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「ELTV(従業員生涯価値)」の最大化を考えることで人事に何ができるか?

こんにちは。HRMOS WorkTech研究所の友部です。
私は人事の方々とお話する機会も多いのですが、みなさん、様々な業務に対応し、忙しい日々を送っていらっしゃいます。

なぜ人事の方々が忙しいのか、にはいろいろな理由があるかと思いますが、とにかく扱わなければいけない施策が多いのではないでしょうか。
そしてそれを取捨選択しなければならないのですが、優先順位を決めるのが非常に難しい。そのようななか、優先順位を決める時に「とにかくパフォーマンスが上がればいい!」とか「エンゲージメントを上げるのが重要!」などパフォーマンスかエンゲージメントか、みたいな議論になることがあります。
一体どちらが重要なのでしょうか。

結局はどちらも大事です。短期的に高いパフォーマンスを出せたとしても従業員が辞めてしまっては困りますし、従業員のエンゲージメントが高くてもパフォーマンスが低空飛行しているのではどうしようもない。であれば、エンゲージメントもパフォーマンスもどっちも大事として動くと、結局施策の優先順位が決められず取捨選択できず、多忙になってしまう・・・。

そこで考え方として重要なのがELTV(従業員生涯価値)というものです。今回はELTVについての話をします。

ELTVとは何か

ELTVとは、Employee Lifetime Valueの略で従業員生涯価値のことです。従業員の方々それぞれが、会社に所属する期間に成果として出すアウトプットの総計のことを指します。言葉だけでは分かりづらいので、縦軸にアウトプット、横軸に時間(在籍期間)として置いたグラフで考えるとわかりやすいと思います。

ELTVの概念図

従業員の方々の体験によって、アウトプットの量は変わってきます。入社後のオンボーディング期間を経てのびのび活躍していき、発揮できる成果が最大化します。やがて仕事にマンネリを感じて退職検討して辞めていってしまう(本来ならば従業員が退職を考える前にちゃんとマンネリを解消するべきですが)、とした時、上図のような曲線を描きます。この面積がELTVとなります。

従業員の方々の活躍を考えると、このELTVの面積をいかに最大化するか、が重要です。ELTVを最大化するには、2つの方法があります。

  • 横幅となる「在籍期間」を伸ばす

  • 高さとなる「アウトプット」を増やす

 ELTVの増加

冒頭のエンゲージメントかパフォーマンスか、という話ですが、「エンゲージメントを高める」というのはこの面積の横幅を広げること、「パフォーマンスを上げる」というのはこの面積の高さを高くすること、になります。エンゲージメントとパフォーマンスという軸の違うものを、ELTVの面積という形で同じ土俵で考えることができるようになります。

このELTVの概念があるだけでも、人事にとって大きな力になります。人事で行うそれぞれの施策がELTVの面積をどのように増やすものなのかを意識するだけでも、施策や課題の優先順位の参考材料になります。ELTVの最大化に寄与するか説明できないものに関しては、優先順位を下げる、という考え方もできます。

ELTVが定量化できたらもっと素敵な気がしますね。

ELTVの定量化の方針

では、このELTVの定量化について考えます。HRMOS WorkTech研究所では、ELTVの定量化について研究してきました。対象となるのは現在いる従業員の方々になるので、出すELTVは大きく分けて「現在までのELTV」と「未来のELTV」の2つになります。

「現在までのELTV」の定量化

「現在までのELTV」は、これまでの成果の積み上げを算出することで定量化できます。単位期間あたりの成果の積み上げとなるので、例えば営業職など数字を持っているメンバーなら月当たりの営業成績の積み上げとして算出する方法があります。一方で、数字を持っていない職種の場合では、アウトプットを何とするか、を定義する必要があります。

原則的には、単位時間あたりのアウトプットの量の、入社から現在までの累積値、となるので、これまで会社に多くの貢献をしてくれた人ほど現在までのELTVは大きくなります。

「未来のELTV」の定量化

「未来のELTV」はこれからどれくらいの価値を出すか、ということなので予測する必要があります。これを予測ELTVと呼んでおり、WorkTech研究所では人材活用における重要な概念と捉えています。

未来のELTVを予測する

予測ELTVを算出するにあたって、HRMOS WorkTech研究所では3つの変数が必要であると考えています。

  • 期待在籍期間:あとどれくらいの期間在籍するか

  • 最大期待役割:将来的にどこまでアウトプットを出せそうか

  • 成長速度:どのようなスピードでアウトプットが増えるか

これらをわかりやすく図にすると以下のようになります。

予測ELTVの算出に必要な変数

それぞれの人事施策がELTVのどこに影響するのか、特に3つの変数のうち期待在籍期間に効くもの(横幅を増やすもの)なのか、最大期待役割に効くもの(高さを増やすもの)なのか、成長速度に効くもの(面積の最大化を早めるもの)なのか、を考えることで施策の優先度を考えることができることになります。

より具体的に数値化することができれば・・・定量的に優先順位を決めることができますが、「期待在籍期間」「最大期待役割」「成長角度」をどのように算出するか、についてはおいおいこのnoteでご紹介させていただければと思います。

ELTVの定量化により期待できること

「人事のKPI問題」が解決できるかもしれない

先日こちらのnoteで「人事領域にKPI設計が必要な理由」について書かせていただきました。人事にとってKPIがあるとうれしいけれど、一方でKPIを設計するのはいくつかの理由があり難易度が高いですよね、というお話でした。

人事領域における共通のKPIの一つとして、このELTVを定量化したものが使えるのではないか、と考えています。人事の施策を実行する際、予測ELTVを算出するために必要な3つの変数(指標)のどれをKPIとするのか、を明確にすれば施策の効果測定として有効です。そしてELTVがどれくらい増加するのか、によって施策の優先順位を考えることもできます。

もちろん、ELTVと事業や会社の成長の接続性については今後検証していく必要がありますが、ELTVの縦軸となるアウトプットを事業と紐付けて定義できれば、ELTVが増加することと事業が成長することを接続することができます。

人的資本の運用に使えるかもしれない

また、「人的資本の運用」という観点でもELTVが使えるかもしれません。こちらのnoteで以下のように書かせていただきました。

「人的資本」の観点では、人事がやるべきことは「人的資本の運用」です。人事制度の策定や施策の実行の大きなゴールは単なる人材の管理ではなく「人的資本を増やすこと」とすれば、人事は利益を産まないコストセンターではなくなり、企業価値を高める組織へと変貌します。

人事は「人的資本の情報開示」をどう捉えるべきか
(https://note.com/hrmos_worktech/n/nc189e0e49df5)

ELTVを定量化したものを人的資本の指標の一つとして捉えるならば、「人的資本の運用」を担う人事の役割がするべきことはELTVを最大化すること、と言えるでしょう。また、人的資本の情報開示で利用される各指標がELTVとどのように接続しているか説明できると、各指標により戦略性を持たせることができます。例えば、ダイバーシティーに関してある目標値を持った時、多様性を増すことによってELTVにどのような影響を及ぼすのかを説明できれば、その目標値の説得力を強くすることができるでしょう。

具体的なELTVの定量化については、今後このnoteでもご紹介できればと思っています。特に、予測ELTVの算出に必要な変数である「期待在籍期間」「最大期待役割」「成長速度」については個別に詳細を書く予定です。

というわけで、今回はELTVについてお話させていただきました。人事データの活用や、人事関連の指標の開発、分析の考え方などHRMOS WorkTech研究所へのご相談やnoteへのリクエスト等ございましたら、引き続きお気軽にお申し付けください!
最後までお読みいただき、ありがとうございました。