未補

詠んだ短歌のまとめなど。つらつら。

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詠んだ短歌のまとめなど。つらつら。

最近の記事

【俳句2021年夏】見知らぬ受話器

夏蝶を見るというとめどない落丁 漏斗くぐるキャベツのなかの二重写し 小満のいつまでもゆびきり未遂 鳥の眩暈はラムネの脱字と等価値 すれ違う耳を歩いてくる芒種 眼帯をはずして花栗を濡らす 夏川へゆく研ぎすぎた影 鳩尾の鮨 さっきまで白だった 鍵のように手を失くす鬼灯市 パラソルに風 見知らぬ受話器取る

    • 【第九回俳句四季新人賞応募作】ささやかな病

      ささやかな病/未補 対岸の人の薄目を雪崩かな 熊穴を出て空き箱をすこし買う 天国の対語はなくて春鰯 簾しておとうとの毛が濡れている 蛇の歯を拾う四等分の月 鍵穴のある子は夏の月へゆく ほうたるか図面に存在しない窓 日焼したわたしの影は踏みやすい 睡蓮は顔の名前をつけ直す 乱婚のさなかで名指されるダリア 千年後鳥になる国阿波踊 きちきちや切り札にしてはあかるい 相撲草切れて渾名のすり替わる 時差のない水へ漕ぎ出す精霊船 秋蝉は水の終わりを問い返す

      • 【俳句2021年春】深爪主義

        さ揺らぐ芝火 鳥の発話か 獺の祭に集う深爪主義者 円卓の春ショール不干渉を彩度に 吹く息にふえるジョーカー春動く 帰る白鳥はもっとうすい水が欲しい 五感に傷、にんにくオプションは別記 万愚節のバーコード 利き手には読めない 波音の剥がれるように海女の息 山独活の水を詳しくする拇印 花水木植えて書き言葉に気泡

        • 【俳句2020年〜2021年冬】書記と香料

          巻貝たちの夜咄くちびるに黒子 片っぽの手袋へ一人称を 十二月八日を離すいちめんの窓 暦果て給水塔に垂らす香料 リラと書くべきだった破魔矢の商標 鳥肌を嘗める子のいて松の明 客死して霜焼は誰かのキュート 雪礫傷あるもののように死ぬ 天狼と死球 最前列は大人 凍滝を振り返れば書記の声変わり

        【俳句2021年夏】見知らぬ受話器

          【俳句2020年秋】遠い署名

          千年後鳥になる国阿波踊 きちきちや切り札にしては明るい 時差のない水へ漕ぎ出す精霊舟 ぐずるマネキン 処暑の子宮を 遡 る 秋蝉は水の終わりを問い返す 目隠しのアルファベットと秋の遊び 相撲草切れて渾名のすり替わる 茱萸の縁取る生殖の為の肖像画 沈黙さえ億劫松茸に戻る 冬近し 遠い署名の 屈折率

          【俳句2020年秋】遠い署名

          【第63回短歌研究新人賞応募作】絵の、うすく白い

          絵の、うすく白い/未補 けっこんはあんしんらしい永遠に研がなくてよいナイフを貰う アパートにかかる虹からみどりだけ抜いてわたしの寝間着を作る 月をみてふつうと言った人のこと結婚式で思い出したい モノポリーはいつも見ているだけだった季節はずれの苺をねだる 家計簿に書きたいものは水に浮く野菜のことやホチキスのこと 排水溝詰まっているし曇りだし海月を飼って増やしましょうか 紫陽花は怖がりだから窓のないまぶたの中に飾る晴れた日 耳鳴りと嬌声の境い目はどこラジオははやい

          【第63回短歌研究新人賞応募作】絵の、うすく白い

          【俳句 2020年夏】顔の名前

          顔の名前/未補 偽の消印蚤の谺がそこここに 簾しておとうとの毛が濡れている ほうたるか図面に存在しない窓 蛇の歯を拾う四等分の月 鍵穴のある子どもは夏の月へゆく 掌編のなかで涼んでいる子象 日焼したわたしの影は踏みやすい ビデオ炎ゆ砂利で埋まる時価のからだ 睡蓮は顔の名前をつけ直す 夕焼を汲んでエレベーター昇る

          【俳句 2020年夏】顔の名前

          第6回詩歌トライアスロン選外佳作「tempera」(三詩型融合作品)

          tempera/未補 光を知るつもりのない部屋に まだあなたになる以前のわたし とるにたらないことで贖う 木箱の中の詩 靴を買いにゆくという嘘 蜜柑のふりをしたドアノブ 永き日に鳥を束ねて売る花屋 火葬されたかった魚たちがチャイムを鳴らす しかし瞼は耳のことを知らない やみくもに床をまさぐれば 散り散りになった背中に触れた 牛乳を足せばさみしい春の骨 カーテンは風ですり減っている 昨日パラフィン紙ごしに文字を買った 制約のない壜の中は 蕾を模した目玉で満ちている まば

          第6回詩歌トライアスロン選外佳作「tempera」(三詩型融合作品)

