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退職率15%の世界

こんにちは、HRMOS WorkTech研究所の友部です。今回は皆さんが特に気になっている人事のテーマである「退職」、特に「退職率」の話をします。

人事データの中でも、比較的算出しやすく、かつキャッチーな指標である退職率。人事の課題やデータ活用を考えるキッカケにもなる指標で、可視化することで戦々恐々となります。

ただ、退職率を出してみたものの、それが良いのか悪いのか、退職率の絶対値を見てもよくわからないまま右往左往することもあります。一年前や二年前と比較したり、部署間や職種間で比較するなど、何かの基準がないと読み取るのが難しいですよね。

世の中の一般的な退職率ではないですが、厚生労働省の雇用統計によると、日本の平均離職率は14.2%(令和2年)だそうです。このnoteでは説明をわかりやすくするため、「離職率」も「退職率」、という呼び方をさせていただきます。また、この後の退職率の計算は、「ISO30414」の離職率の計算式に則ったものとします。

とはいえ、やはり退職率14.2%と言われてもピンとしません・・・。そこで、今回はそんな退職率をどう読むか、ごくごく簡単な計算をしてイメージできるようなお話をします。

退職率を直感的に考える

平均離職率14.2%、といいつつ数字が中途半端なので一旦キリのいい15%としましょう。退職率が15%と言われて、どのような想像をするでしょうか。

直感的に高いと感じるか、低いと感じるか。従業員が1,000人いたらそのうち150人が一年で退職する、と考えるとちょっと多い気がする・・・など、いろいろあるかと思います。

では、退職率15%の世界を考えるために今回はごくごく簡単な計算をします。従業員数が1,000人の会社で退職率が15%でそれが続く場合、その後どうなっているか、というお話です。なおこの計算では、退職率は15%で固定、従業員数は1,000人を維持する、つまり毎年150人程度退職するが採用担当者が頑張ってくれて毎年150人程度入社する、としています。

退職率15%の世界では5年で初期メンバーの半数が入れ替わる

計算開始時の1,000人に注目してみましょう。退職率15%だと1年後にそこから150人、2年後には残った850人中の15%である約127人(累計277人)が退職します。退職者数は3年後は108人、4年後は92人、5年後は78人となり、5年累計で555人が退職することになります。退職率15%の世界では、5年で今いる従業員の半数が入れ替わる、ということです。

退職率15%の世界

これを悪いとするのか良いとするのかは、業種や業態にもよると思います。事業形態が安定していて比較的長期間働いてもらうことを前提とする会社であれば5年で人が入れ替わってしまうのは由々しき事態です。一方で、事業の変動性が高く流動性の高い業種では、適切な新陳代謝が起こっていると判断する場合もあるでしょう。

ちなみに、最初にいた1,000人の在籍期間の平均を取ると6.62年※になります(※在籍期間を最大30年とする)。これも長いとみるか短いとみるか、は業種・業態によるでしょう。

余談ですが、前回のnoteで書いたELTV(従業員生涯価値)の算出にこの在籍期間の平均が使えると考えています。ELTVについて詳しくは以下のnoteを御覧ください。

退職率5%の世界では5年経っても初期メンバーの77%残っている

では、退職率15%の比較として退職率5%の世界を考えてみます。こちらも同様にスタート時点では従業員数は1,000人、退職率は5%で固定です。従業員数を1,000人に維持するため、毎年退職と同数の50人採用することとします。

こちらも同様に計算開始時の1,000人に注目してみましょう。退職率5%だと1年後にそこから50人、2年後には残った950人中の15%である約47人(累計98人)が退職します。退職者数は3年後は45人、4年後は43人、5年後は41人となり、5年累計で226人が退職することになります。退職率5%の世界では、5年たっても初期メンバーの約77%が残っています

先程の15%の世界と比べれば確かに沢山の従業員が残ってくれていますが、これも同様多いとみるか少ないとみるかは会社によると思います。

ちなみに、最初にいた1,000人の在籍期間の平均を取ると15.71年※となります(※こちらも同様に最大在籍期間を30年とする)。退職率15%の世界の6.62年と比べると格段に長い気がします。これは退職率5%の世界では最大在籍期間の30年後まで約23%の従業員が残っており、その影響があるためです(退職率15%の世界では30年後残っている初期メンバーは1%に満たない)。

