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最近読んだ三冊の本について

せっかくなんで、最近読んだ本の話でもしようと思う。

竹中優子『歌集 輪をつくる』

知り合いから借りた本である。
これを含めて、詩集1つと歌集を2つ借りた。
3冊のうちの2冊は竹中優子さんのものだった。
どうやらその知り合いは竹中優子さん推しのようだ。
彼女も短歌や詩を詠むので、著者と顔見知りらしい。
それで最初は紹介するのが気が引けたらしいけど、本を読んでくれる人が増えるのはいいことなので、ふっきれて、貸すことを決めたようだ。
僕は嬉しかった。
自分の知らない歌集や詩集を読むのは、何だか新しい友達を紹介されたような気分になる。
さっそくパラ読みからだけど、『歌集 輪をつくる』を読み始めた。

実は付箋をいくつか貼っていた。
だけど、知り合いに本を返してしまったから、はたしてどこに貼ったのか、忘れてしまった。
それでもなんとなく、頬杖をつくことを詠った短歌とか、そういうのに貼っていた気がする。
印象的だったのは、竹中優子さんの短歌には、なんとなく身体的な感覚が残されていることだ。
裸とか、傷とか。
そういう、なんとなく他人の心に土足で踏み込んだときのような、ちょっと罪悪感を感じてしまう、プライベートな感じが漂う短歌が多かった。
評論も一緒に載っていたのだけど、まさに裸の歌人、という感じがした。
もちろん、全てが本当で、なおかつ赤裸々に語っているとは限らない。
家族や同僚、自分の身の回りを詠った短歌が多いけど、決して喜ばしい内容だけではなく、なんとなく傷つくような、気分が滅入るものも多い。
それは一部は真理だろうけど、どこかにフィクションは混ざっているはず。
でも、その境目が曖昧だ。
それが魅力的でもある。
どこまで赤裸々に語っていて、どこまで真実で、真理で、そしてどこまでこの歌は自分の心をさらけ出しているのだろう。
何だか他人の私生活をのぞき見ているような、私小説にも似た味を覚えた。
それでも、ときたまに前を向いている、希望を覗かせる歌があるのが、どきりとする。
もちろん狙ってやっているのかもしれない。だとすればすごい。
そんなのぞき見ている自分を、向こうからものぞかれるような、深淵を見ているとき、深淵もまたこちらを見ている、という言葉が思い浮かばされる歌集だった。

竹中優子『冬が終わるとき』

同じく竹中優子さんの詩集である。
実は短歌よりも詩のほうが僕は好きだ。
少なくとも今は、そちらに心が傾いている。
自分も詩を詠むからかもしれない。
当然、僕なんかの詩とは比べるべくもないけど、それでも親近感を覚えてしまう。それは、同じ詩人の領域に足を踏み込んでいるからかもしれない。
詩は、短歌ほどには赤裸々ではなかった。
どちらかといえばファンタジーっぽさが混じっている気がする。
それはやっぱり散文の形式だからだろう。
いわゆるポエムっぽい詩ではなく、散文詩という感じ。
それがいい。正直、「これって小説になるんじゃ…」という詩も多かったけど、それをあえて詩という形で表現しているところが惹かれる。
限られた、短い文章で綴られる物語にもなりえていない物語は、僕らに想像の羽を羽ばたかせる。
ふいにアパートの一室にいるような。
ふいにオフィスの角にいるような。
そんな、「ふい」を思わせる。
タイトルに冬とあるからかもしれないが、竹中優子さんの詩には温かみはない。突き放すような冷たさや、無防備な裸の心があるような気がする。それは寒空の下で凍えているような感じだ。誰かが毛布をかけようとすると、「やめてよ」と冷めた目でいわれてしまう、そんなシーンを想像した。
それでも、生きることはやめない。
たとえ寒空の下でも、凍えるような冬でも、歩むことはやめない。
そんな、人間の裸の下に隠された、力強さを思う。
そんな詩集であった。

内山晶太『窓、その他』

三冊目の本である。
内山晶太の『窓、その他』。
実は初めて知った歌人だった。
勝手に男性だと想像しているけど、どうだろうか?
僕は作者のことを必要以上に調べないときがある。断片的な情報で、満足してしまう。作品を読んだ自分の心に残ったものが全てで、それ以外は特別に必要だとは思わないせいかもしれない。
いずれにせよ、竹中優子さんとはまた対照的な歌人だった。
こちらは文語で詠まれているものがほとんどだ。
だから、ピンとこない歌もある。
それでも、恐らく一歳にも満たずに亡くなった仔猫を詠った短歌なんかは、僕の心にじんときた。ずん、ときた、といってもいい。重みもあって、それでも暗くなるだけではない、温かみも感じる歌だった。
どちらかといえば、日常の風景を詠っているような、まさにタイトルの「窓」らしい短歌が多い中で、これはしっかりと生と死を詠っている。
それでいて光を感じさせるところが、すばらしかった。
全体的には、曖昧な部分も多かったせいか、竹中優子さんのほうが好みだったけど、部分的にはこちらに惹かれる。
なんだかこの、ときおり光る文章を発見したときが、本を読む喜びだろう。
しかもそれは、他人に説明して納得されるものかわからない。
自分がいまこの瞬間に読んだからこそ、心にぐっときたわけだ。
その一首を発見しただけでも、読んだ価値はあった。

以上で、最近読んだ三冊の紹介を終える。
はたして上手く紹介できたかわからない。
というか、本当は一首くらいは引用して話そうと思っていたのだけど、本が手元にないから困ったものである。
次からはちゃんとメモくらい取らないといけないかなぁ…。
なんてことを思いながらも、きっと心に留めとくだけなんだろうなと、自分を省みる朝だった。


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