友部 博教(HRMOS WorkTech研究所 所長)
人事における「データ活用」を阻む 3つの壁
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人事における「データ活用」を阻む 3つの壁

友部 博教(HRMOS WorkTech研究所 所長)

こんにちは。友部と申します。2019年にビズリーチ(Visionalグループ)にJOINし、今はHRMOS WorkTech研究所の所長に就任しています。

はじめましての方も多いと思いますので、バックグラウンドについて紹介させていただきます。
私は、「インターネット上の情報から人間関係を抽出する」というテーマで博士号取得後、東京大学や名古屋大学の産総研などでビッグデータを用いた情報処理について7年ほど研究をしました。その間にベンチャー企業の立ち上げでインターネット上から人間関係を抽出するWebサービス(あのひと検索・・・的なもの)の開発などに携わりました。

主にビッグデータを対象に研究をしてきましたが、大学ではデータを手に入れるのが難しい、であればデータを持っているところに行けばいいのでは?と考え、当時ソーシャルゲーム全盛期だったこともあり、DeNAに転職しました。そこではソーシャルゲームのサービス改善のためのビッグデータ分析や、ゲームのKPIやパラメータ設計などを担当。「夕暮れのバルキリーズ」という、知る人ぞ知るタイトルにも関わってました(短命で終わってしまいましたが、とても良いゲームでしたよ!)。その後、全社横断の分析組織の統括に携わりました。

事業での分析は型も出来上がり、次のキャリアについて考え始めた頃、もともと博士課程で「インターネット上から人間関係を抽出する」研究をやっていたこともあり「ひと」の分析に興味を強く抱くようになりました。そこで2017年から人事に異動して「ピープルアナリティクス」の部署を立ち上げ、人事にあるデータの蓄積や分析を行いました。その後、メルカリに転職して、同じく人事でデータの蓄積や、特にサーベイ設計に勤しんでまいりました。

DeNAやメルカリなど事業会社での人事におけるデータ活用を経験してきましたが、「出てきた知見を自分の会社だけで使うのはもったいない」「他の会社でも使えるとスケールできるんじゃないか」「HRプロダクトに関わったほうがもっといろいろできるのではないか」と考え、ビズリーチでは、人事だけではなくHRMOSのプロダクトにも関わる形でJOINしています。現在、WorkTech研究所を立ち上げ、研究で出てきた知見を広く発信して日本のWorkTechを推進していきたいと考えています。人事領域で本格的に活動始めてから日は浅いですが、大学での研究や事業における分析などの経験を活かして、ちょっと違った視点から情報発信させていただきます。

さて、私自身人事領域で仕事をし始めてからずっと人事におけるデータ活用の話が盛り上がっているので、今日はその話をしたいと思います。

何の話?

  • 人事でデータ活用が盛り上がってるけど、課題はまだまだ多い

  • 「働くこととは何か」、を考える機会と材料を増やすとデータ活用が進むかも

人事領域における「データ活用」の盛り上がり

いまさらではありますが、DX(デジタルトランスフォーメーション)が盛り上がっていますね。人事領域もこの例にもれず、これまで手触り感のある人事から、もっとデータを活用して人事業務の効率を高めよう、と考えている企業もたくさんあります。

私が関わってきた範囲でも、例えばピープルアナリティクスといって、人事が持っているデータを人財・組織の課題解決を目的に分析・活用しようとしています。また、人事でピープルアナリティクスを行うために、データの取得や蓄積、分析すること自体の課題感について相談うけることも多いです。

いわゆる「タレントマネジメントシステム」と呼ばれる、従業員のデータを蓄積し、人材活用や育成・抜擢を目的に導入されるものがありますが、この市場規模も近年で伸び続けているので、人事におけるデータ活用の注目度が高いことがわかります。

人事におけるデータ活用を阻む壁

しかし、もともと「データ」は「課題解決」という目的のための手段として用いられていたはずなのに、「人事におけるデータ活用」という言葉が先走りして手段と目的が入れ替わってしまっている場面がたくさんあります。

とりあえずデータを集めて、可視化しましょう、という動きも、気づいたらこうなってしまうことが多く、注意が必要です。

もちろん、データも集めずいわゆる「勘と経験と度胸」だけで判断するよりも良いと思います。ただ、とりあえず集めたデータを可視化しても、得られる知見が少なかったり、時にはミスリーディングになってしまうこともあります。そうなるとせっかく集めたデータもノイズとなるので、結局使われなくなってしまいます。

これまで人事というものに関わってきた中で、有効なデータ活用を阻む「壁」となる課題として感じる点がいくつかありました。

  1. 集めたデータを目的外に使ってしまう

  2. 手元にあるデータだけから物事を判断してしまう

  3. 「あるべき姿」が曖昧なので成果がわかりづらい

それぞれについて、感じていることを上げていきます。

1. 集めたデータを目的外に使ってしまう

せっかく頑張って集めたデータなので、なんとか活用しないともったいない。または、検証したい内容に妥当なデータがないので、とりあえず手元にある過去に集めたデータの中からなんとかひねり出す、なんてことも考えてしまう。ヒトや組織のデータを集めるのが難しい人事業務ではよくあることだと思います。

本来データは、課題に接続した目的のもとに集められ分析されるものです。集められた時点では目的外の課題解決に使うことは想定されていないので、よっぽど網羅的・汎用的に使われることを想定したデータでない限りは、妥当な分析ができることは稀です。また、データは「生きもの」です。きちんと運用して最新のデータとして更新されていないと、ノイズとなってしまいます。すでに本来の目的が達成されてしまい、更新されていないデータだと可視化・分析しても間違った結論に導き出されてしまう、なんてことも起こってしまいます。

