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短編ホラー: 禁断の檻に流れた水 ①

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【あらすじ】 #ホラー小説部門

盆休み。人間と話ができるハムスターのキンクマと共に山間のコテージで過ごすことになった主人公のタツジュン。しかし、タツジュンが財布を落としたことで外出を余儀なくされ、その間にキンクマが奇妙な出来事に巻き込まれた。

キンクマは目撃した光景を伝えることができず、二人で事態の収拾を図ることになる。

そして、13年前の少女行方不明事件に関与することになる。

不気味な一家との関わり。
一体何が起きていたのか、キンクマとタツジュンに待ち受けているのは、さらなる恐怖の展開だった。
行方不明の少女には母親が二人?
ジャーナリスト・浮所いずみの手を借り、事件は解決に向かうのか?謎を秘めたホラーミステリー。


         6日間 連載


序章


「『週刊エックス』の浮所いずみさんの携帯ですか。
私、以前、浮所さんにお世話になった
辰巳淳弥です」



「盆休みは山だよ」
ハムスターのキンクマと露天風呂付きコテージでのんびり過ごそう。

言葉が話せてpcが操作できるハムスター・キンクマとタツジュンこと俺は、妻・遥香を亡くした心の傷をこうして一緒に埋めている。

俺はキンクマと日々を楽しむのが供養と捉えて。

キンクマと下調べをしながら、予算に合うコテージを発見。
都内からZ県までは、キンクマにも快適なドライブにしてやりたい。
それでSUV車をレンタルした。

選んだコテージは
「タツジュン、露天風呂もあるし地下室もある。
なんかここって豪華じゃん」

画像から、見た目も女の子が好きそうな三角屋根の山小屋風コテージで、ウッドデッキではバーベキューができる仕様らしい。
値段もお手頃価格。すぐにネットから予約を入れた。

あんなことになるとは思わずに……。

第1章 恐怖のキンクマ

静かな山間の薄暗い夕暮れ時、
僕はコテージの小さな窓から外を眺める。

「もうすぐタツジュンが帰ってくるはずなんだけどな」

タツジュンはここに来る前のスーパーで財布を落としていると携帯があり、受け取りに行ってまだ帰らない。

時計がないコテージで、僕はタツジュンの帰りを心待ちにしていた。

昼ご飯はサンドイッチだけでお腹が空いたし、何より露天風呂。
室内を見渡しても「素敵」を実現させた内装。
タツジュンは新作料理を作ると意気込んで、
とにかく僕はコテージに来るのを指折り数えていた。

しかし、いつまで経ってもタツジュンは帰らない。
荷物とエアコンの音だけで寂しさと不安があった。

「財布を拾ってくれた人と会えなかったのかな。
それとも話が盛り上がったとか?」

僕は暇ではコテージの中を走り回りまる。

ヒノキかそれらしき木の香りが充満するコテージはシンプルな造りでオシャレな
「こういう所でクリスマスパーティをやるんだろうな」とレンガを積んで出来た暖炉などを冒険して行った。

タツジュンは
「絶対、女の子ウケするカップル御用達」など言っていた。

確かにどこもかしこも非日常的で、木目が部屋中にあるなんてマンションにはないナチュラルな趣。

真っ白でふかふかの布団があるベッドやレトロ感のあるロッキングチェア。
でも、洋画や絵本にあるシチュエーションは、
タツジュンがいないと全然魅力を感じない。

お盆の夕方は心なしか日暮れが早く、
灯りのない室内の木目は人間の目や顔があちこちにあるようで、少し怖い。

「タツジュン、遅いよ。まだかな」
タツジュンは何しているんだろう。

スマホに電話してみるが「電源が切られているか、電波が繋がらない場所」にいるらしい。
遅くなるなら前もって電話してくれたらいいのに……。

内装の壁と同じ材質のテーブルに上がり、窓から外の様子を伺うが、樹木の大きな陰はさっきよりコテージに近づいたように見え、薄気味悪い。

でもこういうのも山特有の現象なんだろう、ちゃんと楽しまないと!

室内の四隅をぐるぐる歩いてみる。
塵一つない清潔さは管理者の行き届いた心遣いが分かる。

僕はまた窓際でタツジュンの帰りを待つ。
「まだかな……」

エアコンの冷気と窓枠からの熱気は程よい温度で、僕は瞼が重くなってゆき、
窓ガラスに縋っているうちに目を閉じた。

ドタッ

音とともにガラスが揺れる。
「んん?」

目を開けた瞬間、有無も言わせぬ血走る目玉が僕を凝視し、ガラスに両手をついている。
頭から濡れたワカメと泥を被ったような「モノ」が窓に張り付きこちらへ何かを言って。

ギャァぁああああああ!!!

僕の身体は反射的に出た足の反動で、床に転がり落ちてしまった。

うぎゃぁぁあああああ!!!