          【俳句 2020年春】すこし買う

          すこし買う 未補 心臓を置いてしばらくして焼野 夜に手をひらけばひとひらの凧は 手のなかに春がいなくて春の鹿 口中のくらやみ蜆汁まみれ 蟻穴を出るひとすじの傷となる 雨に目が混じりしずかな苗木市 対岸の人の薄目を雪崩かな 熊穴を出て空き箱をすこし買う 天国の対語はなくて春鰯 運命は濡れながら来る荷風忌も

          【俳句 2020年春】すこし買う

          【第四回円錐新鋭作品賞応募作】パノラマ式

          パノラマ式/未補 半円のねむりを梟のよぎる 冬空をまぜて陶器になる目玉 まどろみの座礁に耽る冬銀河 狐火を交わす呼吸をするために 行き暮れて白鳥の眼に腕を巻く 雪晴やパノラマ式の双子産む 鮫を飼う世界をサボる言い訳に 潮花のふくらみ月面の気もち まえぶれを薄めてひらく冬すみれ 春隣椅子取りゲームだけ弱い 画布の雪虫を通り抜ける視線 まなざしのひかりのなかへミモザ消ゆ ものもらい二月は砂に会いたがる

          【第四回円錐新鋭作品賞応募作】パノラマ式

          【第62回短歌研究新人賞応募作品30首】日々

          もうなにも選ばなくてもいい人へ花屋の花を買い占めた朝 死んでても生きててもいいアボカドの種を育てる また遅刻する 火曜日はシチューにしない おじいちゃんあとどれくらいおじいちゃんなの 埼玉と疎遠になったはずなのにPayPayで買う百円の古書 回覧板うまく回せないせいで町内会が崩壊してゆく 十五人までなら埋められる庭にか細いブルーベリーを植えた 透明な猫に餌付けをカラフルな鳥はわたしのために囀れ スーパーの魚放流してうちのお風呂はラブホみたいにひかる 湯船では目

          【第62回短歌研究新人賞応募作品30首】日々

          一句評 いち。(斎藤秀雄)

          餅搗やこんなにジューシーな素敵/斎藤秀雄 短歌の評は毎月書いているけれど、俳句の評というものをまともに書いたことがない。 なので、いつもきりんねこ短歌合評会でお世話になっている斎藤さんの作品を練習台(?)にして、俳句評を書かせてもらうことにした。 上記の句は、短歌俳句誌We第7号に掲載された斎藤さんの句の中で、私が特に好きな一句。 三ヶ月前、私はこの句を以下の画像のように読んだ。 最初、画像にあるように読んだけれど、今読み返すと、この読み方は変。そもそも「ジューシー」は餅

          一句評 いち。(斎藤秀雄)

          有無谷六次元さんとのいちごつみ。

          今年の1月から2月にかけて、有無谷六次元さん(@umu_6_D)といちごつみをしました。 遅くなりましたが、まとめです。 1.生き死には等しく無価値 猫の尻を縫って目指すは星の真ん中/有無谷六次元 2.白昼夢にひらく瞳孔縫っている警官の目は底なしの夜/未補 3.「神経が絡まってます。警官の来ないドーナツ屋が並んでます」/有無谷六次元 4.穴のないドーナツ屋だと罵られ穴という穴あけて東風吹く/未補 5.緊箍児が東風に溶けても鯒面の女の前では眼鏡を外

          有無谷六次元さんとのいちごつみ。

          第一回笹井宏之賞応募50首「図書館だった街」/未補

          シロナガスクジラの腸に図書館を詰めて海にも文字を教える 黙々と迂回路を行く書誌の街 増築工事のめどがたたない 目録を書かれた君を探すのは簡単すぎるどこにでも行け にんげんに分類記号を貼りつけて正しい位置に並べ替えたい 引くごとに宇宙になってゆく君の辞書としてあるわたしも宇宙 ここでいいの?ここがいいの?0類の書架はゆらゆら司書もふらふら 不揃いな長さの爪の子はみんな禁書の棚に挟まれる罰 足の裏むおんむおんは堆積しやがて無音のわたしができる 一類の書架でぼ

          第一回笹井宏之賞応募50首「図書館だった街」/未補

          【俳句連作】さいしょからいない

          豆を挽く手にあなたの手秋の朝 夕霧の三叉路に立つ新婦かな 松虫や名のらなくても名を呼んで 見も知らぬおとこと寝たの猫じやらし 手鏡の虚像は飽かず秋ともし 愛ばかり吐く口檸檬もてふさぐ 人混みにかるい違和感そぞろ寒 残る菊どこにも触れてないうちに 抜けがけはとてもずるいねどくきのこ 暮の秋きのうのわたしもういない

          【俳句連作】さいしょからいない

          自選20首。2018.10

          夕暮れのセックス壊れたクーラーと汲み置きの水そういう夏だ 人間がエモいと切り取る夏の空蝉よ情動のままに死ね 好きだって言ってた海を歩いてる足のつかない場所までずっと わたくしのものではない蛍、蛍、 一面の朝焼けに漂う 夜にだけ底がなくなる水たまり蛍の籠を抱え飛び込む 星月夜わたくしの紙魚が滲んでわたくしを喰いわたくしになる また同じ本を読むように君に会うのにまた違うあらすじになる めくるめくる息を止めてめくるだけわたしのことは知らなくていい

          自選20首。2018.10