また、データ活用に関する説明責任もあります。従業員の方々からデータを収集する際は何の目的で利用するかを明示することが望ましいので、もし目的外で利用する必要があるのなら、追加の説明も必要となります。

2. 手元にあるデータだけから物事を判断してしまう

人事で最も怖いのはこれかもしれません。

ヒトも組織もその本質はまだまだでわからないことが多く、構成する要素ががたくさんあるはずです。要素としてわかっているものはまだそのごく一部にすぎず、データとして集められないものがまだまだたくさんあります。

今手元にある人事データは、ヒトや組織のごく一部分や一側面を示すものに過ぎません。サスペンスドラマなどでまだ情報の少ない序盤で誤認逮捕してしまう、なんてことがありますが、これは手元にある少ない情報だけでロジックをつなげて判断したために起こるものです。そのあと探偵などがたくさんの情報を集めて、やっと真犯人がわかりますよね。

人事においても同じで、手元にあるデータだけからヒトや組織を読み取ろうとするとミスリードされる可能性があります。判断に必要十分なデータ・情報が集まっているのか、常に意識する必要があります。

3. 「あるべき姿」が曖昧なので成果がわかりづらい

データ活用における成果とは何なんでしょうか。データ活用ちゃんとできているよね、となるためには、それにより何らかの成果を上げている必要があります。

私は分析というものは、「あるべき姿」と「現状」のギャップから「課題」を見つけ出し、施策を実施し効果を測定しながら解決すること、とビジネスにおいては位置づけていますが、この「現状」の可視化や効果測定に用いるKPIに必要なのがデータです。データに基づいたこうした分析によって課題解決を行えていることが、データ活用により成果を上げている状態となります。

「あるべき姿」「現状」「課題」「データ」いろんな要素がありますが、人事における分析でもっとも詰まるのは「あるべき姿」だと思っています。「あるべき姿」に対してどこまで達成できたか、が成果になるのですが、これが曖昧な事が多く、結局データ活用して何か意味があったんだっけ、となってしまう場面が多いです。

人事におけるデータ活用を意味のあるものにするには、「あるべき姿」をちゃんと定義していくことが最初に大事だったりします。

働き方における「あるべき姿」とは

では、働き方における「あるべき姿」って何でしょうか。

企業の人事や経営目線で考えれば、従業員の生産性向上というのが「あるべき姿」の一つかなと思います。これまでのHR Techはまさにこの考え方で、人的資本を効果的に活用し、経営や事業の成長につなげる、ということがゴールになっています。

一方で、働くヒト一人ひとりにフォーカスするとどうでしょうか。

人生の価値観も、働き方も多様化しています。人それぞれによって、働き方の「あるべき姿」もバラバラなはずです。

リモートワークという選択肢も増え、働き方について個人個人が考える機会も徐々に増えています。自分がどう働くのがベストか、企業から与えられるものだけではなく、自分で開拓していくことも重要です。転職のタイミングは自分のキャリアを見直す機会の一つとなりますが、より自分が幸福な働き方をしようとするなら、折に触れて考える機会を増やすのもよいかもしれません。

しかし、自分の働き方に関するデータは少ないです。転職のタイミングで履歴書や職歴書を更新したり、ビズリーチやLinkedInに登録や内容アップデータするタイミングで、キャリアの棚卸しを行い、やっとそれらしいデータが集まるものの、これだけでは働き方を考える上での情報はまだまだ少ないでしょう。

私自身も、研究者時代の職場を含め働く職場は7箇所目ですが、履歴書・職歴書・ビズリーチ・LinkedIn以外に自分の働いたデータは残っていません。これまでどんな給与変遷だったのか、どういうときに自分がパフォーマンスが高かったのか/低かったのか、など、振り返るためのデータは自分の記憶しかなく、働き方を考える上では十分ではありません。

自分の働き方を考えるには、その機会を多く作ることと、振り返るためのデータを作る必要がありますが、それができるツールが出会えておりません。

WorkTech研究所がやりたいこと

WorkTechは「働き方」のDXを実現するためのテクノロジーとして位置づけています。WorkTech研究所は働くヒト自身の健康的(精神的・肉体的・社会的な健康)な活躍を目的とし、働くヒトを取り巻く環境における課題をテクノロジーの力で解決することをめざしています。

とはいえ、働くヒトにとって何が健康的な活躍か、というのがまさに「あるべき姿」ですが、それは企業や人事が規定して従業員に提供するものではありません。

WorkTech研究所としてやりたいことは、働くヒトが自分の働き方を考えるにあたって(もしくは、企業の人事が経営が、自社の従業員のみなさんに働き方について考えさせるにあたって)、そのきっかけとなる知見やデータを提供できればと思っております。例えば、リモートワークにおける人事評価の問題に関する調査なども行っていますので、参考にしていただければと思います。また、自身の働き方を考える時や振り返るときに必要になるであろう、データの収集や分析に関するテクノロジーの研究開発も行いますので、折に触れてこのnoteなどでもご紹介できればと思っています。

人事における「データ活用」が実現されるよう、まずは人事の方も働くヒト自身も、「働き方がどうあるべきか」を考える機会を増やし、過去のリフレクションや現状把握をデータとして可視化できる環境を作っていきますので、今後もHRMOS WorkTech研究所に注目していただければと思います。



友部 博教(HRMOS WorkTech研究所 所長)
東京大学大学院で博士号を取得後、名古屋大等でコンピューターサイエンスの学術研究に取り組む。2011年、DeNAに入社し、マーケティング分析やピープルアナリティクス施策を担当。メルカリの人事を経て、ビズリーチに入社。タレントマネジメント室と現職を兼任。ディズニーが大好き。