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早期離職率は何%が適切なのか

こんにちは。WorkTech研究所の友部です。人事領域でよくモニタリングされるKPI(重要業績評価指標)の一つに、離職率(退職率)があります。退職率が人事や経営に頻繁に参照される理由は、以下の三つがあるでしょう。

  1. データの収集が容易である。

  2. 結果指標として活用しやすい。

  3. 会社の状態を視覚的に理解しやすい。

では、実際にKPIとして退職率を活用するとき、一体何%が適切なのでしょうか。

適切な退職率は会社や事業のフェーズによって変わる

退職率を数字として算出すると、「この退職率をどうやって下げるか」が反射的に頭に浮かんでしまいます。会社や組織における適切な退職率がどれくらいか、というのが無いと、とりあえず退職率は低いほうが良さそうだ、という思考になってしまいます。

退職率があまりにも高すぎる場合には、人の入れ替わりが激しくなり会社や事業活動を維持するには多くの採用が必要となります。採用コストの観点からも、退職率は高すぎることは望ましくありません。

一方で、「退職率は0%が適切である」かというと必ずしもそうとは言い切れません。会社の視点では適切な入れ替わりが必要なこともありますし、働くひと自身の視点でもキャリアステップを踏むために適切なタイミングで退職する、ということは重要だと思います。もちろん、こういった入れ替わりやキャリアステップが必要ないこともあると思うので、その場合には退職率が0%になったほうがよいと思います。会社や組織のフェーズによって適切な退職率は変わりうる、ということになります。

また、適切な退職率は、業界や地域、企業の文化や採用戦略などによっても大きく変わると考えられます。例えば、高度なスキルや専門知識を必要とする業界では、低い退職率(例えば5%以下)が求められることが多いです。なぜなら、スキルや知識を持つ従業員が流出すると、その再獲得が困難で高コストになるからです。一方で、一般的に高い従業員の流動性が見られる業界では、高い退職率(20%以上)でも問題ないと考えられることもあります。

重要なのは、定期的に退職率を測定し、その傾向を把握し、必要に応じて人事戦略を調整することです。また、退職率がどれくらいだと人の入れ替えがどれくらい起こるのか、など予め想定を立てておくことも重要でしょう。

こちらのnoteでは、退職率が15%だったときどれくらい入れ替わりが起こるのか、5%ではどれくらい入れ替わりが起こるのか、シミュレーションしているのでご覧いただけると幸いです。

ざっくりした試算ではありますが、退職率15%だと5年で半分が入れ替わる、5%だと約1/4が入れ替わる、となります。会社や事業の状況、急成長フェーズであれば採用コストがかかるので退職率はなるべく抑えたいですし、変化フェーズであれば適切な入れ替わりを期待するのである程度の退職率は許容する、なんてことがあるかと思います。

退職率はセグメントに分けて追う

現在の会社や事業のフェーズによって、特定の従業員の退職は会社や事業に大きな影響を及ぼす可能性があります。そのため、これらの人々の状況を適切に理解し、対応するためには、退職率をセグメント別にモニタリングすることが有効です。セグメントは職種や役割、成長ポテンシャルいろいろな観点で軸を切ることができます。

特定の役職やスキルを持つ人々の流出がビジネスに大きな影響を及ぼす可能性がある場合、そのセグメントの退職率をモニタリングすることも重要です。そういった従業員へのサポートや育成プログラムを改善することで、会社や事業全体の安定性を保つことができます。

また、新入社員や、管理職、上級管理職の退職率をそれぞれモニタリングすることで、問題が発生しているセグメントの特定ができます。そこから具体的な人事戦略への落とし込みや、課題解決のアクションに役立ちます。

どういったセグメントの退職率が低いのか、それがどれくらい重要な課題なのか、きちんと切り分けて考えられるとよいでしょう。

では、ここからはセグメント分けした中で新入社員、特に中途入社の新入社員を例に上げて退職率を考えていきます。

新入社員の早期離職率は低くあって欲しい

入社一定期間以内に会社を辞めてしまう早期離職は、少なければ少ないほどいい、と考えています。特に採用プロセスを経て中途で入社された方が、短期間(1年以内)で離職する、というのは会社にとっても本人にとってもあまりうれしいことではない、と思います。

