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二極化する人材~コロナ明け時代の人材トレンド:「みんな一緒に」育成への警鐘~

アンドア株式会社の堀井です。私は研修講師としてこれまでに約500案件の人材・組織開発に携わってきました。研修と一言に言っても、一様なカリキュラムを提供するものや、各組織の課題を解き明かして対応するものがあります。
私たちは後者を得意としています。それゆえ、少数精鋭ではありますが「融通が効かず、効果も出ていない研修から切り替えたい」と仰る人事担当者から相談を多くいただいています。

今の若手世代(20代)と10年以上接して分かったこと

特に私のキャリアには一つの強みがあります。
約15年前、私は学習塾で講師業を行なっていました。したがって、今の若手世代が何を見てどう考えるのかについては、懐かしさを伴って因果関係を説明することができます。

当時はリーマンショックや東日本大震災など、前代未聞なニュースに翻弄されていた時代です。それらのニュースが全ての人に影響していたわけではありませんが、今の若手世代は、後述する通り「我慢をする」ことが他の世代よりも強いられていたと感じます。

また、デジタルリテラシーについても特筆すべき点があります。今の若手世代は、中学生の頃(13歳以降)からスマートフォンを持ち、オンラインゲームの対戦やLINEなどを駆使していました。相手が不明な電話、件名を含んだメール、さらには見たい番組にチャンネルを合わせるといった概念は、彼らにとっては時代劇を見るかのような過去の話に映っています。

こうした若手世代が経たマインドセットとスキルセットを捉えた上で、私たち企業の人材育成に変化をもたらすことが欠かせません。そこで、今回取り上げたい問題意識は、

人材が二極化している

という点です。誤解を恐れず、敢えて言葉を選ばずに述べると、

できる人は前例が無いほどにできる。
できない人はどんなケアを差し出しても変わらない。

ということに悩んでいる人事担当者、マネジャーが多いということです。

このことを大っぴらに言及してしまうと、さまざまなハレーションが起こるために言語化すら躊躇している人は多いことでしょう。しかし、本コラムは潜在的な問題であるからこそ、人材開発のプロである私たちの知見を駆使して言語化し、少しでも「本来の力を思いのままに」するきっかけになればと願っています。

そこで、お願いがございます。

【グラウンドルール】

1.本コラムは事象の正確さや学説の正しさを検証する目的ではなく、自社における人材開発の問題を具体化し、行動変容を支援する、人事やマネジャーなど実務家への情報提供を目的にしている

2.本コラムは人材をステレオタイプに一般化することが目的ではなく、一般化した仮説から自社へ具体化したときに、問題の具体化と行動変容を支援することが目的である

3.本コラムは、特定の企業や人材を評価したり断定するものではない

以上の約束のもと、何かしらのヒントになれば嬉しいと願っています。



もはやコロナ禍ではない

「特例」が「自信が無い」社員を生み出した

人材開発の目線でコロナ禍という時代を総括してみます。
2020年の緊急事態宣言から、2023年の5類移行にかけて、私たち人材開発の領域でもさまざまな措置が行われました。

  • オンライン研修(ライブ型)の登場

  • teamsやslackなどチャットコミュニケーションの普及

  • リモートワークオンライン会議の普及

あげればキリがない変化の数々です。
これらの変化に共通することは、①同じ場所に出社して②同じ物事を見て③真似をしながら上達するという、これまでの前提が通用しなくなったことに起因します。

したがって「特例」が通用しました。
①同じ場所に出社できないから、社内の雰囲気がわからなくても仕方がない
②同じ物事を見られないから、わからなくても仕方がない
③先輩の真似がしにくいから、成長が遅くても仕方がない
ゆえに、これまでの世代と違って、多少わからなくても、成長スピードが遅くても、不可抗力であるから仕方がないという「特例」の意識がありました。

しかし、私は「コロナ禍での新入社員を特例扱いしないでほしい」と、数多くの企業で提言してきました。企業の人事やマネジャーは「特例扱いしているわけではない」と口を揃えるものですが、職場の細部では

