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【第九回俳句四季新人賞応募作】ささやかな病

ささやかな病/未補

対岸の人の薄目を雪崩かな

熊穴を出て空き箱をすこし買う

天国の対語はなくて春鰯

簾しておとうとの毛が濡れている

蛇の歯を拾う四等分の月

鍵穴のある子は夏の月へゆく

ほうたるか図面に存在しない窓

日焼したわたしの影は踏みやすい

睡蓮は顔の名前をつけ直す

乱婚のさなかで名指されるダリア

千年後鳥になる国阿波踊

きちきちや切り札にしてはあかるい

相撲草切れて渾名のすり替わる

時差のない水へ漕ぎ出す精霊船

秋蝉は水の終わりを問い返す

十月の空啄めば手紙降る

沈黙さえ億劫松茸に戻る

冬近し遠い署名の屈折率

舟を舫えば雪迎え睦みあう

鏡を剥けば林檎の起こすことすべて

盤上へ外野手を吐く虎落笛

遠火事の気配に長い正誤表

冬木が翳す象舎にささやかな病名

それは鱈だろう口移しの包帯

透明の比喩の引用冬木の芽

人参を剥けば夜明けの水匂う

十二月八日を離すいちめんの窓

駅の名をつけるそばから去る千鳥

鳥の抜け殻として拾う手袋

晩鐘を数え残して斧仕舞

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