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なぜ赤字に悩む会社が、対話型リーダー育成で黒字化できたのか

対話型能力開発に特化したアンドア株式会社の堀井です。
ある企業の再生と30代リーダー育成の成功事例を通じて、次世代リーダー育成の重要性と具体的方法について論じたいと思います。


ある企業の再生ストーリー

私は大手企業や大手関連企業の次世代リーダー育成の講師として、研修とコーチングを組み合わせた深い関わりを持つことを特徴としています。3年間支援させていただいた企業の事例を紹介いたします。

高品質なパーツの製造が売りであるA社は、数期連続で赤字を計上していました。社員の不満は多く、優秀な人材の流出が続いていました。実際に現場で話を聞くと

  • 「昔は良かった」という口癖

  • 挨拶すらない職場

  • 依然として10年以上前のITスペック

  • アナログな仕事に固執する古参社員

  • 口を開けば経営陣への不満

  • 誰も意見を言わない会議

こうしたことが常態化していました。

負のリーダー像と経営陣の決断

そんな中、経営陣は次の2つの大胆な決断を下しました。

  1. グループ企業でも前例のない最新鋭プラントの建設

  2. 次世代リーダー育成への本格的着手

これは非常にリスクの高い決断でしたが、結果的に会社再生の転機となりました。

なぜこの決断が功を奏したのか。
それは、この会社のリーダー像に大きな問題があったからです。
具体的には以下の4点が挙げられます。

  1. 高業績プレーヤーを昇進させた弊害
    自身の成果にのみ固執し、他者の育成や部門間協力に無関心である

  2. 離職への危機意識の欠如
    「離職する人は適性がない」という偏った見方

  3. 表面的な仲の良さ
    表面上は会話が多いが、真面目な対話がなされておらず馴れ合いが起きている

  4. 責任回避と懐古主義の文化
    口を開けば「昔は〜だった」「昔は良かった」であり、意思決定の場面で誰も責任を取らない

この状況下で、入社3年以内の離職率は4割に達しました。
そうなると、仕事のしわ寄せは教育役の30〜40代の中核人材に向きます。せっかく教育したのに辞められてしまい、評価は下がるが、自分の仕事は増える。この状況では優秀な中核社員も辞めるはずです。
実際に中核社員の流出も深刻化していました。

真のリーダー像を再定義する

そこで私たちは、次のような施策を実施しました。


「自ら課題を設定し、潜在的な利益に向けて
メンバーのリソースを引き出すリーダーの育成」

これは、従来の「指示待ち型」人材育成とは一線を画すアプローチです。

3年間支援させていただいた結果、30代の中核社員から「この会社のリーダー像を刷新する」という強い意志と高いスキルを持ったリーダーが続々と誕生しました。彼らは他者のリーダーと比較しても、組織の問題発見解決で具体的な成果を上げ、組織全体に変革の波が広がりました。

このケースの成功要因は以下の3点です。

  1. 経営陣の強い腹ぎめ
    プラント投資とリーダー育成を同時に推進

  2. 実効性のあるリーダー育成へのコミット
    机上の理論ではなく、実際の職場の問題発見を扱い、現場実践とコーチングを徹底的に組み込んだこと

  3. 長期的視点でサクセションプランを対話
    人事部門と外部講師が、5年後、10年後の会社の姿を具体的に描き、継続的に議論を重ねたこと

特筆すべきは、部長、役員層の変化です。彼らが現場の声に真摯に耳を傾け、支援型のマネジメントスタイルを採用し始めたのです。その結果、エンゲージメントスコアは導入前と比較して大きく向上しました。

育成の全体像と個別アセスメントのサンプル©︎アンドア株式会社
重要なことは中長期的な視点で言語化と対話を繰り返すこと

なぜ期待の社員が「リーダーになる自信がない」と言うのか

このような成功事例がある一方で、多くの企業では依然として効果的なリーダー育成が課題となっています。その理由は、多くの中核社員と対話をしてきた中から説明できます。

現場で頻繁に直面するのが、「リーダーになる自信がない」という声です。これは単なる謙遜ではなく、本質的な課題を示唆しています。

このような意識を放置すれば、「リーダーになると負け」という組織文化が形成されかねません。実際、ある IT 企業ではマネージャー昇進を拒否する社員が続出し、深刻な人材不足に陥った事例があります。

「リーダーになる自信がない」の本質的な理由

結論から言うと、この言葉を発する中核社員の多くは、

リーダーになることについて他者と対話をした経験が少ない

ゆえに、3つの重要な誤解が存在します。

1.「責任」を「辞めること」と誤解する

多くの若手社員が、リーダーになることを過度のプレッシャーと捉えています。「私には責任が取れない」と言うのです。
しかし、私は決まって、

「責任を取る」って、具体的に何をすることですか?

