エメラルドは、ほめられなければ輝きを失うか?|齋藤孝『図解 自省録』より
人からほめられなくても
人間の価値は変わらない
「エメラルドは、ほめられなければ輝きを失うか」──カッコいい言葉ですね。美しいものは、それだけで十分なのだ。それ以上何が必要だろう、ほめられることすら必要ない。
ダイヤモンドでも花でも、美しいものはほめられないと、その輝きがなくなる、なんてことはありえませんね。人間も同じです。ほめられたからといって、よくも悪くもなりはしません。
作家の志賀直哉に『清兵衛と瓢箪』という短編があります。瓢箪といえば、ちょっと高齢者の趣味みたいですが、主人公の清兵衛は、少年なのに瓢箪が好きで、小遣いでいろいろ集めては、ピカピカに磨き上げています。
でも親や先生はそれをよく思わず、誰も評価してくれません。ところが、清兵衛は実はたいへんな目利きで、彼の瓢箪は、骨董屋が高値で買うほどのものだったのです。
この話のように、とても好きなものがあって、それに入れ込むことには、案外強いものがあります。好きという心持ちそのものが、エメラルドなのかもしれません。人からほめられなくても、それで清兵衛の真価が、変わるわけではないでしょう。
私たちも、エメラルドのようなものを、自分の中に持っていたいものですね。
人の称賛は、すぐに忘れられる
名誉に心をわずらわせることはない
いまの時代、人からの称賛がどうしても欲しい、という人が多いような気がします。ほめられると、当然嬉しい。けれども、ほめてほしいと思う人が、これほど増えたのは、もしかするとSNSが発達してきて、すぐに「いいね」が返ってくるからかもしれません。
私自身の経験でも、「いいね」ばかりを期待しないで、自分が表現する行為そのものを、大切にするほうが、かえって心が満たされるのでは、と思うのです。
名誉にしても、当然、他人あってのもので、ほかの人が素晴らしいと思い、ほめてくれることが名誉となる。それは人とのよい関係をもたらしてくれるので、名誉を欲しがって心を悩ませることも生じてきます。
ところがマルクスは、「人びとはすぐ忘れてしまう。喝采の響きはむなしい」と語ります。そして「我々の前には、過去にも未来にも伸びる無限の時間が、深い淵となって横たわっている。我々の住む地球も、宇宙のただの一点にすぎない。その一点の、さらに小さな片隅で、どんな人間が、君をほめたたえるというのか」と、続けています。
こうした永遠の時間の中では、ほんの一瞬間にすぎない私たちの人生です。名誉欲、他人の評価などにとらわれて自分を悩ませるよりも、自分を広い宇宙に放り出してみる。そして狭くて小さな周囲の評価によって、自分が左右されないようにするのがよいのです。
もちろんほめられるのは、悪いことではないでしょうが、「特にほめられる必要もない」と思うほうが、心をわずらわされない、伸び伸びとした生き方かもしれませんね。
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