専業主婦


文句を言っている。

駅のホームで座っていると、
隣に葬式前の喪服を着た独身女3人が文句を言っている。

みてみーよ

あのさあ、シワひとつない顔。
専業主婦なんて3食昼寝付きでしょう。

そうはいっても大変なんちゃう?

いやいやそんなん知らんやん。
何の不満もなく、暇そうな、苦労のない顔よ。

そうそう、働いてないから呑気に暮らしていられるんでしょう。
私達、働いてるのとは違うのよ。


そういう 3人組の女達は、
顔をしかめながら、みるからに鬱陶しい顔をしていた。
眉にはしわが寄り、 3人ともシワのある顔だった。

そんな会話をわざわざ聞かせられる、こっちまでシワっぽい顔になりそうだった。

お前ら 3人と、その専業主婦は関係ないじゃないか。


私が働けている時は、専業主婦が嫌いだったかな。

私の家族は、母も祖母も働き者だったから。

私の幼い頃は、土日には母が外に出て働いて家にいなかったから。
土日に母が家にいるなんてなかったから。
母はひとりで家計を守るのに必死だったから。
私は父親と一緒に暮らしたことなんてないから。

しばらく時が経って、
自分が大人になって、
父親の戸籍を調べたら、再婚していた。

父親を探しあてて、会ってみたら、
結婚相手は専業主婦だった。

だから、私は元から専業主婦が嫌いだ。

一緒に暮らしたこともない父親に、
家族の縁なんて感じることはないよ。

家族の概念って、血が繋がっているだけではないよ。

血は繋がってても、それだけでは家族とは感じないものだよ。

父親が私との再会を喜んで父親の腕の中で抱きしめられながら、
なんとも言い難い、何も気持ちが湧いてこなくて、違和感だけが溢れた。

しばらくして、父親は普段の調子が戻ったのか、
営業マンらしくよく喋るひとだと分かった。

よく喋る。
何も気の利かない、空気の読めない、
女に嫌われるタイプのひとだなと思った。

私が金融に就職したからって、
父親は自分がもし死んだら
自分の奥さん、専業主婦の他人さんの分まで、資産管理宜しく頼むよと、ペラペラ楽しそうに話した。

この専業主婦は、父親の稼ぎだけを頼りに、
それ以外を目を瞑って再婚したんだろうと思えて、嫌だった。

私は、この父親の鬱陶しい空気の読めなさに、目を瞑りたかった。

父親と結婚した専業主婦へ。
お前は父親から私と言う子供がいたことを聞かされていないかもしれないが、
私とは散々遺産相続で揉めてから死のうな?
もっともっと父親もお前も苦しんでから死のうな。

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