と問いかけます。すると、多くの方は返答に窮します。
「責任を取る」ことは「辞める」ことだと勘違いしているケースが多いのです。研修では、責任とは英語で考えると理解しやすく、responsibilityであり、「何があっても対応する」ことだと伝えています。
つまり、何があっても対応できるようなシミュレーションや人などのリソースの巻き込みをすることが「責任のある行動」です。

2.上司に対する断片的なイメージ

多くの若手社員は、上司の仕事を「指示を出す」程度にしか理解していません。また、「組織の板挟みにあって可哀想な人」というイメージを強く抱いているのかもしれません。
一方で、不測の事態に「何が合っても対応できた」時の達成感や、メンバーが頼もしく働いてくれた時の幸福感といったプラスのイメージは多く語られません。
もちろん、そうした話をしている一部のマネジャーはいらっしゃることは事実です。一方で多くの場合、マネジメントのプラスの側面は「初めて知った」など、驚きを持って共有されることが多いのです。

3.リーダー像への古い固定観念

たとえばリーダー=カリスマ型など、固定観念ゆえにリーダーになる自信がないと言及している場合があります。一方で、リーダー像は多様です。サーバント型、シェアード型など、時代の変化とともにリーダー像も変化しています。こうした概念を学び直すことで、中核社員自身の誤解が解け、自分に合ったスタイルを模索するようになります。

©︎アンドア株式会社

cf. リーダーへなることへのイメージ調査:
Gallup社の最新調査によると、ミレニアル世代の44%が「リーダーになることに強い不安を感じる」と回答しています。その主な理由として、「過度の責任」(37%)、「失敗への恐れ」(29%)、「自信の欠如」(24%)が挙げられています。

(Gallup, 2023)

居心地が良いから不満が増える

ここで、もう一つの重要な課題に目を向けましょう。「変化の必要性」を認識しつつも、実際には行動に移せない若手社員の存在です。この背景には次の3つの要因があります。

1.根本的には今の生活が快適

現在の生活に一定の満足を感じており、更なる成長や挑戦に踏み出せない状況があります。実際に30代社員と対話をすると

  • できることなら今の給料のままがいい

  • 仕事のレベルと生活レベルにとても満足している

  • 下手なことをして(つまり昇進して)組織のしがらみに揉まれ、生活の質を落とすことはしたくない

    こうした本音が聞かれます。


2.長年"痛み"がないから、他者の”痛み”に気づけない

私は組織開発でも事業開発でも、リーダーとしての考察のスタートは”痛み”だと伝えています。

【誰の”痛み”をどうしたいのか】

これを自分の言葉で語り、一緒に働くメンバーの共感を得ることで影響力が行使され、リーダーシップ開発になるのです。
しかし、トレーニング初期では多くの受講者が”痛み”を言語化することに苦労します。それは

”痛み”を忘れてしまった

と表現する人が多いことからも、長年職場のエースとして活躍しているうちに、気づくと違和感やワクワクする姿などを考察せず、感性を働かせた言語化を忘れてしまうのです。

したがって言語化できない”痛み”に対して感知できなくなります。顧客の何か言いたげな表情も、若手メンバーの落胆も、

報告がないことには感知できない

と言う、まるでロボットのようになってしまうのです。

3.「何かが悪い」と、仮想敵を作り始める

ロボットのような日常を送っても、人は人です。感情があります。
そこで、

  • エンゲージメントスコアが低い

  • リスクを承知で抜本的なDXに着手する

  • 業績はそのままで大幅な生産性向上にコミットする

こうした”痛み”を伴う変化について、何が”痛み”かを言語化できない人は仮想敵を作り上げます。

孤立化する「中年の反抗期」の正体

これが、「会社の問題」「環境の問題」といった抽象的な課題認識なのです。
そして、心のSOSを拾って欲しいあまりに、あらゆるアンケートで辛辣な評価コメントを残します。