ヤバい、ヤバい、本気でヤバい。
なんだ、あれ。
コンロや流しの続きにある階段が見え、僕は一目散に地下室へ飛び逃げた。

地下室の扉は少し開いている。
僕は転がるように部屋へ駆けって
「何あれ?幽霊?妖怪?」

地下室は、暗くて薄気味悪い場所だが、あんなお化けより全然怖くない。

地下室は床へコンクリートが張られて何もない。

奥へと進んでいき、タツジュンが帰ってくるまで隠れられる場所を探す。

すると、奇妙な光が目に入ってきた。
なぜか、その光に導かれるように僕は奥へと進んでいった。

第2章 水溜りの秘密

僕が光にたどり着くと、そこには小さな穴があり、
外の様子が見えた。

コテージの庭、中央には古いベンチが置かれており、ベンチには誰も座っていない。

でもどこからか人の声がする。
僕は一旦、穴から抜け出すと外は室内より明るく、そして目に映る光景に釘付けになった。

そこには、一人の少女が顔を伏せて泣いている。
少女は裸足で、髪が汗か水で固まっている様子が見て取れ、
「ママ、ママ。どこにいるの」
母親とはぐれたのか、助けを求めているように感じた。

僕は少女に話しかけようとするが、
しかし、僕の声は離れているので少女には届かない。

僕は庭の少女が誰なのか、なぜこんなところにいるのかを知りたくなった。

僕はそろそろと少女に近寄った。
そして触ろうとした瞬間、少女を呼ぶ大人の声と足音。

僕はベンチの脚に隠れる。

「罰当たりが!」怒鳴り声と叩く音。
「やめてください」反抗する悲痛な叫び。

大人は少女の身体を踏みつけるわ、蹴り上げるわ、直視できない虐待が始まる。

少女から「グエッ」
嘔吐なのか、何なのか分からない。

大人が一人から二人へ、二人から続々とやって来ては少女へ殴る蹴るが繰り広げられる。
「やめて!」
少女は大人たちに羽交い締めに合うと、着衣を破られ、棒のようなもので背中やお尻が叩かれる。

少女の顔や身体が見え、タツジュンよりかなり背が低く、顔はアイドルの奥田ゆめのちゃんに似て。

ということは、かなり可愛い女の子?

僕は呆気に取られて後退りすると、後ろから首根っこを掴まれ、高い位置まで振り挙げられると遠くへ投げ飛ばされてしまった。


どれだけ眠ったのか、気を失ったのか、
幸いケガはないが、草木が茂る向こう側には人間がいて、棒を両手に握りしめながら聞いたことがない言語が辺りの景色を塗りつぶしていくように轟く。

目を凝らすと、池か沼のような水溜りがあり、人間が一人ずつ交代しながらそこへ入っていく。
多分、何か修行をやっているようだ。

水溜りの淵には台がある。
横には白い布を被った人間のようなものが他の人間を監視している様子が分かる。

おかしな言語は湿り気のあり、耳から入ると心臓が掴まれる感触がして頭がおかしくなりそうだ。

ジメジメした言語はお経なのかもしれないし、でも遥香の命日に聴いたお経じゃない。
延々と続くおかしな言語と交代で水溜りに入水する修行。

水溜りの淵にある台から少し離れた所へ火が着けられた。人間は全員で二十人ぐらい、さっきより様子がよく見て取れる。

「あの子だ」
ベンチがある場所で裸にされた少女が大人に腕を掴まれ水に入っていく。

足元が覚束なく、頭から水に落ちると大人が棒で少女の顔を引き上げる。

少女は甲高い声で助けを絶叫し、また大人に掴まれて岸へ引き上げられ、台の裏へ引っ張り込まれた。

おかしな言語が止まった。ヒグラシなど虫の声だけが周囲からする。
姿勢を正した人間たちは、棒を両手に持ち、水溜りの方を向いて動かない。

白い布を被った人間のようなものは女性で、
号令をかけた。

人間たちは、二人一組で互いに向き合うと棒をカチカチと剣道みたいにゆっくり交差させる。
そうしてまた、人間たちは水溜まりの方を正面に直立不動になった。

白い布女が再び号令をかけると、少女を台の上へ昇らせて横にする。
少女が上半身を上げると大人に叩かれ、また横になる。

白い布女が動いた。
水溜りを囲む人間たちの後ろをのっそりと歩いて、行き止まった人間の肩に手を置く。

肩に手を置かれた人間は、回れ右をすると白い布女と対面する形になり、白い布女が台の方へ戻ると後ろをついて行く。

白い布女が台を指差し、棒を持った大人は台に上がった。
少女を見下す感じだ。

大人は屈むと素手になり、少女の足元に立つ。
水溜りを囲む人間たちが歌を歌い始め、歌のサビに入る部分で一斉に台へ向かって姿勢を変えた。

台にいる大人は少女の両足首を掴み、宙吊りにし、
歌のリズムに合わせて少女の頭を水に浸ける。
少女が両手をバタつかせて悲鳴をあげようがお構いなしに。

ドブン、ドブン

少女は観念したのか、両手を万歳した形で静かになった。
この歌は何番まであるのかリピートしているのか、訳がわからない。

そこで僕はやっと分かった。
僕が窓際で見た、あの妖怪は少女だったのだと。
少女はコテージに逃げてきたんだ。

逆さ吊りの少女は白目を剥いて、口元から液体が垂れている。生きているのか死んでいるのかも、この場所からは分からない。

白い布女の号令で歌は終わり、少々は台に万歳したまま寝かされた。

白い布女が数字を口にする。
「2、5、7、11、13」
それは人間に振ってある番号だったのか、5人が台を取り囲み、何やら準備をしている。
少女はまだ万歳したままだ。

