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靴を捨てる_小説家の「片づけ帖」#9

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■骨レベルで痛い靴


靴とは、翼だと思う。

「この間買った靴なんだけどさ。とても足に合っていて歩きやすいものだから、ついフットワークが軽くなるんだよ。ちょっとしたことだけど、寄り道をしたら新しい発見があったりして、楽しいんだよね。靴がこれほど気分に影響するものだとは思わなかった」

友達の楽しそうな顔を見ながら、私はしみじみ頷いた。
明るい色の靴を履いていたので、「その靴、素敵だね!」と声をかけたのが切っ掛けだった。

そして、かなり前に別の友達から某ハイブランドの靴をもらったときの記憶が蘇った。

あや、合わなかったら捨ててくれてかまわないから、この靴要らない? 2分ちょっと試し履きしたんだけど、骨レベルで痛いんだよね」
「骨レベル?」
 私が笑いながら返すと、友達は神妙な面持ちで頷く。

「実は私も友達にもらった靴なんだけどね、その子が2分試し履きして断念したんだって。『骨レベルで痛いから遠慮なく処分してね』って言われた時、私も笑っちゃったんだけどさ。玄関で履いて試しに立ち上がった瞬間、本当に骨レベルで痛くて。『ああ、これはマンションの階段さえ降りられないや』と感じたんだよね」

 とてもエッジが効いたデザインが私の好みだったので、二つ返事で譲り受けた。友達の言葉は大げさな冗談だと聞き流したのだ。
 
「確かに堅くて歩きにくそうな靴だな。でも、履いてるうちに馴染むでしょ」
 実際に足を入れながらそう感じた。しかし立ち上がった瞬間ズキリ! と親指の付け根に痛みが走った。ヒールが高いため全体重がつま先に乗るのに、靴底が皆無といえるほど薄く、締め付けにまったく融通がきかない。
歩くうちに、親指と小指の中間でパッカリと骨が割れてしまいそうだ。

「無理ぃ~」
私も5歩進んだところで諦めた。

ハイブランドの靴だから、そもそも我々庶民の生活を想定して作ってなどいないのだろう。例えばふかふかの絨毯の上を、車までの短い距離でさえ誰かに支えてもらってようやく成立する。童話に出てくるガラスの靴ばりに履きにくい靴だった。

面倒くさいので、私もすぐさま処分した。

■不要な靴は突然「出て」くる

そして今日も、レースをあしらったパンプスを捨てた。

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