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映画「花束みたいな恋をした」感想 もうひとりの私達のはなし

映画「花束みたいな恋をした」感想 もうひとりの私達のはなし

同じものが好きな人と出逢いたいとずっと思っていた。ある単語を言っただけで「あれ最高だよね」って好きな作品が伝わるような。もうひとりの私がいたら、どんなに楽しいだろうって。

でも、もうひとりの私は、やっぱり私ではない別の人間。出会った時から、いつか必ず別れがくることは決まっている。鑑賞しながらヘドウィグ・アンド・アングリーインチの「The Origin Of Love〜愛の起源〜」の歌詞を思い出し

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ミッドナイトスワン 持つ者と持たざる者が出会う時

ミッドナイトスワン 持つ者と持たざる者が出会う時

「どうして私ばかりがこんな思いをしなければいけないの」

きっと誰もが感じたことがある感情。身体と性別に心を痛めて生きてきた凪沙と、愛情を感じることが難しい養育環境で育った一果は、どれだけこの言葉を心の中で吐いてきたことだろう。

人は生まれた時から色々なものを持たされている。性別、生まれた地域、親、養育環境、裕福や貧困。その持たされたものや環境の中で生きていかなければならない。この作品では、持つ

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映画・ドラマ 感想「37セカンズ」

映画・ドラマ 感想「37セカンズ」

「どこに行けばいいですかね?」「そんなのあなた次第よ」

心の自由を表出すること脳性麻痺の夢馬(ユマ)は、友人の漫画のゴーストライターをしながら母と暮らしている。穏やかで愛らしい表情を持つユマ。特にクシャッと笑った時の表情と声の可愛いさといったら!でも、観ている内にこの愛らしさや穏やかで丁寧な口調は、ユマが誰かの力を頻繁に借りる必要があるからこそ無意識に身についたものかもしれないと感じた。「可愛く

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映画感想 「風の電話」帰る場所を失った人たちの旅

映画感想 「風の電話」帰る場所を失った人たちの旅

諏訪敦彦監督作品は「2/デュオ」「M/OTHER 」を20年位前に観た。特に「2/デュオ」は即興芝居のヒリヒリしたやり取りが忘れられない作品だった。「2/デュオ」の西島秀俊、「M/OTHER」の 三浦友和、渡辺真起子も参加しているこの作品を観ないという選択肢はなかった。

岩手県大槌町から広島にやってきたハル。冒頭はハルと叔母・広子の朝食ルーティンを固定カメラが映し出す。ハルは話しかけられてもワン

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映画感想 「ジョジョ・ラビット」 生涯ベスト級に出会う

映画感想 「ジョジョ・ラビット」 生涯ベスト級に出会う

「生涯ベスト級」という言葉をよく耳にするけれど、私は映画観賞後「うぅ~良かった!今年観た中では5本の指に入るなぁ」など年間レベルで判断することが常だった。でも、この作品は観賞中から「あぁ、これが生涯ベスト級っていうんだな」ということがストンと胸に落ちてきた。

10歳のジョジョと母のロージーは二人暮らし。ジョジョの前にはアドルフがいつも現れる。アドルフはナチスの教えをジョジョに叩き込む空想上の人物

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映画 「殺さない彼と死なない彼女」 逆光みたいに射し込むもの

映画 「殺さない彼と死なない彼女」 逆光みたいに射し込むもの

完全に“舐めてた案件”でした。「高校生の胸キュンラブストーリーね」とスルーしていましたが、評判が尋常ではないため調べてみたら埼玉で2カ所しか上映していない…車で1時間かけて観てきましたが、この作品を上映していないってどうかしてるよ?

何だか妙に白っぽくて、現実味が薄い逆光気味の不思議な画面。小坂と鹿野、きゃぴ子と地味子、撫子と八千代君の3組の場面が交互に入れ替わりつつ物語が進みます。

撫子さん

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映画 ジョーカー感想

映画 ジョーカー感想

感想冒頭、暴力を振るわれたアーサーが地べたに倒れ込んでいるシーンにタイトルが重なります。その後、その倒れ込んだ高さ、スクリーンでいうと下1/5位でしょうか。ずーっと、敷き詰められた重苦しい何かを感じるのです。何これ?

見えないけれど、スクリーン上に少しずつ降り積もっているのは多分、蔑み、差別、貧困、暴力、孤独とか。とにかく、誰かの何気ない悪意が積み重なるとこんなことが起こるのね、っていうオンパレ

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映画「蜜蜂と遠雷」高みに手を伸ばす人は気高い

映画「蜜蜂と遠雷」高みに手を伸ばす人は気高い

観賞を終え帰宅したら、ピアノコンクールの映画という情報だけ知っている家族から「で、最後に誰が勝ったの?」と聞かれた。私は「結果があまり意味を持たない映画だったよ」と答えた。

感想私はバイエルで挫折したピアノ落第者。クラシックも全く詳しくない。けれど音楽は好きだ。118分間、純粋に音楽を聴くだけでも楽しめた。冒頭にブルゾンちえみさん演じる仁科や会場にいる人達の声で概要の説明が行われ、あとは登場人物

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閉鎖病棟-それぞれの朝- 人は事情を抱えている

閉鎖病棟-それぞれの朝- 人は事情を抱えている

綾野剛演じるチュウさんが買い物後、和菓子屋の店主が「坂の上の人だよ。最近は頭のおかしい人たちも人権がどうたらってね」と話す。

子供の頃、隣市の山の上に精神病院があり「あそこに行ったら人生終わりだよ」と大人に言われたことがあった。大人の何気ない言葉は子供にイメージを刷り込む。そうか、精神病院という所は入ったら出られないところなのか、あそこに連れていかれるのは嫌だなと。でも私が大人になった頃、親族が

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映画 「ひとよ」 ひとよ、一夜、人よ

映画 「ひとよ」 ひとよ、一夜、人よ

否応なしに巻き込まれる。離れていてもどこかで繋がってしまっている。家族って、人って、本当に厄介で面倒くさい。

父を殺した一夜田中裕子演じる母のこはるが「夫を殺した」と子供達に告げた夜。まずは子供達におにぎりを与え、自身も無理矢理おにぎりを飲み込む。子供達を食べさせなくてはならない母の思いと、自身がこれからも生きねばならない決意が一夜の食事に表れている。「もう暴力を振るう人はいない。あなた達は自由

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