゼを唱えていたりとさまざまな布石はありましたが、強く感じていたのは「日常をどうレスポンシブルに生きるか」の難しさです。レスポンシブルな暮らしは急に「取り組む」ものでもないし、「SDGs云々だからやらねば」と言われてやるものでもないと思っていたので。

Yuko:私はレスポンシブルとされるものはなぜか値段が高いのが疑問でした。

Shino:日本にあるレスポンシブル系ブランドはプレミアム商品や高額製品として売り出しているものが多い印象ですが、それだと日常使いではなくなってしまうんですよね。ファッションだけでなく、食べ物でもそう。レスポンシブルな商品は高額であることがほとんどです。
ふとパッケージの裏を見ると「あ、これってレスポンシブルな製品だったんだ」ってようやく気がつくレベルまで日常化していない。そういう社会を目指すためにも、まずは数を増やす必要があると思っています。生産者や流通する人などが増え、業界でクライテリアが確立して、消費者側も見る目を持つようになるまでレベルを上げていきたいと思っています。


レスポンシブル・アトリエはあくまでもプロセスの一部

ー 「日常化」ということはイベントやポップアップストアという枠組みを超えて、さらに大きなプロジェクトとして捉えているのでしょうか?

Shino:レスポンシブル・アトリエについてはあくまでプロセスの一部だと思っています。今はイベントという形であり、正直なところまだまだ日常化には届いていません。なのでどう日常に持っていくかというのが大きな課題です。

Yuko:エシカルやオーガニック、フェアトレードといったコンセプトが普及してきて、実際に商品やサービスを扱ったお店は増えてきていますよね。そして業界としても売れ行きが良いからどんどん投資が入るようにもなってきている。しかしまだまだ最初に話していたような、「レスポンシブルな日常」ではないと思っています。なぜかというと、プロダクトが増えたとしても消費者と売り手の関係性は何も変わっていないからです。ただレスポンシブルなモノを見せつけるだけではダメなんだろうなと思います。

Shino:私は肌が弱かったので、イギリスにいた時でも自分に合ったオーガニックの製品を探さなくてはならなかったのですが、家の近くの薬局で普通に売っていたんですよ。でも日本だと、百貨店やセレクトショップに行かないといけない。そして勝手に、プレミアムな商品として売られてしまっている。そこにカットインしていくためには、消費者と売り手を直接繋げるという行為が必要なのかもしれないと思っています。つまりは、流通の仕組みにもアプローチしていくことになるのかもしれません。

Yuko:そうなるとイベントのみならず、ゆくゆくはImpact HUB Tokyoの中で店舗のような機能を持ったスペースが必要になるかもしれないですね。そこに今後の方向性のヒントがあるのかも?

Shino:レスポンシブル・アトリエはキュレーションの経験を積んでいくための一歩だと思っています。一品一品をセレクトしながらその生産者とつながり、そして卸していくのを試していけるのではないかと。

Yuko:コミュニティ・ビルダーとしては、個人ベースでレスポンシブルな商品やサービスを作っている人たちの想いを大切に、そして持続可能なビジネスとして展開していけるように伴走していきたいと思っています。

Shino:なぜ今の日本ではレスポンシブルな暮らしを日常化するのが難しいのか?というのをどんどん因数分解して、リサーチしていく必要もありますね。レスポンシブル・アトリエでイベントやポップアップストアを展開していきつつ、「衣食住の文化」の担い手たちを伴走し、いろいろな視点や業界、関わり方で議論を生んでいきたい。ただお店を作るだけでは足りないと思うのです。そういった意味でもやはりこのプロジェクトはずっと続いていくリサーチプロジェクトなんだと思います。

画像4


ソーシャルビジネスとエクスタシーの落とし穴

ー レスポンシブルというテーマを扱うにあたって、気を付けていることはなんでしょうか?

Yuko:いま実施しているサーキュラーエコノミーをテーマにした学びのプログラムでは「自分を主語にして語る」ことを主軸にしています。それはどうしても環境問題や社会問題がテーマになると大きな話になってしまうから。本来は「自分はどうしたらいいのか」という問いのように、自分が主語にならないと日常ベースで広がらないと思っています。なのでどこかの大きな企業がSDGsに取り組む、というだけだと主語が自分にならないまま広がって行ってしまう気がしているんです。

Shino:私も今までのキャリアでソーシャルビジネスの支援に携わってきましたが、国際援助や環境問題、人権問題など、どのようなものをテーマにしていても大義名分化してしまうというマジックがあると感じてきました。つまりは「自分は社会的なことをやっているからいいでしょ?すごいでしょ?」という認識。ある一種のエクスタシーを感じる部分だと思います。しかしそれは、日々の生活の中で粛々と何かを成し遂げていくことにはあまり関係しない部分なので、気をつける必要がありますよね。


循環である限り「解決」という終点はない

ー お二人の話を聞いていると、「変わる」ということが一つのキーワードのように感じています。「日常をレスポンシブルにする」ことと「変化」にはどのような関係性があるのでしょうか?

Shino:昔、サステナビリティに関するリーダーシップ研修があり、世界中からリーダーたちが集まっており、そこに一人のお坊さんがいました。その人は「多くの起業家たちは何かを解決しようとする。だが仏教では、世の中は諸行無常であって、すべてのものは常に変わり続け、やがて終わりを迎える。だからサステナビリティは、「アンサステナブルだ」と言っていました。
私はこれを聞いてそこに本質があるなと思いました。この矛盾の中で私たちはどう生きていくか?それを考えるとやはり、日常というものがテーマとして戻ってくる気がします。つまり変わらないのは、「どういうインプットを日常的に行うかによって人は変わる」ということ
インプットから導き出されたアウトプット同士の連鎖反応がこの社会全体のシステムを作っているのだとしたら、どう日々のインプットを変えるのかが重要になってきます。次第に循環しながら質や量、割合の変化が変わり新しい均衡が生まれる。スパッと問題を解決できないのだから、日々のインプットを少しずつ変えていくしかないのだと思います。

Yuko:問題解決型の思考がもう古くなってきているのですね。もっとアジャイルに向き合うこと、そしてノンリニアな思考がこの複雑化した世界では必要になってくると思います。そういう点での一つのアプローチはやはり、日常をどう変えていくかなのでしょう。



なぜこのプロジェクトが立ち上がり、そしてどのような構想があるのか?その想いを取材してみたところ、このプロジェクトは私たちの日常生活に問いを立てる、一種のリサーチプロジェクトであることが分かりました。今後のプロジェクトの進展や気づき、生まれた議論などについてもまたこの場で記事にして発信していく予定です。どうぞ、ご期待ください。


7/18(日)に第二回目を迎えるレスポンシブル・アトリエ。テーマは「ヴィーガンと未来のレザー」です。「日常をどうレスポンシブルに生きるか」という問いを胸にこれからもImpact HUB Tokyoの挑戦は続きます。

イベントの詳細は以下のページをご覧ください。




この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?