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”後回し”にしちゃうクセ_小説家の「片づけ帖」#11

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■モノ・コトはいつだって子泣こなじじい


「モノを整理しようと思うんだけど、どこから手をつけたらいいか分からないんだよね」

という友達になら私は、「いま目の前にあるコーヒーカップ以外の、自分用のカップを全て捨ててみるといいよ」と、大胆なことをサラリと言うことができる。「案外困らないものだよ。その日の気分で使い分けたいと言うならもちろんかまわないけど、そもそも身の回りがさっぱり整っていくと、気分なんて日によってそうそう変わらなくなるよ」って。

「どこから?」と言うなら、答えは「今ここ目の前」だ。

一方「分かってはいるんだけど、なかなかできないの」と言われたら、私は首が千切れそうなほど大きく頷いて「分かるー!」と叫ぶ。

私にもつい後回しにするクセがあるからだ。自分にとって本当に重要なことであればあるほど、考える体力と時間が必要なことであるほど。「思い立ったら即」が実行する最適なタイミングで、それを逃すとそのままダラダラと後回しにしてしまう。

そして、まずは「わりと短時間に片づくこと」からどんどん手を着けていると、ちょっとした隙間に「急ぎ対応が必要なこと」が差し込まれてきて、気付けば夜になり力尽きて「本来、今日中に片づけておきたかったこと」が翌日に持ち越される。
翌日だって、結局は同じようなサイクルで、どんどん後回しになっていく。そのうち、気付けばほぼ手つかずのまま期日がすぐ目の前まで迫っているのだ。

たとえば確定申告だってそうだし、締め切りのある原稿書きの仕事だってそうだ。確定申告は、余裕をもって手を着けた年は10分ほどで終わった。逆に、領収書の整理も含めて後回しにした年は、6月中旬くらいになってようやく申告をし終えた。

そもそもプレッシャーがあるから後回しにするわけだが、締め切りが近づくごとにプレッシャーは増していく。ときに半べそで片づけながら、私は「モノ・コトはいつだって子泣こなじじいだ」と痛感する。

子泣き爺とは、水木しげる大先生のキャラクターでおなじみの、杖を片手にみのをまとった大きな頭の妖怪だ。お爺さんの妖怪であるのに赤ん坊の泣き声で人間をたぶらかし、抱き上げてもらうとだんだんと体重を増していく。そして最後は岩ほどの重さとなり、抱きかかえている人間を押しつぶしてしまう、というアレだ。

「今はまだちょっと……。後で、集中できる環境を整えてからやろうっと。グッと集中したら3時間くらいで終わるはず」

そう思っているうちに、プレッシャーはみるみる岩のごとき重圧となる。

■【ききみみ日記】と【お礼ガチャ】

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