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小説

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自作の小説です。 最近はほぼ毎日、500〜2000字くらいの掌編を書いています。
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#輪廻転生

世界茸(後編)

世界茸(後編)

 岩盤はさらに抉られ、生白い茸の脚が人工の光に晒されていた。ぬらぬらとしたその根の内部を今も蒸気となった魂が流れ、母となる者の内に生命を宿している。

「王は狂っていると思われますか?」

 俺の問いかけに博士は巨大な茸から視線を下げて俺を見つめた。

「この決断は理に適っていると思うよ。この先も戦いが長く続くなら、かつ敵国を徹底的に滅ぼしたいのならね。まぁ、狂人扱いされてるあたしが言っても仕方な

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世界茸(前編)

世界茸(前編)

 命は永遠ではない。

 どんな人間もやがて年老い、病を得て死んでゆく。

 誰もが死すべき運命を知っているというのに、人は同胞と争い、余分な苦しみを自らに課す。

 循環する悪夢の流れに新たな筋道を付け、輪廻から憎しみを消し去れるのなら、この身を捧げ尽くすことなど厭わないというのに。

 朧月が輪郭をなぞるのは老いた手。花の咲く蔓の彫刻が施された椅子の背を撫でる。

 几帳面に並べられた筆記具も

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【小説】流転(境界のない木々が感じる輪廻の話)

【小説】流転(境界のない木々が感じる輪廻の話)

 土の下で根と根はつながっている。

 風があなたの梢を揺らし、あなたの声となる。

 ——ここにいる。

 同じ風がわたしの梢を揺らし、わたしの声となる。

 ——ここにいるよ。

 太陽を浴びたあなたの喜びが根から流れ込んでくる。水を得たわたしの鼓動があなたを震わせる。

 わたしと根を握り合うあなたが、彼女が、彼が、少しずつわたしに溶けている。わたしは緩やかな濃度勾配を描いて彼や彼女やあなた

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