呼ばれた人間が『井』の形をしたものを、
白い布女とは対称の位置へ、それを埋め立てると
今度は少女を『井』へ括り付けた。

少女は、頭・首・両手・胴体・両脚と縄で固定されていくが少女から声や抵抗する素ぶりがない。

また白い布女が号令をかけると、さっき見た人間たちが『井』へ方向を身体を変え、列になる。

列が動いた。
『井』の形になった少女の近くから順番に少女を棒で殴っていく。

少女は「痛い」「やめて」
固定された身体を拗らせ抵抗するが、止めてもらえるはずがない。

人間の順番が半分も行かないうちに少女はまた静かになり、身体が動かなくなった。

少女を叩く列が終わる頃、白い布女は、詩のような祝詞のようなものを暗唱する。
少女も他の人間も微動だにしない。

「パチ、パチ、パチ」
暗唱が終わり、手を叩く音がし、
「始め!」やっと聞き取れる言葉が聞こえた。

と、思ったら台にいた大人や番号を呼ばれた人間が、少女の身体を舐めるわ、触るわ、棒で突くわ、
もう僕には理解不能になってきた。

獣のような声は泣き声を超越し狂乱している。

暫くして、少女が糞尿すると人間たちから歓喜が上がり、顔や身体に塗りたくる、口にする。

少女が吐瀉物を散らすと少女の口を大人の口が塞ぎ、水溜りの淵にいる人間までもが棒を振り上げ、沸き起こった熱気に包まれていく。

やっと少女は磔から解放され、地へ降ろされた。
どこかへ用意してあった担架に寝かされ、山の奥へ運ばれていく少女。

担架の横を正面を向き一緒に歩いて去る、白い布女。

台や『井』は分解され、
代わりにバンがやってきて、それらを荷台へ乗せ、
人間たちはスピードを落としたバンの後ろを整列し、水溜りから居なくなってしまった。

「ここはどこなんだ?」
投げ飛ばされた僕はこの土地の地理を知らない。

僕は真っ暗闇のどこへ向いてコテージに帰ればいいのか分からず、草に隠れて朝まで待つのが良いように思えた。

でも、こんな場所であんな光景を目にして眠れない。
「道を探そう。道路があれば何かの目印があって
コテージに帰られるかもしれない」

バンと人間たちの列が行った方へ道路が繋がっているんじゃないか。

水溜りの淵まで出て、全力で走った。
早くタツジュンに知らせなきゃ。
あの少女は生きているのか。

脇腹が痛くなり、脚が攣りそうだが、そんなことに構っている場合じゃない。

時々、後ろを振り返る。
車一台も来ない山の中で、本当は怖くて固まるかもしれないのに僕には安心しかない。

誰もいない、あの変な集団に気づかれてない。
これがどれだけ命拾いか、
「タツジュンに会いたい」の意欲に繋がるか、
修行を目撃した後は逃げることしか頭にない。

やっと道路に出たが、左右どっちに行けばいいんだろう。
「この道路は坂道だ」
そうだ、僕たちは車で登ってきたんだ。

また後ろを振り返る。誰もいない。
登り坂はキツいがそんなことは言っていられない恐怖は足を先へ先へ進ませる。

どれぐらい走ったんだろう。見覚えのある花畑が左手に見えてきて、暗がりに仄白くアーチが浮かんできた。
「コテージだ……」

アーチを潜ると、同じ形の可愛い建物が点在し、
一軒だけ灯りが点いているのが確認できた。

「タツジュン、帰ってきてる」

タツジュンのレンタカーが停まっている、
コテージからする木のいい香りもしてきた。

再度、後ろを振り返り立ち止まり、目を閉じて耳を周囲へ傾ける。異状な音などないし、僕の後をつけてくる人間もいない。

僕は助かったんだ。助かった……。

コテージの階段や灯りがついた窓の縁をよじ登る。
中にはタツジュンがいて、ベッドの下を覗いていた
「僕を探しているんだ」
今ある力で窓ガラスを叩く。
「タツジュン、タツジュン!」

タツジュンはガラスを叩く僕に気づいてドアを開けて、手のひらに乗せられると両脚や両手、腰の順番で魂が抜け落ちるのが分かった。

                              〜ネタバレ・解説〜