  • もしコロナじゃなかったらできたのにね

  • できるところまで良いので、あとは(先輩が)やっておくよ

などの言葉が図らずも特例意識を生み出しています。
もちろん、仕事の負荷を減らすことは歓迎すべきことです。一方でこれらには重大な副作用が併発しています。それが、

フィードバックが少ない

という問題です。組織行動論では、人が行動したことに対して声掛けや成果が返ってこないと

行動弱化

が発生します。つまり、「やってもやらなくても同じ」意識となり、人は自ら行動しなくなるのです。

つまりここまでの話をまとめると、以下のようなストーリーが考えられます。

1.前例のない変化が起きた

2.若手社員を「特例」として配慮する

3.若手社員に任せる仕事の質と量が減る

4.成果への影響が可視化しづらい
 +
5.上司によるハラスメント防止への配慮

6.若手社員の仕事に対してフィードバックが減る

7.行動弱化が発生する

8.やってもやらなくても同じ意識になる

9.自ら行動せず、指示待ちになる
 +
10.「自信」が無い(後述の持論化途上層+満たされ層)

自ら行動した人はフィードバックを得ている

ここまで読み進めて、脳裏に当てはまるイメージがあれば、当てはまらない側面も描けているのではと察します。

全ての人が「特例」によって「自信を無くしている」わけではありません。そして、着目すべきは当てはまらない面、つまり、

「自ら行動し、フィードバックを得て自信を持っている人」

について解明することです。私の経験上、この傾向を持つ人は2割です。

例えば、私が接してきた中でそのような人は

  • 学生時代にチームを組んで起業を経験した。結果は良くなかったが、経営とは何たるかを大いに学んだ。

  • 学生時代に映像制作に関するインターンを行なった。納期の厳しさとデザインの工夫について諸先輩の仕事から学びとり、制作に活かせるようになった。

  • 学生時代にスポーツチームの主将を務めた。なぜ負けるのかを自分たちで話し合い、課題を一つずつクリアして、上位にランクインした。

こうしたエピソードを有します。

一方で、これらの学生時代の経験談は採用面接時に多くの人が語っているものです。それなのに、自信を持っている人が2割というのは、一体どういうことなのでしょうか。

誤解を恐れずにいうと、採用面接では、以下のようなカモフラージュが巧みに行われているのです。

他人が敷いたレールを走ってきた「なんちゃってリーダー経験」

他者に追随しただけなのに「私がやりました」と拡大解釈

どうぞ、どうぞ、と遠慮し合って就任した「仕方なくリーダー経験」

こうした持論化途上者は入社後に、自信に満ち溢れた面接から一転します。ゆえに、採用担当者は

採用時はあんなに自信があって元気な人だったのに

と、びっくりしてしまい、さらに自分を責めてしまう人もいると聞きます。

フィードバックの目的は持論の言語化だ

ただ、学生時代の経験はカモフラージュでも良いのです。経験しているだけベターです。したがって、社会人教育の出番です。
何をすべきかというと、

あなたらしい持論は________なんだね

という対話を繰り返し仕掛けてあげることです。

引用:コルブの経験学習

私が研修やコーチングで何度も活用している、経験学習という考え方があります。その中で、特に「持論」を言葉にすることの重要性を説明しています。なぜなら「挑戦」とは「持論」の組み合わせだからです。

「あの時のアレと、その時のソレを組み合わせればできそうな気がする」
こうした持論の組み合わせを行なって、私たちは未知なことにも達成予感を生み出し、行動するわけです。


本コラムではそのような人を【持論化&挑戦層】と呼ぶことにします。

自信を持つ人がやっている3つのこと

したがって、持論化&挑戦層の特徴の1つ目は自分なりの持論をもち、挑戦に活かせる人です。

また、持論化&挑戦層の2つ目の特徴に悔しかったこと、嬉しかったことを明確に語れるという特徴があります。
先述の経験学習の図にある通り、持論の前には内省があります。持論とは記憶です。したがって、記憶するためには感情や情動の情報が欠かせません。私たちは無意味な情報の羅列を覚えられるわけではありません。そこに「役立った」「悔しかった」という感情が伴うことで記憶するものです。

最後に、持論化&挑戦層の3つ目の特徴に「どうなりたい」という小さく明確な姿があります。「この大会で優勝したい」でも、「今週は利益を上げたい」でも良いのです。小さく明確な姿が経験する上での意志になります。

