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「退職分析」はなぜ難しいのか

こんにちは。WorkTech研究所の友部です。
前回のnoteにたくさんの反響をいただきありがとうございます。
これからもWorkTech研究所として、主に人事におけるデータ活用について積極的に発信していきたいと思います。

今回は、タイトルの通り「退職分析」についてです。

「人事データを活用して何か分析したいテーマはありますか?」と聞くと、ほぼ必ずと言っていいほどテーマとして上がるのは「退職」です。

「退職」はエンプロイジャーニーにおいて重要なイベントの一つです。自身で経験したことがある人も多いため、誰しも自分ごととして想像しやすく仮説もなんとなく持っていたりします。また、何か会社において良くないことがある結果として起こるのが「退職」なのであれば、これを分析していけば会社に巣食う正体不明の問題が発見できてしまうのでは、という期待感もあります。退職につながる問題が見つかって、そこに起因する課題を解決する手段がわかれば退職が減る、それを退職率というわかりやすいKPIで効果を計測できるため、分析として取り組みやすいテーマにも感じられます。

しかし、「退職分析」は人事に関わる分析の中で最も難しいテーマの一つだと思っています。

・・・これ、人事に限らず事業やサービスでも同様の感覚を持っています。いわゆる「離脱分析」で、私自身、事業やサービスを利用していただいているユーザーの方々がなぜ継続して利用してくれないかの分析をやろうとしましたが、効果的な施策まで実行できた記憶あまりありません。

ということで、今回は退職分析の難しさについて書かせていただきます。

何の話?

  • なぜ退職分析は難しいのか。

  • 会社にとっての「退職のあるべき姿」を考えてみるといいかも。

退職分析を難しくする3つの要因

なぜ退職分析が難しいのか、には主に以下の3つの要因があります。

  1. 退職分析自体の目的が不明確

  2. 分析後のアクションが難しい

  3. そもそも退職に関わるデータの取得が難しい

これらの要因は「退職分析」に限らず、人事における分析全般でも言えることです。しかし、特に「退職分析」ではこれらの要因によってうまく行かないケースが散見されます。

では、それぞれについて詳しく解説していきます。

退職分析自体の目的が不明確

まず「なぜ退職分析をするのか」の目的が大切なのですが、その目的自体が不明確なケースがあります。

最近なんとなく退職が目立つ気がする、といったような感覚がキッカケで退職分析をやろうとすることがよくあります。退職はどうしてもキャッチーな話題になるので、「どのような人が会社を辞めているのか」「なぜ会社を辞めるのか」はとても気になります。退職者の共通点を見つければ、そこから会社の潜在的な課題が見つかるのではいか、という期待感も出てくるかと思います。

しかし「何を分析するか」は目的によって異なります。

退職分析も同様です。目的としては、

  • 現状を把握する(どのような人が辞めているのか知る)

  • 退職のトリガーを把握する(何をキッカケに辞めるのか知る)

  • 退職につながる潜在的な課題を見つける(どのような不満があるのか知る)

などあるかと思いますが、このどれが目的なのかを不明確なまま分析が走ることがあります。目的を明確にした上で「そもそも何を知るんだっけ?」「結果を知ったら何をするんだっけ?」をはっきりさせないと、集めるべきデータやアクションが定まらず、退職分析としてのアウトプットを出すのが難しくなります。

まずは退職分析の目的を定めて、アウトプットとして何をするのか(あくまで人事で把握するだけなのか、経営に報告するなのか、具体的な人事施策を提案・実行するなのか)まで決めておくとよいです。

分析後のアクションが難しい

「分析はただ示唆を出すだけでなく、アクションを伴うべき」

分析(特にビジネス上での分析)についてのお話をさせていただくとき、私が必ず言うことです。もちろん退職分析をするときも同様で、「その分析を行った結果何をするんだっけ?」が気になってしまいます。退職分析を行った結果、人事や経営は何ができるのでしょうか。

そもそも、事業やサービスと比べて人事が取れるアクションはそう多くありません。会社の広い範囲の課題に対応するなら新しい制度を策定したり施策を実行したり、また個別の問題に対応するなら適切な異動やコミュニケーションを取る、などがあるかなと思います。

これが退職分析になるとさらに限定的になります。

退職する人たちの退職理由の共通点がきれいに見つかるのであれば、それに合わせた制度策定や施策実行ができます。しかし、退職する人それぞれに理由があるため共通点をきれいに見つけることが難しく、結局個別事象として捉えられてしまうことが多いです。となると、在籍している従業員の方々に対して退職分析を踏まえて何らかのアクションをするということが難しくなります。

また、「今の会社では扱っていない事業をやりたい」や「家族の事情で引っ越しせざるを得なくなった」など、会社としてアクションを取ることが難しい要因もあります。退職分析を行うのであれば、人事が実行できるアクションが何かを、あらかじめオプションとして持っておく必要があるでしょう。

退職分析からは少し話が逸れますが、「退職予測」というものがあります。これは、退職者のデータから現在在籍している従業員がどれくらい退職の可能性があるか予測するものですが、アクションの観点からも予測が出るタイミングが重要です。たとえ精度の高い退職予測ができたとしても、予測がでるのが退職直前では動けるアクションが限定的になってしまいます。

効果的なアクションを考えるのなら相当早いタイミングから予測する必要があるのですが、それなら退職予測でなくても日々のコンディションをパルスサーベイなどでチェックしておけば十分なアクションが取れるでしょう。

