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HORSE FROM GOURD

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2017年6月の記事一覧

尿意

尿意

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「この前、マクドナルドで仕事しているとき、後ろから若い女の子たちの会話が聞こえてきたんだけど」
 こういう枕で始まる話には碌なものがない。
「こういう枕で始まる話には碌なものがない、と思ってるだろ」
 まあ聞けよ。

 この間、変な夢を見たの。
 お

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声

※縦書きリンクはこちらから https://drive.google.com/open?id=0B7K8Qm2WWAUReld0Y3BtSHdiZkE

「あなた自分の声が好きですか」と彼は僕に尋ねた。
 反射的に、いや、と応えてしまう。

 彼は声の仕事をしている。国営放送地方局のアナウンサー。長年の間、朝七時四十五分から始まる地方ニュース番組のキャスターを担当している。

「自分の声が好きな人

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ミントチョコアイスバーの嵐

ミントチョコアイスバーの嵐

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 暗いコンビニの駐車場でミントチョコアイスバーを食していた。
「どうしてそんな薬臭いものが好きなんですか」
「何だか歯磨き粉を食べてるみたいじゃありませんか」
「案外かわいらしい食べ物が好きなんですね」
 と、これを人前でぺろぺろやっていると言わ

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ガソリンの海で

ガソリンの海で

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 うねる音が止んだことに気づいて目覚めると、白い光の中にいた。鉄の塊と錆びた鉄塔のようなものがガラスの向こうに見える。ガソリンスタンドだ。シライの顔の左半分に影が落ちている。
「寝すぎじゃない?」
「ごめん」
「いや、良いんだけどさ」
 体調悪い

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あとをつけて殺してほしいの

あとをつけて殺してほしいの

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 僕は街を浪費している。
 昼前に目覚めると、頭の中に呪いみたいにそのことばが張り付いていた。理由はわからない。確かにその可能性はあるのだろうけど、何故僕だけがそんな風に思わなければいけないのだろう。
 久しぶりにカーテンを開けると隣のホテルの壁だっ

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蛍

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「え、蛍って絶滅したんじゃなかったっけ?」とソシガヤが言うので、呆れてしまった。
 臨床研究棟の外はもう梅雨だ。窓辺に身体を預けると、どこかから染み出してきた雨で触れた場所が湿る。建物の脇で、チェリオの自販機が濡れているのが見えた。
「ほんとに常識知

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バナナのない世界にて

バナナのない世界にて

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 バナナがこの世から無くなるかもしれない、という話を耳にした。
「知ってる?バナナって無くなるらしいよ」
 シーツに包まった彼女は、独り言のようにそう言った。何だかこの人の身体も見慣れてきたな、と思いながら交わった夕方のことだった。彼女は

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Frog Portrait

Frog Portrait

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 敷地の中に小川が流れている。小川と言ってもほんとうにささやかな川だ。そんな小川がほつれたように、さらにささやかな小川へと分かれている。どこから流れてきている小川なのか知らないが、敷地のすぐ裏手には蔵王山系が連なって聳えているので、奥深い山の上か

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サラダチキンのはみ出す力

サラダチキンのはみ出す力

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 また仕事が長引いてしまった。でも22時以降に何をやっていたかはほとんど思い出せない。それくらい疲れていた。思い出せるのはパソコンの前に座っていたことくらいだ。
 僕の仕事は単調に思える仕事だった。広大な庭の端から端まで、たったひとりで芝刈機をかけて

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ここが地獄の三丁目ディスコ

ここが地獄の三丁目ディスコ

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「あけっぱなしの外、かなり耳に入ってくるね!」
 満面の笑みを浮かべてサワダはそう言った。
「なんて言ったの?」
 俺が大声で言っても、サワダは聞えていないのか、ただ首を振って笑いながら俺の手を取り、おかしなステップを踏んだ。MPが吸い取ら

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MIND THE GAP

MIND THE GAP

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 裂けた地面の向こう側が、目の前でずれて離れていく。

 しらない、縁もゆかりもないひとびとが、すし詰めになって運ばれていくのに向かって、わたしはシャッターを切る。目をぎゅっと瞑ってガラスに張り付く中年のサラリーマンは、苦痛そうというよりも完全に諦め

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Hole

Hole

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「仕事、辞めてきたの」と、黙って食事を口に運んでいた彼女が突然言った。遅い夕食の最中だった。
「すっきり、したわ」
 我が家の夕食は別々だ。僕は毎日六時前には帰宅して、彼女のために食事を作る。彼女が帰ってくるのは早くても十時を超えてからだ。僕は毎

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There are consequences to one's actions

There are consequences to one's actions

 シネコンのレイトショーで映画を観ていたら、最後のほうで主人公がベッドのシーツを細く切り裂いてドアノブに掛け、それで自殺するシーンがあった。
 全体的に演出が上滑りした退屈な映画だったけど、そのシーンだけやたらと気合が入っているように感じた。
 そのシーンの後にも、冗長とも思えるようなエピローグがあった。主人公が眠る海沿いの墓を、かつて主人公が裏切った仲間が弔いに訪れるというラストだった。蛇足、と

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I Promise

I Promise

レディオヘッドの新譜が出るときだけ、必ず連絡をしてくる知り合いがいた。名前をFと言った。

「聴いた?」
 Fはそう聴くが、僕が新しいアルバムを既に聴いているかどうかは、彼にとってあまり重要ではない。
「暗い。何でこんな暗いもんが、こんなに注目されるんだろうね」と、毎回Fは言う。

 断っておくと、僕はレディオヘッドの熱狂的なファンというわけではない。Fは多分、根暗な僕と陰鬱なレディオヘッドを関連

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