第6回詩歌トライアスロン選外佳作「tempera」(三詩型融合作品)

tempera/未補

光を知るつもりのない部屋に
まだあなたになる以前のわたし

とるにたらないことで贖う
木箱の中の詩
靴を買いにゆくという嘘
蜜柑のふりをしたドアノブ
永き日に鳥を束ねて売る花屋

火葬されたかった魚たちがチャイムを鳴らす
しかし瞼は耳のことを知らない
やみくもに床をまさぐれば
散り散りになった背中に触れた
牛乳を足せばさみしい春の骨

カーテンは風ですり減っている
昨日パラフィン紙ごしに文字を買った
制約のない壜の中は
蕾を模した目玉で満ちている
まばたきがときどき落とす朝焼を栞にするとなにも読めない

とるにたらないことで贖う
窓を擦るバースプーン
ゼロで出来た梯子
双子になれなかった電柱
玄関の軋みにあふれ出すミモザ

鳥葬されたかった魚たちがベランダに出てゆく
しかし皮膚は喉の奥を知らない
やみくもに手摺に縋れば
散り散りになった背骨に触れた
からっぽの汽車を吊るした春夕焼

蛇口は月で塞がれている
おととい不織布ごしに文法を買った
柵のない壜の中は
卵を模した目玉で満ちている
鳥たちが朝を悼んで落ちてゆくそれきり声は音を手放す

闇を知るつもりのない部屋に
まだわたしになる以前のあなた

いつのまに時間は曳かれたのだろう
星図を泳ぎ切るよりもはやく
意味は互いを結びはじめる
夜の辞め方を忘れてしまった

ひかりでもやみでもないへやに
あなたとわたしは
まざりつつ
はなれる
ことをつづける

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