ただ、そのコメントには原因の深掘りも具体的なアクションプランもありません。

記述しているのがまだ10代であれば親身になって話を聞く人がいるでしょう。しかし、いい大人が反抗期よろしく有力者に振り向いてほしいだけのSOSは、自らが最も恐れる「孤独」を生み出すだけです。

ゆえに、具体的な”痛み”に向き合い、「なんとか対応する」というリーダー経験を提供することは、中長期的な会社の人財戦略に直結します。

cf. 現状維持バイアス:
ハーバード大学の研究によると、人間には強い「現状維持バイアス」があり、たとえ不満があっても現状を変えることに抵抗を感じる傾向があります。この傾向は職場環境において特に顕著で、キャリアアップや新しい役割への挑戦を著しく阻害しています。

(Harvard Business Review, 2021)

人事部門の役割:リーダーシップの魅力を伝える

人事部門の役割は育成体系や評価制度構築にとどまりません。リーダーになることの意義と魅力を、全社に浸透させることが重要です。特にリーダーになることの魅力や面白さを発信して欲しいと切に願います。

  1. 「責任」の概念の再定義
    「責任」とは「より多くの選択肢を持つこと」であると再定義し、具体例を交えて社内に浸透させることが重要です。

  2. ポジティブな経験の戦略的発信
    「リーダーになって良かった」という声を、戦略的かつ継続的に発信する必要があります。

  3. 安全な「失敗の機会」の提供
    リーダーシップの失敗は実務上大きなリスクを伴います。そのため、安全に失敗を経験できる「実験の場」を提供することが重要です。

©︎アンドア株式会社

cf. リーダーと修羅場体験:
Center for Creative Leadershipの研究によると、リーダーの成長に最も寄与する経験は「修羅場体験」です。しかし、実際の業務での失敗はリスクが高すぎるため、安全な環境での疑似体験が重要となります。シミュレーションや仮想プロジェクトを通じて、失敗から学ぶ機会を提供することで、リーダーシップスキルが飛躍的に向上することが明らかになっています。

(CCL, 2022)

自転車の補助輪が外れた日を思いだそう

私はリーダー育成トレーニングの中で、結局大事なことは何かとフィードバックする中で、

いい未来を選択する

ことであると考えます。

できるか、できないかの問題ではありません。

誰でもぱぱっと簡単に、即席でリーダーシップ能力が身につくことはありません。


自転車に乗れるようになった日のことを思い出してください。
擦り傷を増やしながら、半べそをかいてペダルを漕いだあの日です。

もうやめたい、もう帰りたい、という選択肢がチラつく中で、

「乗る!」
って決めませんでしたか?

これこそがいい未来を選択した証です。

気づくと、自転車に乗れるようになり、達成感と自信に満ち溢れ、どこまでも移動したい自分に出会ったことでしょう。

その感覚を忘れないでください。
その思いで、今度は職場の皆で自転車を漕ぐ。これがリーダーシップの原点だと思います。


cf. 選択理論:
心理学者のウィリアム・グラッサーの選択理論は、リーダーシップ育成に新たな視点を提供します。この理論によれば、人間の行動はすべて自らの選択の結果であり、その選択の自由を認識することが幸福と成功につながるとされています。この視点をリーダーシップ育成に適用すると、リーダーの役割を「選択の幅を広げる存在」として捉えることができます。これにより、リーダーシップへのポジティンな動機付けが可能になります。

(International Journal of Choice Theory and Reality Therapy, 2020)

対話を軸に、リーダーシップを開発する


次世代リーダー育成は、もはや企業の成長戦略の中核を成すものです。

重要なのは、リーダーシップを「重荷」ではなく「選択する自由の拡大」として捉え直すことです。そのためには、以下の3点が不可欠です。

  1. 安全な環境での徹底的な実践機会の提供

  2. ポジティブなリーダーシップ経験の戦略的発信

  3. 「選択する」ことの意義を体感できるプログラムの構築

これらを一貫性を持って実行することが、効果的なリーダー育成につながります。

新しいアプローチを採用する価値は十分にあります。リーダーシップの本質的な魅力を伝えることで、組織は大きく変わる可能性を秘めています。

対話の専門企業であるアンドア株式会社は、こうした次世代リーダー育成プログラムの設計と実施を、徹底的にサポートいたします。表面的な対処ではなく、組織の根本的な変革につながるプログラムを、共に作り上げていきましょう。

次世代リーダー育成を変えることで事業と組織に大きな変化が起きます。貴社の未来のために、共に歩んでいけることを楽しみにしております。


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