一方で"大きく不明確な姿"があります。

  • 「世界の思想を変えたい」

  • 「社会に幸福に貢献したい」

  • 「世の中から痛みをなくしたい」

大変素晴らしい言葉です。しかし、それがこれから行う経験にどのように結びついているかを説明できることが重要です。

私の経験上、こうした"大きく不明確な姿"は大学の講義でよく聞くものです。また、学生は"大きく不明確な言葉"をレポートや論文で書くことで評価を得るという成功体験を積んできました。ゆえに、細かく突っ込まれた「フィードバック」の体験が少なく、社会人になった時にその弊害が露呈するのです。

したがって、次章の予告も含めて、ここまでの話をまとめます。

【持論化&挑戦層(2割)】
1.何かしらの問題意識を持つ

2.小さく明確な姿を描く

3.自らの意志で行動する(経験)

4.経験を振り返って、嬉しかったこと、悔しかったことを覚えており、語ることができる(内省)

5.自分なりの持論を語ることができる(持論化)

6.未知のことに対しても、持論を組み合わせて挑戦できる(挑戦)

【持論化途上層(6割)】
1.何かしらの問題意識を持つor持ったふりをする

2.大きく不明確な姿を描く

3.なんとなくや、誘われて行動する(経験)

4.経験を振り返って、嬉しかったこと、悔しかったことがあまり記憶にない(内省)

5.自分なりの持論がない(持論化)

6.未知のことに対してできる自信がない(挑戦)

【満たされ層(2割)】
1.何かしらの問題意識を持たない:満たされ意識

2.どうなりたいという姿がない

3.行動しない:安全な日常の継続(経験)

4.経験を振り返って、嬉しかったこと、悔しかったことを覚えていない(内省)

5.自分なりの持論がない(持論化)

6.未知のことに対してできる自信がない(挑戦)


二層は極端化している


ここまでの話をまとめ、丁寧に議論を進めるためにいくつか定義をしていきます。

持論&挑戦層(2割):一般的に持論があり、任せたことを任せた以上の質と時間で仕上げる。また自分から優秀な先輩や外部の情報を見つけて真似をして、仕事のクオリティを上げる努力をしている。

持論化途上層(6割):何かしらの経験を行なっているものの、一般的に持論がなく、「自信がない」態度や言動を表出する。周囲から支援を行うものの、指示とは違う自己流を行いやすく、成果については他者と比較をして自己嫌悪に陥りやすい。

満たされ層(2割):問題意識がなく、経験も内省も自分の言葉で語ることが難しい。漠然とした焦りはあるものの、その因果関係や解決策を説明することができない。自分ではなく周囲に対してより一層の改善を要求することが多い。

また、本コラムが指している2層とは、持論&挑戦層とそれ以外だと定義しておきます。
さて、ここからは先述した2層(厳密には3層)が入社後にどのような行動を取るのかを解説し、必要なケアについて述べていきます。

持論&挑戦層は抜群のリテラシーを持つ

持論&挑戦層の特徴に、特定の分野に関して圧倒的に強いアウトプット能力を発揮する傾向があります。例えば未経験なのにAIを駆使してコーディングを行ったり、パワーポイントを洗練されたデザインでアウトプットできるなどです。これらは抜群の情報感度:リテラシーを持っている証です。

では、なぜ抜群のリテラシーを持っているのでしょうか。私がコーチングで関わってきた経験で申し上げると、

持論のアップデートを楽しんでいる

という共通の特徴が挙げられます。
先述の経験学習の通り、持論がアップデートされることでよりレベルの高い挑戦を行うことができます。そうした成果を目の当たりにし、さらにレベルの高い持論を身につける習慣が手に入ります。

そして、「レベルの高い持論は周囲の先輩たちにもある」ことに気づきます。すなわち、

勝手に先輩を真似する

という、極めて理想的な言動を手に入れます。
したがって、私が新人やインターン生を行動観察するポイントの一つに、「勝手に先輩の真似をしているか」を重要視しています。この傾向を持つ人は、多くの場合大きく成果に貢献します。

持論&挑戦層への禁じ手

ただし、持論&挑戦層の成長を阻害してしまう禁じ手もあります。そのシナリオは、

やり方まで細かく指示を出す

ことです。これは、特に指導する側の問題です。指導する立場にある人の自己肯定感が少なく、明確な持論を発信できない時にマイクロマネジメントを行いがちです。
持論&挑戦層は自分なりの持論を持っています。すると、先輩の持論が本物なのか、どのように効果があるのかをある程度吟味できます。したがって、単に先輩だからという理由で新人を下に見て、有効ではない持論を伝えようとしていることは、彼らにとっては簡単に判別できるのです。

