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ストーリー

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ホロスコープのハウスや惑星の象徴のキーワードからの創造のお話 一人の人間の中に、一人の人間の外になにがあるのか。
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記事一覧

0 と1  第十四話 最終話 

交差点の手前で人々が吸い寄せられるよに集まり、何事かざわめいて居る。

「女の子が事故だって。」

誰かが叫んでいた。

「誰か、救急車!この子の母親か、保護者はいますか?」
「救急車に今、かけてます。あと、だれか警察。」
「ドライバーは?!」

現場は騒然としていた。

様々な意識が集い、現実のあり様に立ち止まる人々。倒れた女の子に皆の意識は集中していた。

「もしもし、事故です。幼稚園年長か小

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0と1  第十三話 ゆるして

0はレストランに居た。
向かいには、60代後半に見える女性。その隣には、0と差ほど変わらない年の女性がいた。

待ち合わせ場所に来るのは母だけだと思い込んでいたので多少面食らったが、3人でスムーズに今の所は会話が進んでいた。
むしろ、3人で確かによかった。

今目の前にいる母だけではここに至らなかっただろう。
隣にいる女性は妹。父親違いの姉妹だった。

母をこうやってまじまじと見るが、ただただ幸せ

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寓話  (0と1.1)

ある山奥に熊の親子の住むお家がありました。

お家には立派な大きなキッチンと、お父さんぐまの作った広々としたテーブルと椅子がありました。

子グマがお家へ帰ってきました。

テーブルには、ご飯の支度がされていました。

テーブルクロスの上に、箸置きと箸。下向きに並べられた椀やグラス、お水の入ったピッチャーグラスもありました。

キッチンでは、大きなお鍋がグツグツと美味しそうな湯気を踊らせ皆のかえり

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0と1 第十二話 天秤のある空間

佐々木は足早に店内から0のいるテーブルへもどってきた。

「お母様に連絡いたしまして、今夜7時に食事でも、と申しておりました。0さん、お時間は大丈夫ですか?」

「はい。大丈夫です」

「その際に、0さんとお母様のお二人きりになりますが、それも問題はないでしょうか?」

「はい。」

「そうですか。では、その旨、私からまたお母様に連絡しておきます。時間は19時、こちらの場所で待つそうです。」

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0と1 第十一話 預言

0は後ろから肩を叩かれた。

振りかえると、小柄で、人の良さそうな顔つきの女性が立って居た。淡いグリーンのワンピースにネイビーのジャケットを羽織り、にこやかに微笑んでその人はいた。

「0さんですよね、穂村かぞえさんご存知ですよね。」

0は何か嫌な予感を感じた。

「はい、母ですけど。」
疑うような眼差しで、その女性を見つめる。

細い目の隙間から黒いレンズが0を捉えて佇んでいた。

「娘さんの

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0と1 第十話 独りの0

私は4時半にいつも起きて、ハタキかけし、床を乾拭きする。
薬缶にたっぷり水をはり、蓋をはずして8分以上火にかける。
白湯を作る。

子供のときからの習慣だ。
といっても、祖父母と生活していた間の習慣だ。

あの頃に、あの場所に戻りたい。

祖父母がいて、山に広い空に、身近に感じた生き物の気配のする世界に。

風が力強く吹き抜け、太陽を落ちていくのを見ていた。なんの邪魔もなく見渡せる高原の空と山の境

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0と1  第九話 あかいりんご

りんごの皮むきをしていた。

7歳のころには0はりんごの皮むきが上手だった。果物ナイフで器用にりんごの側面に角度を合わせ左手の指先の位置をずらしていく。

誰かの為に、りんごを剥いたことはない。
皮むきを初めてしたのは6歳の頃だ。

多分生まれて初めて自分の為にやろうとした行いだ。

祖父母の家で暮らす前の頃。当時暮らして居たマンションには、菓子パンとりんごが、いつもリビングにあった。

りんごが

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0と1  第八話 0への色

「ねえ、新しいワンピースこのオフホワイトのかボルドーどっちか、迷ってるんだよね。1はどっちのが好き?あたし、1の好みに全然あわせるよ。」

1はスカーレットの色についてぼんやりと考えて居た。

暖かく、鮮やかさより深みと融合を感じる赤。それについて考えていた。マリの声に遮られても、考えは中断しなかった。

俺は、あまり赤って好きじゃないんだけど。

なんでこんな事を考えて居たのか?

「ちょっと、

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0と1  第七話 故郷望郷

訪問者は日常の外側にいる。

けれど何時もそこに居る。

片方の手のひらを差し出し、虚空のなか打ち合う音を聞く時、我々は同じ空間にいる。

隻手。その境地にいる者なのかもしれない。

僕らは、見ようとする。

何時も絶え間なくある音を聴くのも忘れて。

音は純粋な情報だ。見る事よりも先だ。音は形をつくる。作られたモノを僕らは見つける。そして心が動くように思う。

心は、音を聞いた瞬間に分かっていた

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0と1   第六話 ぼくは

僕はずっと誰かの感情がわからなかった。
いや、わからないフリをしていた。

いつからだろう?

それを考えるといつも想い出す記憶がある。

ずっと昔。まだひらがなも書けないくらい幼い頃。

誰かが泣いていた。
ああ。弟だ。

痛いな。

弟のすすり泣く声に僕の体が痛むのだ。

「どうしたの?痛いの?」

弟は壊れた壁掛けのカラクリ時計を指差して
「壊れたの」 
と言う。

「壊れたから悲しいの?」

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0と1 第一話

私は 01010。通称ゼロ。

特徴は肩まである黒いストレートのしっかりした髪だ。

体格は痩せ気味。だと思う。

骨格、体のラインはいくらかストレートな線を保って居る。

 

午後
何時だったかうろ覚えだが 1 と会う約束をしてた。
”1”は”101011”私は「いち」って呼ぶ。

付き合いはそんなに長くない。初めて会った時はまだ桜も咲いていないくらい寒い季節だったと思う。

全部うろ覚え。だ

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0と1  第四話 言葉と距離

二人は窓際の2名席に向かいあって座っていた。

外の銀杏並木が程よく色づき始めている。

モンブランケーキを君が目を細めて、しっかりと幸福の味を堪能している。

ストレートのダージリンをゆっくりとポットからしずかに注ぐ0。
細い指先が白い陶器に添えられるとぐっとその無機質さと対照さをます。それは一つの美しさだ。1はそっと視線を外しながら思った。

「で、彼女とは今後も付き合っていくわけ?」
「付き

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0と1  第五話 盲目と毒

私の思いは、いいえ。夢は自分の存在ごと消え去ること。

別れた恋人の家にわざと自分の持ち物を置いていく女もこの世界にはいる。

わたしは相手に残った、私の記憶ごと消し去りたい。

心を深く通わせた人ほどそうだ。

私という者の痕跡が一切残らないように消え去りたい。    

自殺願望じゃない。 

一切を、この世界のすべてと私を切り離しておきたい。

境界線をきちんと自覚する為。
それが私が幼少の

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0と1 第三話 距離

二人は改札を抜けホームへ。
丁度階段を降りた頃に電車が到着。

そのままシートへ腰をかける。平日のこの時間の車両は程よく人気がない。
アナウンスがなってやがてドアが閉まる。

0は閉まり切るのを目視していた。

通路を挟んだ向かいに1が腰をかけている。
柔らかな前髪が彼の美しい額にかかる。
傾いた日差しが1の横顔のラインをぼかしている。

二駅先で降りるのに、彼は本をまた開いた。0の方へ顔はあげな

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