見出し画像

中国語の短編を読む会(2024年2月16日)

 毎週金曜日の夜に行っている、中国語の短編を読む会(中国語中上級者向け)のレポートです。
 中国語の短編小説を、中国語を学んでいる日本語話者と日本語を学んでいる中国語話者が共に読み、和訳する過程を通じて、言葉を介した理解と交流の魅力をお伝えします。
 今回は、中国の現代小説 ”阿碧(アビ)”の4回目、最終回です。
今回は常連参加メンバーの他、聞き専として、前回初参加で今回2回目のChinさんの他、Jerryさんがはじめて参加されました。
Jerryさん: 母語は韓国語、第1外国語は英語と日本語、第2外国語が中国語。マレーシア在住で仕事では主に英語を使用。

参加者を母語でまとめると
日本語:Katsさん、Yoko
中国語:Fumiさん、Yangさん、Chinさん
韓国語:Beckyさん、Jerryさん

今回で”阿碧(アビ)”が読み終わりました。主人公の境遇と近い世代のFumiさんとYokoはこの結末に切なくなってしまいました。
次の本は、Fumiさんが選んでくれた”母女”です。
「寝そべり族をよく見かけるようにあった。似たような親子が多いのではないか。最近、一部のお母さんは子育て終わってから、昔あきらめた自分の夢を追いかけるようになった。そういう人物像をこのような短編で描かれるのが珍しい。」
とのこと。次回からがまた楽しみです。
**********************************

前回最後の文章の解釈が難しく、その文章が次につながっていくので、最後の文章の復習から始めました。

阿碧没有伸手接花。西斜的阳光透过层层折转的玻璃墙照在玫瑰花上,虽然只停留了数秒,可在她无限拉长的臆想里,阳光于花芯处切出带有直角的红色阴影,不停向内旋转,于花苞的最深处,腾起彩色泡泡。再眨一下眼,这些炫彩的泡泡又蓦然消失不见。
西斜的阳光;仕事が終わる頃、夕日が斜めからさす様子
层层折转;ガラスが屈折を繰り返す
切出;作り出す
臆想;妄想
她无限拉长的臆想里;一瞬のできごとだが、彼女の妄想の中では長かった。
アビさんは花を受け取らなかった。西の方から斜めにさしてくる日差しが何層かのガラスの壁を通してそのバラに届いた。数秒しかとどまらなかったが、彼女の無限に長く引っ張られた妄想の中では、日差しは花の芯のところで直角の赤い影に変わって、とめどなく奥の方へ入り込んで、つぼみの一番深いところからの泡がたちこめていた。瞬くとこれらのカラーの泡はまたすぐに消えた。
なぜ直角?
四角いガラスがはめ込んである渡り廊下。ガラスが作る影も直角。
彼女にとってこの時間は長かった(妄想)、妄想の中で光の影が動いている。花束をもらったのだが、その妄想の中で記憶が書き換えられていくのが、次の文章につながる。

站在张君面前,阿碧并没有听清他说了什么,那朵玫瑰最终不知所踪。在阿碧印象里,是张君低头深嗅玫瑰的画面,这让阿碧产生错觉——玫瑰其实是她送给他的。
夜里婆婆一声呼喊,她便由一位还能接受花的女子沦落到可以忽略性别的中年妇人。

張くんの前に立って、彼が何を話したのかアビははっきり聞こえなかった。あのバラは結局行方不明になった。アビの脳裏にあったのは、張くんがうつむいてバラを嗅いでいたシーンだった。(アビは花束を受け取っておらず、それに対して張くんが頭(首)を垂れた様子)そのせいで自分が彼にバラを送ったのではないかとアビは錯覚をした。夜、姑の呼び声で、彼女はまだお花を受け取れる女性から、性別のどうでもいい年増に転落した。

中年妇人;あまり美しくはないマイナスな表現。中年女。いやな立場になったような表現
还能;まだプレゼントしてくれる人がいる
忽略性别;女であれ男であれどうでもいい。彼女自身が思っている。舅の体を拭いている、、切ない気持ち
【👆 Fumiさん】

她能理解婆婆看她扭头为公公擦身的愧疚,却仍气恼不止。她想逃离,又能逃哪儿去?身为主妇,大清早得拖上菜筐才能有出门的理由。
再说,即使与老任相看两生厌,也想不出除了老任,万一有一天她也口歪眼斜,谁能坐在她身旁?美,只在远观时才存在。类同那枝没有接受的玫瑰。