すると、

優秀な新人が私の話をまるっきり信じてくれない

という事象に至ります。
確かに、新人や若手側の持論がプロとして通用するに至っていないことがほとんどでしょう。しかし、その未熟な持論を端から否定するのではなく、一緒に検証して持論をアップデートすることに意味があります。なぜなら、彼らはこれまでにも持論をアップデートすることを経験し、その楽しさを身につけています。

繰り返しますが、先輩の言う通りに新人が動いてくれないのは、新人の問題ではありません。新人の特徴を考慮せずに安易なマウンティングを仕掛ける先輩側の問題なのです。

持論化途上層は”自己流”にこだわる

持論&挑戦層以外の人は、あまり他者の真似をしません。それどころか、自己流で物事を進めがちです。
自己流が悪いわけではありませんが、経験や内省を通じて磨かれた自己流ではなく、自信がないために他者に相談せず、生産的では無いやり方に固執してしまうことが特徴です。

「そんなこと早く聞けば済むのに」

「なんでアドバイスしたことをその通りにやらないのか」

こうした違和感に悩む諸先輩方も多いのではないでしょうか。
ただ、安心してください。その理由は、若手社員が自分で持論を持ちたいからなのです。したがって、諸先輩型のアドバイスが信用できないわけではありません。

諸先輩のアドバイスがどういう持論なのか、
自分の中に受け止めて解釈するだけの基礎の持論がない

これが本質でしょう。したがって、持論化途上層へは過去の経験から丁寧に持論を言葉にして、さらにそれを一緒にアップデートする関わり方が必要です。

そこで、マネジメントや人事経験が長い方はこう思うかもしれません。

「過去(学生)の経験から持論を得ると言うのは、
採用面接の時点でパスしている話なのでは?」

その指摘はごもっともです。今までは、私が新人研修でお会いする新入社員の多くが上述のことをパスしてきました。

しかし、大学生活のほとんどがコロナ禍であった方々には、経験したいことが叶わないことがほとんどでした。部活、アルバイト、サークル、ゼミ、どれもが「本来だったら…」と言う枕詞がある中で我慢を強いられてきたのです。なので、この紙面でも多くの文量をコロナ禍の時代変化に割きました。

したがって、学生の時に行うべき能力開発を、企業側で担うボリュームが増えています。しかもそれに必要なのは、詰め込み型のスキル教育やスパルタ式なマナー研修ではなく、一人一人との対話による持論化なのです。

したがって私たちアンドアは、多くのマネジャーが対話による持論化のスキルを学び直すことと、人事が旧態依然の詰め込み伝統カリキュラムに疑問を持ち、育成体系のスクラップアンドビルドを強く推奨しています。

持論化途上層への禁じ手

持論化途上層にとって最も避けるべきシナリオは、

あなたの好きなようにやってみて

という関わり方です。持論化途上層は何かしら経験をしてはいるものの、再現性のある持論がありません。それにも関わらず「好きなようにやってみて」という関わり方は、彼らにとってはプレッシャー以外の何ものでもありません。

しかし、持論化途上層にとって、任されたことを「できない」と言うことや、忙しい諸先輩に相談することは”ご迷惑”だと感じます。したがって、仕事を自分で抱え込み、低クオリティーなまま納期を迎えます。

気づいた方もいるかもしれませんが、人に相談するにも持論が必要です。どのように聞くと、どのように情報を得られるのか。これ自体が対人関係における持論なのです。つまり、人に頼った持論がないと、社会に出てからも頼り方がわからず、”ご迷惑”をかけたくないというバイアスにかかってしまいます。

このような方に研修やコーチングで聞くことがあります。

過去に人を頼って最も”ご迷惑”をかけたエピソードを教えてください

こう聞くと、多くの場合「そのような経験は無い」と返ってきます。
つまり、経験が無いがゆえのバイアスなのです。

満たされ層は目立った失敗体験が無い

持論&挑戦層以外にはもう一つ、満たされ層があると感じています。私はこの層をニュータイプだと認識し、関わり方を持論化してきました。どのようにニュータイプかというと、以下のような特徴があります。

