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【医師論文解説】空き時間が多すぎると不幸になる?衝撃の研究結果【OA】


背景:

現代社会において、人々は時間が足りないと感じ、より多くの自由時間を求めています。しかし、実際に自由時間が増えることで幸福度は本当に向上するのでしょうか。

また、自由時間が多すぎることはあるのでしょうか。本研究は、自由時間の量と主観的幸福度の関係を調査し、これらの疑問に答えることを目的としています。

方法:

研究者らは4つの研究を行いました:

  1. 全米労働力変化調査(NSCW)のデータ分析(13,639人の労働者)

  2. アメリカ時間利用調査(ATUS)のデータ分析(21,736人のアメリカ人)

  3. 自由時間の量を操作した実験(2,565人の参加者)

  4. 自由時間の量と使い方を操作した実験(4,046人の参加者)

研究1と2では大規模なデータセットを分析し、研究3と4では実験的手法を用いて因果関係を検証しました。

結果:

  1. 研究1(NSCW):

  • 自由時間の量と生活満足度の間に負の二次関係が見られました。

  • 自由時間が増えるほど生活満足度は向上しますが、ある点を超えると満足度の上昇は止まります。

  1. 研究2(ATUS):

  • 自由時間の量と主観的幸福度の間に逆U字型の関係が確認されました。

  • おおよそ2時間未満の自由時間は「少なすぎる」、5時間以上は「多すぎる」と示唆されました。

  • 社交的または生産的な活動に使われた自由時間は、「多すぎる」効果を緩和しました。

  1. 研究3(実験):

  • 少ない自由時間(15分/日)は中程度の自由時間(3.5時間/日)よりも低い幸福度をもたらしました。

  • 多い自由時間(7時間/日)も中程度の自由時間よりも低い幸福度をもたらしました。

  • 少ない自由時間はストレスを介して幸福度を低下させ、多い自由時間は生産性の欠如を介して幸福度を低下させることが分かりました。

  1. 研究4(実験):

  • 自由時間を非生産的に使う場合、多い自由時間(7時間/日)は中程度の自由時間(3.5時間/日)よりも低い幸福度をもたらしました。

  • 自由時間を生産的に使う場合、多い自由時間と中程度の自由時間の間で幸福度に有意な差は見られませんでした。

議論:

本研究は、自由時間が少なすぎることも多すぎることも幸福度を低下させることを示しています。自由時間が少ない場合はストレスが原因となり、多い場合は生産性の欠如が原因となっています。しかし、多い自由時間でも生産的または社交的に使用すれば、幸福度の低下を防ぐことができます。

これらの結果は、自己決定理論が提唱する3つの基本的心理欲求(自律性、関係性、有能感)の充足が幸福に重要であることを支持しています。自由時間の量と使い方の両方が、これらの欲求の充足に影響を与えると考えられます。

結論:

自由時間と幸福度の関係は逆U字型であり、中程度の自由時間が最も高い幸福度をもたらします。自由時間が多い場合は、生産的または社交的な活動に時間を使うことで幸福度の低下を防ぐことができます。

文献:

Sharif, Marissa A et al. “Having too little or too much time is linked to lower subjective well-being.” Journal of personality and social psychology vol. 121,4 (2021): 933-947. doi:10.1037/pspp0000391

この記事は後日、Med J Salonというニコ生とVRCのイベントで取り上げられ、修正されます。

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所感:

本研究は、時間使用と幸福度の関係について重要な洞察を提供しています。特に興味深いのは、自由時間の「量」だけでなく「質」も重要であることを示した点です。これは、患者の生活指導や精神衛生の改善に応用できる知見です。

例えば、過度の労働で疲弊している患者には適度な休息を勧めつつ、その自由時間を意味のある活動で埋めることの重要性を伝えることができます。また、退職後や長期休暇中の患者に対しては、単に休養するだけでなく、生産的な趣味や社会活動への参加を促すことが有効かもしれません。

ただし、この研究はアメリカのデータに基づいているため、文化差を考慮する必要があります。日本人を対象とした同様の研究が行われれば、より適切な臨床応用が可能になるでしょう。また、個人差も大きいと予想されるため、患者一人一人の状況や価値観に応じたアドバイスが重要です。

今後は、自由時間の使い方の具体的な指針や、様々な背景を持つ人々に対する効果の違いなどを明らかにする研究が期待されます。これらの知見は、ワーク・ライフ・バランスの改善や社会政策の立案にも貢献する可能性があり、公衆衛生の観点からも注目に値します。

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