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クリエイティブ力を上げる『一億三千万人のための 小説教室』

読み終わってから理解しました。

なぜタイトルに「1億三千万人のため」とついているのかを。

1億三千万人とはもちろん、日本の全人口で、著者は、全ての人が「自分だけにしか書けない小説」を書くことができると、背中をおしてくれています。

本書には、プロットやキャラクター作りといった、小説の技法というものは全くのっていません。

反対に、「そもそも小説とはなにか」、「小説を書くにあたっての心構え」といった、「根っこのところで小説と向き合う姿勢」に重点がおかれています。

それは「その人にしか作れないものを作る」ための姿勢といってもよく、「小説教室」というより「クリエイティブ教室」と言ってもいい一冊です。

小説家になりたいけど、小説を書き進めることができず、何かが足りないと考えている人におすすめ。

そして、「世界を客観的に見る、すぐには書き出さない、自分の知っていることを書く」といったアドバイスは、即効性はないですが、時間をかけながらクリエイティビティを上げることができ、クリエイターの方にも参考になるはずです。

まず、小説とは何でしょうか。

著者は、「いまそこにある小説は、わたしたち人間の限界を描いています。しかし、これから書かれる新しい小説は、その限界の向こうにいる人間を描くでしょう。」と、「ここではないどこかへ行きたい」という人間の本能から生まれたものが、小説といいます。

そして重要なのが、小説と「遊ぶ」こと

相手の世界に入り、相手がやっていることを楽しむことが「遊ぶ」ことです。

それは、読んでいる「小説」の世界に入り込み、ただ何も考えず、その「小説」につきあうことで、反倫理的なことでも受け入れ、どんなテーマなのだろうかと分析したりしないことです。

次は「まねる」こと。

「うまく書こう」とは思わず、面白いと感じた文章をただただ「まね」するだけ。

意味はあとからついてくるので、先に思考をこらそうとせず、ただ言葉をリズミカルに書いていくことが重要です。

また、付録の「小説家になるためのブックガイド」が面白く、このブックガイドがなければ、出会えていなかった作家や作品ばかり。

以下がそのリストですが、それぞれの作家、作品がなぜ重要なのかについての著者のコメントも見どころです。

全作品を読むことをオススメされた作家やシリーズ
・太宰治
・芥川龍之介
・武者小路実篤
・小林秀雄
・現代詩文庫、一期、二期全巻
・片岡義男

作品が指定されているもの
・夏目漱石:ケーベル先生(電子版だと無料です)
・石川啄木:ローマ字日記
・葛西善蔵:子をつれて(電子版だと無料です)
 または、嘉村磯多:父となる日、崖の下
・金子光晴:マレー蘭印紀行どくろ杯ねむれ巴里
・坂口安吾:エッセイ
・埴谷雄高(はにやゆたか):エッセイ
・野間宏:暗い絵
・谷川雁:原点が存在する、などのエッセイ
・武田泰淳:目まいのする散歩
・武田百合子:富士日記
・吉田健一:詩に就て時間
・田中小実昌:なやまないないものの存在
・内田也哉子:会見記
・小島信夫:漱石を読む私の作家遍歴
・耕治人(こうはると):天井からふる哀しい音
・村上龍:五分後の世界
・森茉莉:どっきりチャンネル

著者の高橋 源一郎さんは1951年の広島生まれ。

81年に『さようなら、ギャングたち』でデビューし、88年には『優雅で感傷的な日本野球』で第1回三島由紀夫賞を受賞しました。

本書で紹介される「読む→遊ぶ→まねてみる→小説を書く」というプロセスを経て小説家になられた方なので、本書の内容にも説得力が増します。

そして本書には、小手先のテクニックに頼らず、「自分にしか作れないものを作る」ためのヒントがちりばめられていました。

小説の書き方に関する本があふれていますが、小説の書き方というよりも、感性の使い方や、養い方を教えてくれる本だと思います。


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