  • 人生の中で目標という目標を立てた経験がない。

  • 今までの苦労や挫折と聞かれても無い。

  • 受験も就職活動も特段の苦労はなかった。むしろ楽しかった。

  • 尊敬する人はいない。強いてあげると親だが、自分は親のようにはなれないと感じている。

  • 何かしら大きいことをやってみたいと思う。ただ、その大きいことが何かはわからない。

こうした傾向を話す中で、彼らは「自分の人生は本当に満ち足りていると思う」と話します。親への反抗期というものはなく、非常に優秀な教師と大人に恵まれ、学生時代を全うしたと述懐します。

加えて、満たされ層には大きなビジョンを表現する特徴があります。

「海外赴任で責任者をやりたい」

「仕事を通じて社会のSDGsに貢献したい」

「事業の責任者に上り詰めたい」

親や教師への感謝を述べている方が、このような壮大なビジョンを表現すると、聞き手は思わず嬉しくなります。手放しで喜び、「次の世代を担う優秀な人材だ」と評価したくなるものです。

確かに優秀な人材であることは間違いありません。ただ、満たされ層の心の声にきちんと向き合う必要があります。これらの大きなビジョンの一つ一つを細かく聞くと、

「なぜ海外赴任をしたいのかは、考えていない」
「自社の仕事がSDGsにどう影響しているうのかは知らない」
「責任者がどういう立場かわからない」

という声が聞かれます。

結論から言いますと、こうした大きなビジョンを語る背景には

何か大きな目標を立てて、自分を奮い立たせないと、
そろそろ周りに比べて落ちぶれてしまうのでは無いかという
漠然とした不安

が存在するのです。

この点、持論化途上層とは違いがあります。持論化途上層は大きなビジョンを明言せず、「自分にできることなんかありますでしょうか」と謙遜します。

一方で満たされ層は、聞く人が奮い立たされるほどの大きな目標を話す場合があります。リップサービスではなく、彼らの不安からくる必死のSOSなのかもしれません。

満たされ層への関わり方は現在も研究中ですが、私なりの考えをいくつか紹介します。

  1. 焦っている気持ちに共感し、「焦っている自分がいる」ことを認める

  2. 「何かがない」気持ちに共感し、その「何か」があると何が実現できるのかを一緒に考える

  3. 親や教師などの他人と比較するのではなく、スタート時点(入学や卒業など)の自分と比べてどのような変化があったのかを一緒に考える

  4. 憧れたり尊敬している人を1人見つけ、その人の考え方や行動パターンを研究するよう宿題を出す

こうした関わり方によって、少しずつ自信を醸成し、周囲の期待に応えるよう変化していった例があります。また、その際に講師・コーチである私に決まっていってくれる一言があります。

今まで、こんなに自分のことについて
一緒に考えてくれたことはなかった


この言葉から私が危機意識を提唱したいのは、

デバイスの発達やタイムパフォーマンスを追求する中で、
誰も経験や心情について関心を向けて問いてくれない


そんな孤独感を必死に耐え抜いた若者が多いという事実です。

対話のスキルを学び、一人一人の持論を尊重することは、もはや現代の社会課題を解決するワンテーマなのではないでしょうか。

満たされ層への禁じ手

満たされ層への好ましくない関わり方は

ビジョンを聞く

です。とても反感を買う表現だと思います。なぜなら、ビジョンを語ることの重要性は多くの成功者が証明しています。
誤解してほしくないのは、「誰もがビジョンを語るべきではない」と表現していないことです。ビジョンを聞くことでプラスになる人もいれば、マイナスになる人がいます。

そのマイナスになる人の筆頭は満たされ層だと感じます。
なぜなら、満たされ層は自分の不安や焦りを埋めるために大きなビジョンを語ります。しかし、その実現プロセスに持論があるわけではありません。また、ビジョンに対して周囲が期待を寄せるという社会人特有の評価のプロセスも知りません。知っているのは、大きなビジョンを語ると、周囲の大人が大変喜んでくれるというパターンです。

ところが、そのビジョンを語った1年後に、マネジャーとの以下のような振り返り面談が待っています。

「あれ?海外赴任するための英語の学習はやってないの?」

「海外赴任するって自分で決めたよね?なんでやらなくなっちゃったの?」

「仕事で忙しいのは皆同じだよ。そうしたら次の目標は何にするの?」

「え?SDGsに貢献?あのさ、海外赴任の目標だって実現が難しいんだから、もっと身の丈にあった目標にした方がいいんじゃやない?」

「え?やりたい事はない?そんなの、社会人としては評価できないな・・・」

その時、同期が海外赴任の切符を手にし、経営企画の同期がSDGsに関連するプロジェクトにアサインされる。そうしたシナリオが人生で初めての大きな挫折となり、マインドやスタンスが成長するということがあるでしょう。

