ド文系の私に「大切なこと」を教えてくれたのは数学だった

「余白」を楽しみ、「当たり前」を疑うということ

3/3は1？

中学3年生のある日、教育実習生の男性が私に尋ねてきた。

「3/3って1やと思う？」

当たり前である。そう授業で習ったのだから。私は当然のごとく、1だと答えた。

「そしたら、1/3は少数やとなんぼ？」

0.33333....と無限に続く。ひっ算すれば、小学生でもわかることだ。
私はなぜ彼がこんな質問をしてくるか想像もつかなかった。

暗記さえできれば

私は元々数学があまり得意ではなかった。なぜなら、覚えた公式や定理にただ従う作業のように感じていたからだ。

盗んだバイクで走りだすことはなかったが、例に漏れず、生意気な中学生だった私は従うことにどこか忌避感があったのかもしれない。

それでも天才でない私にとっては、教えられたことにどれだけ従えるかが数学の点数を左右していたし、力ずくで問題パターンを暗記することに躍起になっていた。

そして、苦手で嫌いという悪循環に陥る。そのような結果に辟易としていた。

3/3は1を証明する

「1/3が0.333なら3/3は0.999やないとあかんよね？なんで3/3を1と定義できるか知っている？」

彼は私にそう言った。もちろん知る由もない。しかし、今まで過ごした数学の授業よりも、そしてどんな問題集よりも魅力ある問いだった。
彼の証明はこうだ。

A=0.999...とした場合、10A=9.999...となる。これらの差を連立一次方程式で導くと、
　10A=9.999...
ー 9A=0.999...
すなわち　9A=9
ゆえに　A=1
よって、A=0.999..=1となり、3/3は1として定義できる。

この時初めて、数学を美しいと思った。中学生の自分でも理解できる1や分数、また方程式といったものが新たな世界を作り出しているように見えたのである。

数学を見つめ直して

この問いとの出会いから、私の数学に対する熱量は日に日に大きくなった。

たとえば、√2（=0.141421356...）。√2が無限に続くことは皆が知るところだろう。他方で、三平方の定理、またコンパスと定規を使えば私たちはその線分を紙の上に書き出すことができる。実測できないにも関わらず、それが実体を伴って現れるという事実は、私に無限の可能性を感じさせた。

その可能性は当時の私にとってはプロ野球選手の億単位の年俸よりも、夢が広がる世界であった。

それからというもの、私は問題集を解くこともせず、日々公式や定理の分解に勤しんだ。それらにはまだ見ぬ世界があるような気がしたのだ。はたから見れば中学生のナルシズムにも感じられるかもしれないが、この過程によって数学を好きになったこと、またテストの点数さえもが上昇したのは単なる偶然ではないと自分では思っている。

数学が教えてくれた「大切なこと」

さて、結果的に私は文系に進み、大学院で人文社会学系の数字も表も使わない「ド文系」な研究に明け暮れることになる。挙句、今や島で鍬を握っているのだが、それでも教育実習生の彼の言葉は私の中で色褪せることはない。

「たしかに0.999を知らなくても数学の問題は解けるよ。でも、こういうところにこそ数学のロマンがある。教えられたことを当たり前と思うのではなく、少し疑ってみると面白いロマンに出会えるかもね」

一見、意味や必要のないことにこそロマンは宿る。私は大学院での研究を通してそれらを「余白」と呼ぶことになるのだが、今思えば中学生の時点で、彼、そして数学のおかげで「余白」の大切さには気づいていたのかもしれない。

また当たり前を疑うという姿勢は、これまでの私を大きく形作ってきた。事実、人の話を飲み込むまえに少し疑うようになったのは0.999の問いに出会ってからのことだ。

だからこそ、私の好きな科目は、今も昔も数学である。
数学は私にこのような「大切なこと」を教えてくれた。

ド文系の私が数学の示す世界に今もなお心惹かれるのは、私が求める世界を数学がすでに体現しているような気がしているからだ。

長い人生で、この予想を証明できれば私は人生を悔いなく終えられそうだ。

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『博士の愛した数式』という一冊。中学生の時に出会ったこの1冊は、手に取るたびに教育実習生の存在を思い出させてくれます。

友愛数、完全数etcと『博士の愛した数式』には様々なロマンあふれる数学の世界が広がっています。

もし数学が苦手という方がいれば、ぜひ一度読んでほしい一冊です。数学は受験のためではなく、自分の世界を豊かにするために存在するのではないか。そんなことを感じられるように思います。

というわけで、本日はこれにて。
お読みいただきありがとうございました。

※朝方に唐辛子の収穫をしていたら、毎朝投稿をしくじってしまいました💦