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海の幸の宝石箱は「興味」に似ている。

キャリアの寺子屋、3回目。
私は朝から車を走らせていた。
会場は、2回目と同じ古民家である。

時間に余裕はあった。
朝マックとしゃれこむ。ドライブスルー。
アイスコーヒーをドリンクホルダーに置き、
私は軽快に車を走らせていた。

3回目にして、初めての晴れだった。
これまでは、2回とも大雨。
うん、今回はよほどの晴れ男・晴れ女が
参加しているに違いない!

強い真夏の日差しの中、運転をしながら
今日の寺子屋について想いを馳せる。
今回のテーマは「興味」だ、という。

興味か。うん。興味…?

いったいこれが人のキャリアに
どう関わってくるのだろう?
1回目は「自分の軸・やりたいこと」、
2回目は「自己探索ナビからの個性」、
そして3回目は『興味』と来た。

英語で「興味(を持たせる)」という
『interest』という言葉は、
inter「間」にest「存在する」から
来ている、という説がある。
…物事の「間」に入り込み、知ろうとする。
ゆえに「興味を持たせる」だそうだ。

さらに「違いを生む」「他と違う」
という意味も含まれる、とのこと。
確かに興味は、人それぞれで違う。
一つ一つの食材の「食感」と「味」が
それぞれ違うように…。

強い日差しの中に、緑が映えている。
その中にぽつんとたたずむ建物…。

今回、主催者のMから、あらかじめ
注意喚起のメッセージが来ていたことを、
私は古民家を前にして改めて思い出した。

『暑いけれど古民家の会場には
エアコンがありません』
『うちわやタオルなどを持参して
いただけましたら嬉しいです!』

覚悟はしていた。
しかし、予想以上にこの日は暑かった。
むわりと熱気がまとわりつく。

ちょうど高校野球の地区予選が
正念場を迎えた時期である。
酷暑の中、懸命に白球を追っている
球児たちに比べれば、何のこれしき…。
なけなしの気合を私は入れたが、
空元気も溶けてしまいそうな熱気だった。

ただ、古民家は、意外にも夏に強い。

いにしえの随筆「徒然草」には
『家のつくりやうは夏を旨とすべし』
とある。風が入りやすい構造。
私は、古民家に入るとまず、
ほぼすべての窓を開け放った。
夏の風が、そよりと建物の中を走る。
日差しが照り付ける屋外と比べて、
屋内は涼しく感じられた。
…もちろん、暑いは暑い、のだが。

Mは、キャンプにでも行くかのような
大きなクーラーボックスを運び入れてくる。

「…さあ、キンキンに冷やした
飲み物でも飲みながら、
ざっくばらんに始めましょう!」

午前十時。大人が八人。子どもは二人。
計十人の参加にて、3回目が始まった。

「今回は、皆様がそれぞれ
お互いに名前を呼びやすいように
名前シールを服につけていただきました。
では、簡単に自己紹介。ご自身の興味を…」

車座、だ円の形となって座った私たち。
お互いに自己紹介を行う。
今回、キャリアコンサルタント率が高めだ。

「では早速、興味について
皆さんに深掘りをしてもらいましょう。
私の興味からいきます。
私は『世界遺産』に興味を持っています」

ほう、世界遺産。吉村作治さん…?

「ピラミッドが好きだ、興味がある!
たとえそう思ったとしても、
それを直接、仕事などに結び付けるのは
なかなかに容易なことじゃない

うん、確かにそうだ。
誰もが『吉村作治』になれるわけではない。

「大事なことは、その興味を
浅い理解の段階で止めるのではなく、
深く掘り下げていくこと、なのです」

…確かに、ピラミッドも長い年月の中で
砂漠の砂に埋もれていた、という。
掘り下げて「発掘」することが、大事だ。

「私はイギリスにある『大聖堂』を見て、
世界遺産を好きになった。興味を持った。
しかしそれは、世界遺産そのものに
興味があったのではなく、
『なぜこんなものをつくったのだろう?』
という人間の営みへの興味、ひいては
『人の個性』にこそ興味があったのです」

Mは自分の「世界遺産」への興味を、
「人の個性」への興味に掘り下げていたのだ。
『個性があふれる社会にしたい!』
ゆえに、キャリアコンサルタントになり、
キャリアの寺子屋も行っている、という…。

「ただし、人間は変わるもの。
少年、青年、社会人、家族、
キャリアの舞台や時代の変化によって、
興味もまた、移り変わっていくものなのです」

彼は、ワークシートを取り出した。

「興味への問い」とタイトルがついていた。

「『興味のあること』『好きなこと』から
自分なりの『価値』を掘り下げましょう。
価値は時空を超えていく。
根っこで感じていた見えないものを、
抽象化して見える化していくのです」

そう言われても…。どうすればいいのだろう?

『「なぜ」「どうやって」「誰と」
「いつから」「どこで」
「何を感じているのか」、つまり
5W1Hの疑問で深掘りしてみてください」

Mは参加者を見渡すと、おごそかに言った。

「これから、1時間ほど時間を取ります。
2~3人のグループになって、
お互いに質問し、深掘りをしてみましょう。
『他者』の興味や価値を知ること。
これもまた、自分ならではの興味や価値を
知るためには大事なこと
なのです」

…こんな仕掛けを用意されて、
面白くないはずがない。
熱い語り、弾ける笑い、そよぐ気付き!
心の窓が、開け放たれていく。
あっという間に、1時間が経過した。

私は、参加者Sとともに、
小説や漫画について物語論を交わした。
興味の深掘り、発掘隊。
グループワークの後、発表の時間が設けられ、
新鮮な気付きに包まれながら会は幕を閉じた。

二次会は、有志で和食のお店へ。
私は「にぎやか海鮮重」を食べた。
貴重な情報を交換しながら…。

「興味は『海の幸』に似ている」

そう思った。

「トロ、まぐろ、
いくらにサーモン、イカにエビ…。
いずれも、水中を泳ぐ魚介類に潜む美味。
そのままでは見えない。
掘り下げを重ねてこそ、きらめいていく

海鮮重は「改選重」でもある。

改めて選ぶ。重ねて選ぶ。
折に触れて自分の興味を深掘りし、
積み重ねていきたいものだ、と思った。

…私は、自分の車へと戻る。

ドリンクホルダーに置いていた
残りのアイスコーヒーを一口飲んだ。
ちょっとむせた。あっつ!
「ホット」コーヒーに変わっていたのだ。
おそらく今回の寺子屋からあふれ出た
熱気の余波を受け取ったのだろう。

真夏の暑い、アツい会。

それはいつしか、私の心の中で、
海の幸の宝石箱のような
きらめく記憶
へと変わっていた。

(おわり)

宮内 利亮 さんが主催された
『第3回 キャリアの寺子屋』!
多少脚色して、その様子を
短編小説として書いてみた次第です。
少しでもその雰囲気を
読者の方にも味わっていただければ幸いです。

◆「キャリアの寺子屋」の
感想も兼ねて書いた短編小説でした。

※第1回目はこちら↓
『キャリアの寺子屋、あなたのおそばに』』

※第2回目はこちら↓
『キャリアの寺子屋2 ~ピザつきあわせて~』

※第3回目 宮内 利亮 さんのご感想記事はこちら↓

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