ただ、問題はそんな都合の良い挫折ドラマが誰にでも起こりうることではないことです。仮に挫折に近い経験をしたとき、さらに困った事象が起きることがあります。それは、

人生で初めての反抗期

です。その対象は上司や会社です。
お察しの通り、満たされ層は親への反抗期というものを明確に経験していません。一方で人生で初めての挫折体験で自我が芽生えると、承認欲求の矛先が親ではなく、職場の上司や制度に向くのです。

  • 会社のアンケートで読む人の気持ちを考えない、非常に辛辣で心無い言葉を書き込む

  • 職場の繁忙に関わらず自らの権利を主張して制度を使う

  • 少しでも違和感があると不平不満をSNS上にあげる

  • 納得いかないことを〇〇ハラスメントと称してあげる

  • 〇〇代行など、本音を隠したまま意思決定を通そうとする

こうした結末を恐れて、萎縮するマネジャーが増えています。ゆえに、職場において些細なこともフィードバックせず、持論が形成されないという悪循環に陥っているのです。

人生で初の反抗期を迎えるなら、己の価値創出について闘ってほしいものです。したがって、満たされ層を迎え入れた場合に、初動として素早くどのような対応をすべきかがお分かりいただけたのではないでしょうか。


二層の差は対話の総量

さて、ここまで持論&挑戦層とそれ以外の2層について、厳密には3層の違いについて詳しく述べてきました。具体と抽象の理解を補佐するために、対象者を「新人」や「若手社員」としてきました。
そこで、ここからの議論のために解釈を加えると、ここまでの話は

新人や若手に限った話ではなく
どの年代にも共通する傾向

ということです。

前例のない中で何を選択したのか

私たちの人材開発分野でも同じことが言えます。

A)このコロナ禍や不確実な時代を捉えて、事業の貢献価値を再定義し、その価値を生み出すチームや人材のありたい姿を再定義した会社があります。

B)一方で「時代は不確実だ」という大きな標語は出てくるものの、チームや人材のありたい姿が30年前から変わらず、効果が不透明な教育施策を「伝統」という名のもと実施している会社があります。

C)さらには、チームや人材のありたい姿がわからないまま採用や育成を重ね、離職が相次いでも「優秀な人材ではないとうちの組織でやっていけない」と豪語する会社があります。

お分かりの通り、
A)持論&挑戦層の企業体質
B)持論化途上層の企業体質
C)満たされ層の企業体質
というように解釈できます。

事業のありたい姿と、人材組織のありたい姿を対話しているか

特にB)に該当するのではないかとご相談いただく事例が多いです。自覚症状として、研修の狙いと今の事業で求められていることに違いが多く、違和感があるとのお声です。

そこで、持論&挑戦層の傾向をもとに、人材開発で行う方針を示します。

【持論化&挑戦層(2割)】
1.教育施策について何かしらの問題意識を持つ

2.チームや人材像の、小さく明確な姿を描く

3.人事自らの意志で経営や現場と対話をする(経験)

4.これまでの人材を振り返り、ハイパフォーマー特有の要素を洗い出す(内省)

5.自社なりの成長持論を合意する(持論化)

6.持論を得るための補佐や、持論を組み合わせて教育施策を組む(挑戦)

繰り返しますが、持論&挑戦層の優秀な社員は周囲の持論化をよく吟味します。会社として、人事として人材開発の持論に自信がなければ、そうした優秀な社員がそっぽを向くのは時間の問題です。

そのことに危機意識を持ち、まず変わるべきは自分だと信じることが重要なのではないでしょうか。


育成のケーススタディ5選

ここまで述べてきた傾向と対策をもとに、臨床例をケーススタディしていきましょう。実際にいただいた人事のお悩みを、どのように解釈できるのかを示します。

1.できるだけ丁寧に教えたはずなのに

【お悩み】私の会社は若いうちからプロジェクトの最前線でプロダクトに関われることが強みです。これまでの受託体質から一線を画し、自らの発意を尊重するという採用方針に切り替えました。非常に優秀な社員を採用でき、従来から充実していた研修やOJT制度で早期育成に向けた施策を行いました。ところが、配属後6ヶ月ほどで退職が続き、その世代だけ採用したうちの約7割がやめてしまいました。できるだけ丁寧に育成してきたはずなのに、何が問題なのでしょうか?