アビが顔を背けて舅の体を拭くのを見て、姑が申し訳ないと思うの(恥ずかしさ含め)は伝わってきたが、それでも苛立ちは止まらなかった。アビは逃げ出したかったが、何処に行けるというのだろう?朝っぱらから出かけるには買い物カートでも引かないと理由にはならない。たとえレンさんとの関係が冷めきってたとしても、レンさん以外に、万が一自分の体が不自由になっても(舅と同じようになっても、口が歪んで目がひしゃげても)、彼女の傍にいてくれる人なんているのだろうか?美しさは遠くから眺めた時にのみ存在する。それは、(自分が)受け取らなかったあのバラのようだ。(受け取らなかったことを自分で慰めている。受け取らなかったから美しい。)

意訳
家出するにも行くところは無し。
主婦の私は、陽が昇らぬうちに野菜を入れるカートでも引き摺らない限り、家出がバレてしまう。

発音および意味
愧疚44;申し訳ないという気持ち
仍2
主妇34
得dei3
才能;絶対必要なニュアンス
相看两生厌;李白の詩、”相看两不厌”すごく仲が良いの反対の意味。
【👆 Yoko】

阿碧在路边小店买了一袋米,转头回家。公公坐在轮椅上,婆婆破天荒烧好了米粥,还炒了一盆蒜泥草头,一勺一勺喂公公。见到她回来,两位老人一齐回头看她笑,招呼她快来吃。
阿碧心头一热。在她心里,她始终觉得老任年老了也会和公公一样学会疼人吧。


アビは道端のお店で米袋を買ってから家に帰った。すると、舅は車いすに座っていて、姑はなんと自らおかゆをたき、さらにおろしニンニクと野菜まで炒め、ひとさじづつ舅に食べさせている前代未聞の光景が広がっていた。アビが戻ってきたのを見た2人のお年寄りは、同時に振り向き微笑んでから、早く一緒に食べようとアビを食事に誘った。心がほっこりした。実はアビは心の中のどこかにいつかレンさんが年を取ったら、舅のように思いやりのある人になっているのではないかと思っていたのだ。(人を慈しめるようになれるのかな。)

轮椅 lun2yi3
破天荒;本来は「かつて誰もしなかったことを初めて行う」という意味。
昨今では「他の人がしないような豪放で型破りなことをする」の意味で
用いられることが多い。いままでやったことのない、もっとあり得ないこと、前代未聞、作者の大げさに表現する手法。
蒜泥草头;草头は南の人しか食べない野菜(馬ごやし、雑草のような野菜で馬に食べさせたりしていた)三つ葉の野菜、昔はよく食べていた
疼;可愛がる、愛するが本来の意味、恋人同士でも、孫にも使える。慈しむ(いつくしむ)
【👆 Beckyさん】

吃罢早饭,坐公车去上班。车子摇晃转弯,阿碧忽然发觉路途陌生,忙掉头看向车内的指示灯,她要坐201路却错坐成了211路。车已行过五站,她起身去按停车铃,却在转弯处的弄堂口看见老任。她张口要喊,随后看清老任一手拎着油条,另一只手牵着一位长发女子。
十分钟前,老任回她微信:辛苦你了!我明天上午到家!

朝ごはんを食べ終わると、バスで職場に向かっていた。バスが揺れたり曲がったりして、アビさんは急に見知らぬ光景のように感じた。彼女はすぐに振り向いて車内の表示板を見たら自分が201番に乗るのに間違えて211番に乗っていることに気づいた。バスはもうすでに停留所を5つも過ぎていて、彼女は立ち上がって停車ボタンを押そうとしていたが、曲がるところの路地でレンさんを見かけた。彼女はラオレンを呼ぼうとしていたが、その後にレンさんが片手に揚げパンを持って、片手で一人の髪の長い女性の手を取っているのが目に飛び込んできた。
10分前のレンさんのWeChatの返信は、おつかれさん!明日の午前に家に帰るね。


路;バスの路線を表す。日本語では”番”と訳すのが自然
转弯处;曲がり角
弄堂口;long4tang2kou3(上海), 会話ではnong4tang2kou3という人も多い、北京では胡同と言う。
拎着油条;揚げパンの入っている袋を下げている
牵;手をつないでいる。
【👆 Yangさん】
**********************************

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?