0と1 第三話 距離

二人は改札を抜けホームへ。
丁度階段を降りた頃に電車が到着。

そのままシートへ腰をかける。平日のこの時間の車両は程よく人気がない。
アナウンスがなってやがてドアが閉まる。

0は閉まり切るのを目視していた。

通路を挟んだ向かいに1が腰をかけている。
柔らかな前髪が彼の美しい額にかかる。
傾いた日差しが1の横顔のラインをぼかしている。

二駅先で降りるのに、彼は本をまた開いた。0の方へ顔はあげない。本に集中している。

この向かいあう僅かな距離が今は二人を他人にした。

0は退屈そうに外を眺める。

まあ、いつものカフェで遅めのランチといこうか。それとも、駅から少し歩くが、モンブランのおいしいケーキと話題になっている喫茶店、どちらかかな。

1はモンブランが好きだ。

そこでいいか。少し歩くけど。文句は言わないだろう。


二駅目手前でアナウンスが入り、1は本を閉じた。トートバックからはあのミトンが顔を覗かせている。
よかった。ミトンにはそこがこの世界で一番落ち着くべき場所であるように見える。

なぜ、その赤い色が私らしいと思ったのか?

ふと1と目が合う。

1はこちらのことをわかっているようで、分かりもしない。ただ何時も微笑んでるだけだ。

なんだかな。

二人は改札へ向かう。
0は1の歩調に合わせる。意識して歩くペースをコントロールする。1を早歩きさせそうで、文句は言われたことはないが、時々自分の歩調の早さに嫌気がさすことがあるから。なるべく人と居る時くらい気をつけようと心がけて居る。

「北口ね。少し歩くけど、モンブランが・・・」
じっとこちらをみてくる1に言葉を停止した。
「お昼まだなんでしょう。ランチまだやってるお店でもいいよ」
「私のことはいいから。何時もお昼なんて食べようとは思って居ないし。食べる時に食べるから。そこは気にしないでいいから。
ほら、1はモンブランすきでしょう」

しばらく沈黙が入る。
「行こう」
0は歩きなかがら
「モンブランたべよう」

二人はまた歩調を合わせつつ駅を離れた。



歩きながら1はミトンを見つけたお店の話だとかをご機嫌そうに話はじめた。心地の良いトーンとペース。子音のキレの良い発音リズム。しかし温かみがある語尾。時々善良そうな早口にもなるけど、どれも心地がいい。そして、いつも懐かしさを感じる。

なぜだろう。

本当に嬉しいんだろう。発する全てに喜びがあふれている。

風が強まってきた。

ミトンを手にして0の目の前にかざしてきた。
「なに?」
「似合うと思う、つけてみて」
「え。今?寒くないよ。」

時々突拍子もないことを投げかけてくるんだ。

「似合うのに。」
その俯きかけた顔をみて
「わかった。貸して。ほれ。どうじゃ?お似合いか?」
ふざけた調子げミトンを手にはめてみる。
「・・・・」
じっとミトンと0を遠目でみたりしながら、やがて満足げに
「やっぱり、いいんじゃない。」

思わず二人揃って笑う。

「でもこれ、あなたのでしょ。私が似合っても仕方ないでしょうよ。」

真剣な顔でミトンと0を交互にみつめる1。

「君らしいもの。だから。いいんだ。僕に似合うものを選んだって僕は喜ばないし。僕のために、僕が喜ぶことをしたいだけ。」

「・・・」

時々彼は分かりそうで、わからないような何か深そうで浅いのかわからない発言をする。


これは永遠に刻まれる瞬間な気がした。


君は何時も五感を超えるものを感じさせる存在だから

現実的なのか?夢想なのか?そんなものどちらもある。ごちゃ混ぜに。
もし、線を引いて距離を測ることに義務感を持つ奴がいたら是非そいつに計測してもらおう。
どこかでバカらしく思う瞬間があるだろう。

意味を問う。その君の距離感はとてつもなく深く、遠いんだろう。

そういうの、孤独だよね。

だから近いんだ。誰よりも私と。

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