【診断名】
持論&挑戦層の新人に対して、彼らの発意を汲まずに一方的なトレーニングを提供したことによるエンゲージメントの減退

【解説】
「自らの発意を尊重する」採用に対して「従来からの充実した研修やOJT」がミスマッチを起こした可能性が高いです。この場合の充実とは、手取り足取りインプットすることが前提になっていたのではないでしょうか。一方で持論&挑戦層の新人の場合は、「仕事を任せて、一緒に振り返り、持論を更新する」というスタイルが鍵です。

2.自由に裁量を持たせたはずなのに

【お悩み】私の会社は経営に近い社風が特徴です。新入社員であっても自らの手挙げで事業を起こすことが可能です。また、働き方も各個人の裁量に任せていて、リモートワークやフレックスタイムといった制度が充実しています。
ある新プロジェクトに経験豊富なリーダーと、若手メンバーをアサインしました。その若手メンバーは入社当時からやる気があり、過去に新規事業を立ち上げた経歴があります。1年目の既存事業では頭一つ飛び抜けた成果を出しました。ところが、新プロジェクトでは重責に感じているのか、一向に成果が見られず、リーダーも手の打ちようがなく、半ば放任している状態です。何が問題なのでしょうか?

【診断名】
持論化途上層に対してオープンでプロセスの見えないプロジェクトをアサインしたことによる、迷子状態と自信の喪失

【解説】
既存事業で成果を出したということから、何かしらの明確な成功法則(プロセス)があり、それを高く再現したのではないかと考えられます。一方で、ゴールもプロセスもこれから定義する新プロジェクトにおいて、持論化途上層は戸惑いを露呈します。もしかしたら本人は過去に新プロジェクトを立ち上げたと話したかもしれませんが、それは他人の意志やプロセスに乗っかったまでで、持論&挑戦層が経たプロセスを辿っていない可能性があります。既存事業に籍を移し、もう少し確たる持論化を語るまで様子を見た方が良さそうです。

3.早期育成に向けて教育したのに

【お悩み】私の業界では覚えるべきことが多く、一人前までに時間がかかることが特徴です。業界知識や基礎技術の習得に時間を要すため、入社から半年間は退職後の嘱託ベテラン社員による授業を行う毎日です。その授業は弊社の伝統で、厳しくも集中して業界知識を詰め込む習慣になっています。しかし配属目前の9月、新入社員たちは着こなしがルーズになったり、金髪に染めたり、休憩時間が終わっても席に着いていないなどルーズになっていました。4月の時点でマナーやスタンスはしっかりしていた人たちが、半年の研修期間を経てだらしなくなってしまい、配属先で大変な目に遭うことが予想されます。何が問題なのでしょうか。

【診断名】
学級崩壊に類似した、不対話教育による反抗期化とスタンスの影響浸透

【解説】
4月の時点ではマナーやスタンスがしっかりしていた新人が、9月の時点でだらしなくなってしまったということは、その間の期間に問題があると考えられます。すると、貴社の伝統である厳しくも詰め込み型教育の日々に問題があると言えるでしょう。そこで疑わしいのは、教育する日々の中で、新人同士が今日学んだことを対話したり、気づきや不安を言葉にして整理する時間は十分にあったか?ということです。仮になかったとしたら、満たされ層が反抗期化し、その影響が他の同期に派生してマナーやスタンスが崩壊していったと考えられます。そもそも会社の伝統だからといってその教育は肯定されていいものなのでしょうか。会社として驕りや怠慢がなかったかを検証していくことが重要でしょう。

4.「自信がない」気持ちに寄り添ったのに

【お悩み】私は採用と新人育成を行なっています。年々おとなしい人が増えていると感じます。最近の年度では、採用時点から発話が少なく、内定者懇親会では弊社の役員が「ずいぶんおとなしいね」と言いました。私たちも心配になって一人一人に不安や悩みを聞く面談を定期的にしたり、人事からの情報発信を行なって、なんとか一人も離脱することなく入社することができました。その面談は入社後も継続して行いました。
ところが、入社から6ヶ月ほど経つと、「希望の部署に配属してもらえないのなら辞める」などと、上司や会社の方針に対して異を唱えたり、「今の上司に十分に評価してもらえていない気がする」といった相談が増えました。一方で、ほんの少し顧客から要請があっただけで「ストレスでしばらく休みたい」と申請があったりします。現場のマネジャー達からは「新人が繊細すぎる」とお困りの声をもらうようになりました。何が問題なのでしょうか。

