海で生きるということ
海の仕事ときちんと向き合うようになったのはいつだろう。
いまでこそ、やる気のある人(っぽい)雰囲気を出しているけど、はじめからそうだったかと言われるとそうじゃない。
当たり前だけど、憧れだけじゃできないことが途中でわかって、でもなんとか食らいついていた。
そして、毎日見ている海は穏やかで綺麗だけど、決してそれだけじゃない。
海に落ちて溺れれば人はあっさりと死ぬし、波に飲まれればもう戻っては来られない。
そういうことを、きちんと認識してないといけない。
私が本気で海と向き合うようになったのは、身近な人が海に落ちて生死を彷徨ってからだった。
*
1月。
真冬で、ときどき雪もちらつくような時期。海の上はとても寒かった。
私はいつものように海の上で水揚げ作業をしていたのだけど、もう少し籠が必要になって、雇い主(弟)さんは子どもたちを連れて牡蠣を入れる籠を小さい船で運びにきた。
籠を受け取って30分後、作業を終えて陸上に戻ろうとして、社長はなにかがおかしいことに気付く。
異常な量の不在着信。
籠を運んだあと、陸上に戻る途中に事故が起きていた。
海に漂っていたロープがプロペラに巻き込んでいきなり急ブレーキがかかった状態になり、弟さんの息子が海に投げ出されて落ちたらしい。
そしてそれを見て、焦って飛び込んだことで着ていたかっぱや服で身動きが取れなくなって、逆に溺れてしまった。
でも、その頃はなまこ漁をやっていた時期で、周りに他の漁師さんたちがいたから異変に気付いてすぐに助けられて病院に運ばれたけど、電話ごしに「今日が峠だと言われた」という言葉を聞いて、絶望感と震えがとまらなかった。
容態が落ち着く話を聞くまでの間、ごはんが喉を通らなくて食欲が落ちた。
私がそうだったんだから、家族たちの心情はもっと大変だったと思う。
海上にそこまで人がいない他の時期だったら、時間帯が悪かったら、助けられるのが遅かったら…、おそらくもうこの世にはいなかったんではないか。
いろいろな要素が重なって助かった。
*
私がきちんと海と向き合う転機になったのは、その出来事があったから。
死というものを実感して、恐怖を感じたこと。自然の力を感じたこと。
海について改めて向き合うきっかけになった。
「当たり前」は、いつでも当たり前じゃない。なにが起こるか、一瞬先さえわからない。
「死」というものは、実はすぐ近くにいる。
海で生きるというのは、良いことでもあり怖い部分もあるということを認識して、覚悟を持つことだと思う。
(とはいえ、普段はみんないるところで作業をしてるし、危険なことはそんなにないんだけど、自分も気をつけないとね。)
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