離職の背後には様々な事情があり、その一部は「避けられない」ものとして捉えられます。たとえ長期間在籍していた従業員であっても、会社の方向性が変わったり、従業員自身のキャリアビジョンが変化したりすると、そのギャップが退職のきっかけとなることもあります。一方、早期離職の要因には「避けられない」ものは存在しないと思っています。したがって、早期離職率は低ければ低いほど良いと考えられ、最終的に「0%」に近づくことが、会社にとっても新入社員にとっても良いこととなります。

早期離職の主な要因

早期離職の主な要因は、大きく分けると以下の2つになると考えています。

  • 採用のミスマッチ

  • オンボーディングプロセスのミス

採用のミスマッチ」は、採用時の判断誤りや人材要件の定義不足、役割の期待と実際の間に生じる乖離など、様々な状況で発生します。特に、明確な人事戦略が欠けている状態で採用を進めると、人材要件が不明確となり、ミスマッチが生じる可能性が高まります。

一方、採用時に適切なマッチングを果たしたにも関わらず、オンボーディングが不十分で退職に至るケースもあります。新入社員が業務について必要な情報を十分に得られなかったり、初期のトレーニングが不十分であったり、上司や所属組織のサポートが不足していたりすると、オンボーディングの不備が早期離職を引き起こす可能性があります。

この観点で早期離職の簡単なモデルを作ってみます。

早期離職のモデル

「採用のミスマッチ」「オンボーディングのミス」に着目して早期離職率を算出しようとすると、以下のようなモデルで考えるとよいでしょう。

早期離職は、「入社から一定期間内に離職すること」とすると早期離職率は「採用した社員数」に対する「入社一定期間以内に離職した社員数」の割合、ということになります。さらに、早期離職の主な2つの要因をベースに考えると、

  • 「採用した社員数」は、「マッチした採用数+ミスマッチな採用数」

  • 「離職した社員数」は「オンボーディングミスによる離職数+ミスマッチによる離職数」

に分解することができます。

早期離職率を要因により分解する

早期離職の要因である「オンボーディングミスによる離職」と「採用のミスマッチ」をそれぞれ改善することにより、「③ミスマッチ採用数」と「④オンボーディングミスによる離職数」は0に近づきます。

早期離職の要因をなくしていく

ここで、「③ミスマッチ採用数」が減るとミスマッチ採用による入社者が減っていくので、「⑤採用ミスマッチによる離職数」が減っていきます。

③が減れば⑤採用ミスマッチによる離職数も減る

結果、分子である「④オンボーディングミスによる離職数」と「⑤採用ミスマッチによる離職数」が0に近づいていくので、「早期離職率」は0に近づく、ということになります。

早期離職率は0に近づく

早期離職が発生した際、その原因が「採用のミスマッチ」か「オンボーディングの失敗」かを特定することは重要です。これにより、採用プロセスの改善や組織上の課題解決に具体的な対策を立てることが可能となります。

他のセグメントでも同様に退職率を設定する

今回、私たちは早期離職に焦点を当てて退職率のターゲットを特定しましたが、他のセグメントに対しても同様に設定することが可能です。モデルはさらに複雑になるかもしれませんが、想定する退職率を決定することは重要となります。

退職率は人事データ分析における重要な指標であり、様々な軸でセグメンテーションを行い、課題が何かを深掘りすることが可能です。さらに、数年後の従業員数を予測し、それが企業の現状に対して理想的なものかどうかを検討することも有意義かもしれません。

退職率に関する分析を通じて得られた気づきは、より具体的な人事戦略の策定に役立つでしょう。セグメントごとの課題を明らかにすることで、経営や人事・各部門が適切に行動し、その結果として退職率を低下させることができます。また、退職率をただ単に数字として見るのではなく、その背後にある事情や影響を理解し、それに基づいて改善策を導入することで、組織環境は改善し、パフォーマンスやエンゲージメントを高めることができるでしょう。

今回のnoteでは、適切な退職率は何かについて触れさせていただきました。セグメントごとに退職率を設定し直す作業は複雑かもしれませんが、採用プロセスの改善や組織の課題解決には重要だと考えています。今後も、人事データの利用、人事関連の指標開発、分析のアプローチなどについて、WorkTech研究所へのご相談や記事へのリクエストがございましたら、遠慮なくお申し付けください!
最後までお読みいただき、誠にありがとうございました。

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