【診断名】
人事による新人の「お客様化」

【解説】
本来であれば内定時と入社後はスタンスの切り替えが必要です。内定時は「もらう側(お客様視点)」でいいのですが、入社後は「与える側(プロ視点)」が欠かせません。ところが、ご相談の通り、不安や悩みを聞く面談によって図らずも新人達に「『もらう側』のままでいいのだ」という影響を与えた可能性があります。そこに、一定数いらっしゃった満たされ層が反抗期化したのではと考えられます。
人事は新人達の親ではありません。一緒に働くパートナーです。そう考えたときに、悩みや不安を聞くことは結構ですが、問題の本質を一緒に顕在化し、行動案を模索するというビジネスの基本を踏んだでしょうか。一方で単に悩みを聞き、「なんでも聞いてくれる良い人」を演じていなかったでしょうか?後者の場合は新人をお客様化します。

5.キャリア面談でビジョンを重視したのに

【お悩み】弊社ではダイバーシティー&インクルージョンの観点から、一人一人へのキャリアビジョンの実現を支援すべく、キャリア面談に力を入れています。具体的には、マネジャーがメンバー一人一人と月に一回はキャリアについて面談をするというものです。
ところが、マネジャーからは「メンバーにキャリアを問いかけても言葉が出てこない」といったお困りの声が多く、メンバーからは「面談が単なる業務の進捗管理の時間になっている」と言われます。施策とは裏腹にエンゲージメントサーベイのスコアは下がり続け、優秀な社員から離職する事態が続いています。何が問題なのでしょうか。

【診断名】
持論化途上層に対してオープンすぎる問い

【解説】
キャリアについて問いかけても言葉が出てこないのは極めて普通のことです。むしろ、そこで言葉が出てくるのは、よほど持論がある中堅、ベテラン社員か、持論&挑戦層の若手社員でしょう。ということは、面談で対峙したメンバーの多くは持論化途上層であった可能性があります。となると、面談におけるニーズは1.過去の実績から一人一人の持論を言語化すること2.今後の小さくも明確な姿を一緒に決めることの2点です。そこに対して大きすぎる問いを投げてしまったことにより、面談が機能しなかったと考えられます。
優秀な社員の離職が面談と関連があったとは考えにくいです。しかし、優秀な社員は会社の明確な方向性によってエンゲージメントが変わります。D&Iやキャリアビジョンなどのビッグワードに溺れず、社員がワクワクするような明確な方針を語っていたか?会社として振り返る時でしょう。


鉄則は「やったこと」を言語化する対話の技術

考察に加えて5つのケースも見てきました。どのケースにも共通するのは、持論の言語化です。そして、持論の言語化は日々の職場の中で行われます。

したがって、人材開発の基礎として持論化を支援する能力開発が欠かせません。つまり対話のスキルなのです。

私たちアンドア株式会社は、さまざまな能力開発会社の中でも対話に特化しています。コーチングをベースに開発した独自の1on1技術と、組織課題の臨床を通じて最小工数で行動変容が起きるよう支援することにこだわっています。

今後は「チームで教え合う」が求められる

最後に、今後の人材開発のニーズについて予告をして締めたいと思います。

持論&挑戦層、持論化途上層、満たされ層はより特徴を明確にしていくでしょう。すると、同じ職場や同期同士で、話しが噛み合わない場面が増えます。
そこで、チームで教え合う重要性を訴求することが求められてくるでしょう。具体的には

  • 自分の持論を相手が活用できるように一般化する

  • 言葉の定義を噛み砕いて誤解なく伝える

  • 相手の解釈と自分の解釈のずれを尊重し合う

こうしたチーム内対話のスキルが向上することで、各層の社員はお互いの成長に触発されて能力が向上するはずです。

私たちアンドア株式会社のスキルトレーニングは、チームで教え合うことにも寄与します。一人でも多くの方が「本来の力を思いのままに」できることを信じて、支援していく所存です。


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