見出し画像

【第62回短歌研究新人賞応募作品30首】日々

もうなにも選ばなくてもいい人へ花屋の花を買い占めた朝

死んでても生きててもいいアボカドの種を育てる また遅刻する

火曜日はシチューにしない おじいちゃんあとどれくらいおじいちゃんなの

埼玉と疎遠になったはずなのにPayPayで買う百円の古書

回覧板うまく回せないせいで町内会が崩壊してゆく

十五人までなら埋められる庭にか細いブルーベリーを植えた

透明な猫に餌付けをカラフルな鳥はわたしのために囀れ

スーパーの魚放流してうちのお風呂はラブホみたいにひかる

湯船では目を閉じているたまになら知らないひとに抱かれてみたい

へたくそな前戯みたいにFコード 鳴りっぱなしのやかんを止めて

しなくてもいいセックスをしたあとで作り置きしたマリネを食べる

とりあえずビール供える会ったことない祖父のため厄除けのため

おいしいかまずいかどれが肉なのかどうでもいいか三日目の夜

図書館の本はみんなのものだけど誰のものでもなくてきれいだ

司書モノのアダルトビデオ見るときはわたしのことを思い出してね

五七五だけの睦言ふくらんでせがまなくても続きがある日

最初からLINEの通知オフにしてちゃんと性欲手懐けている

迷ってもどうせおんなじ場所に着くミントの苗を間引く夕暮れ

黄昏のような目覚めをくり返す空の花瓶に水を注いで

眠るためのおくすりはゆめを見ないのにゆめで会おうとこいびとは言う

きみの手を握るとさかなになる仕組み悪いゆめでも息ができるの

おくすりで「せいじょう」になるこいびとの設計図にはわたしはいない

ツイートのこいびと嫌い熟れすぎたライチみたいにいつも真夜中

こわい夢みたのとLINEしたときに「ゆめ」と返してくれるこいびと

きみの潮騒を聞かせてまっさらなゆめの岸辺に続く足あと

ゆめのこと何も覚えてない顔でキスをしないでしらけちゃうから

この家におばけがいると信じてたわたしはいつの間に消えたんだろう

なにも産めなくてごめんねお花だけちゃんと枯れるまで見届けるから

さよならはまた会える人にだけ言うのわたしがきみの奇貨だったのに

もらうだけもらった愛を返せずにみんな死ぬから子どもがいない

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?