そもそも退職に関わるデータの取得が難しい

退職分析を難しくする大きな要因の3つ目は、退職に関わるデータの取得がそもそも難しい、ということです。これにはさらに「そもそもデータを集めること自体が難しい」と「データがあったとしても信憑性の判断が難しい」という二つのポイントがあります。

ポイント1:そもそもデータを集めることが難しい

分析するにあたって必要になるのは、退職に至る経緯や原因を知るための情報です。しかし、退職者の分析に必要なデータを揃えること自体難しいことが多いです。

人事が集めるようとする情報やデータは、従業員自身にとって直接的なメリットが見えづらいという性質があるため、どうしても従業員の方々の協力に頼ることになります。退職が視野に入り会社に対するロイヤルティが低くなると、これまで回答してくれていたパルスサーベイに答えてくれなくなったり、人事や上長の接点が減ったりするので、退職に至る経緯を知るための情報を集められない、ということが起こります。

データがなければ、分析すること自体難しくなりますよね。

ポイント2:データがあったとしても信憑性があるかの判断が難しい

では、もし運良くデータを集めることができたとします。しかし、そのデータはどれくらい信用できるものなのでしょうか。

退職の経緯を知るために、退職アンケートや退職面談を行うことはよくあると思います。この退職アンケートや退職面談で集められた情報により表面上の退職理由を知ることはできます。しかし、これらで本質を読み取ることは非常に難しいと感じています。それは、退職アンケートや退職面談で本当のことを語ってくれるとは限らないからです。

アンケートに答える段階で、会社へのロイヤルティが低くなっている状態かもしれません。人事としては課題を見つけたいのに、「立つ鳥跡を濁さず」でポジティブなことしか話してくれないかもしれません。それこそ、退職する人の頭の中のどこかに、「またこの会社で働く可能性があるかも」という想いが頭のどこかにあるなら、悪い印象を残さないようにネガティブなことを話さない、なんてこともあります。他にも、給与に関する不満とかもちょっと言いづらいですよね。

また、そもそも退職の理由自体、退職する本人が認識できていない(もしくは忘れている)可能性もあります。

まず、退職に至る要因も一つとは限りません。会社における業務や働いている環境、上長や同僚との関係や評価も要因となりますし、家族の事情や知人に声かけられたなど外部要因など複数要因が複雑に入り混じっている状態です。それをきちんと整理し言語化できている退職者はごくまれです。

そして、時間の経過も退職の理由自体本人の認識を難しくします。何かのキッカケがあって退職や転職活動が頭によぎってから退職面談受けるまで、数ヶ月の時間が経っていることはざらですよね。

人の感情や思考は時間とともに変化するので、最初に退職が頭によぎった時と、退職を決めた時と、退職面談を受ける時では、退職者本人の感情や思考が異なります。転職活動を始めたときは感情的でネガティブな気持ちで動いていたが、転職先も決まって退職も決まって気持ちがスッキリしていることもあります。そのタイミングに退職面談を行って感情や思考を言語化しても、本当の退職理由かどうかは退職者本人にもわかりません。

ですので、退職が決まったあとの退職アンケートや退職面談の情報で本当の退職理由を探ることは難しいと思います。

退職分析で重要なのは、「退職のあるべき姿を考える」

とはいうものの、「目的を明確にする」「データを正しく集める」「アクションを取る」事自体も難易度は高いと思います。スタート地点として、まず考えるべきことは「退職のあるべき姿を考える」かもしれません。

「退職は少ないほうがいい」という無意識の前提があることが多く、その前提のままでは退職にあるべき姿を考えることが難しい。働き方の多様性が増し雇用の流動性が高まっている状況では、その前提について改めて考え直すことも必要です。

例えば、退職に必ず関わるKPIとして退職率があります。自身の会社にとって退職率は何%が妥当なのでしょうか。流石に50%とか高いのは大いに問題ありそうですが、低ければ低いほどいい、と言えるのでしょうか(先程の「退職は少ないほうがいい」という前提なら、0%が妥当、となりますが)。

また、退職というもの自体がネガティブなイベントなのか、という疑問を持つことも重要です。もちろん、会社としては戦力が失われることになるのでネガティブと捉えますが、一方従業員の方々の幸福な働き方を考えると「退職=ネガティブ」と反射的に反応してしまうのは違うかもしれません。

これからは会社が人を選ぶのではなく、会社も働く人に選ばれる立場となります。会社と働く人の関係性を考えたときに、双方の期待にお互い応えられている状態が理想だと思います。その会社にその人が働いていることが、お互いにとってハッピーなのか、どちらか一方だけアンハッピーになってないか、など考えつつ、バランスを取ることが重要です。

このバランスが崩れていることが原因で退職する場合には追いかけない、というのも退職のあるべき姿の一つだと思います。どういう前提を置くかによって、この退職のあるべき姿は異なります。

退職のあるべき姿が決まれば、退職という事象が起こったときに「何を目的に」分析するのかが明確になるので、あとは現状把握と課題の導出、そこからの施策実行までが比較的スムーズに進行します。収集するべきデータに関しても、退職アンケートや退職面談のみに頼る必要はありません。退職直近の時期ではなく、過去のパルスサーベイによるコンディションデータや、日々の勤怠データなど分析に活用できるデータもあります。これらから何を取ればいいかもはっきりし、より効果的な施策が打てます。これでやっと、意味のある「退職分析」ができた、と言えるでしょう。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。
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