ごくごく簡単な計算ですが、退職率が15%あるいは5%だったときにどういう状況になるのかちょっとだけ見えた気がします。

セグメントに分けて退職率を考える

ここまでの計算は、あくまで「退職率が固定である」とおいたものです。しかし、ご存知のとおり現実世界はではそう単純なものではありません。
上記の計算では、退職率15%固定という仮定において「どの従業員も退職する確率は15%である」としています。実際には、業務内容によって辞めやすい/辞めづらい状況があったり、エンゲージメントの状態によっても退職する確率が変わります。
つまり、従業員のセグメント(ある属性に基づくグループ分け)ごとに退職率は異なる、と考えたほうが良さそうです。

従業員のセグメントごとに退職率に影響がありそうな観点の一つに、やはり「エンゲージメントの高さ」があると思います。エンゲージメントが高ければ退職率は低くなりますし、逆にエンゲージメントが低ければ退職率は高くなる可能性があります。(エンゲージメントとは何かについてはまたどこかで詳細を書けたらと思います。)

そこで、従業員のセグメントを「エンゲージメントが高いセグメント」「エンゲージメントが低いセグメント」に分け、それぞれのセグメントの退職率を固定としてみます。

  • エンゲージメントの高いセグメント:退職率5%

  • エンゲージメントの低いセグメント:退職率25%

そのうえで、従業員数は1,000人でエンゲージメントの高い人と低い人が、それぞれ500人いるとします。(初期の退職率は平均を取ればいいので15%となります。)

初期メンバーの退職率は年々下がっていく

その前提で、初期メンバー1,000人について計算をしてみましょう。
1年後は全体の退職率は15%となりますが、2年目は13.9%、3年目は12.7%、・・・と初期メンバーの退職率は年々下がっていきます。これは、エンゲージメントの低いセグメントは退職率が高いため辞める従業員が多く、初期メンバーの中ではエンゲージメントが高い従業員の割合が年々増え、全体の退職率としては徐々に下がっていくことになります。

各セグメントの従業員数と平均退職率

ということは、何もしなくても退職率が下がって改善されていってるようにも見えますが、そういうわけではありません。以下のようなことに気をつける必要があります。

  • エンゲージメント高い従業員のエンゲージメントを下げないようにする

  • エンゲージメント低い従業員のエンゲージメントも上げる

  • 入社者の定着率を上げる

当たり前ですが、エンゲージメントが高い人がずっと高いわけではありません。何年も経てば会社を取り巻く外部環境も変わりますし、従業員のライフステージも変わり、会社に期待するものが変わったり働き方にも変化が出てきます。今エンゲージメントが高かったとしても、きちんとケアして引き続きパフォーマンスを出してもらうことが必要です。

もちろん、今エンゲージメントが低い従業員の方々へのケアも必要でしょう。なぜエンゲージメントが低いのか、課題を抽出して対応できるような人事施策を講じてエンゲージメントを上げていくこともできればやりたいです。こうしたエンゲージメントの状態を計測するために、パルスサーベイは有効な武器だと思います。

今いる従業員の話だけではなく、新しく入ってくる従業員にも注意しなければなりません。今いる従業員の退職率が下がったとしても、会社の活動を維持するためには入社者の補充が必要になるでしょう。しかし、せっかく入社してくれた従業員の定着率が低ければ、結局退職率は高いままになってしまいます。

となると、入社者の定着が重要になります。特に、入社直後のオンボーディングが重要で、スムーズに会社に馴染みパフォーマンスを発揮してもらえるることを期待します。今いる従業員のエンゲージメントを維持して・高めて退職率を低減させるだけではなく、入社者の定着率をKPIとして状況を把握する、ということもできます。

結局は「退職のあるべき姿」が大事

・・・とここまでセグメントに分けた退職率について説明してきましたが、実際にはもっと複雑なセグメントになります。

結局は「退職のあるべき姿」が大事になります。以下のnoteでも書いていますが、退職のあるべき姿が決まれば、退職という事象が起こったときに「何を目的に」分析するのかが明確になります。漠然と「退職率15%だ!大変だ!」と騒ぐのではなく、何が大変なのか、そもそも大変なのかどうかを冷静に考えて対応していくことが重要です。

人事データの分析にあたって退職率は重要な指標になりますし、いろんな軸でセグメント分けしてみてどこに課題があるのかを深ぼったり、数年後の従業員の数を予測してみて、会社の状態としてそれが理想的なものなのか見直してみる、というのもよいかもしれません。

今回は、人事の皆様に「退職率」を計算することで想像できる未来をイメージしていただければと思い、noteにしてみました。
今後も、人事データの活用や、人事関連の指標の開発、分析の考え方などWorkTech研究所へのご相談やnoteへのリクエスト等ございましたら、引き続きお気軽にお申し付けください!
最後までお読みいただき、ありがとうございました。