見出し画像

P18_音は、見えない 丨 『東京彗星』オンラインパンフレット_映画制作とは⑦仕上げ作業(音)

新宿上映まであと、4日。

画像1

9月23日(日)シネマート新宿にて上映される僕の監督映画『東京彗星』を例に、映画制作がどうやって進むのかを書くシリーズです。

23日まで毎日更新だったのですが、夜まで仕事に熱中してから書いたら翌朝になってしまい…1日飛ばしたことになります。無念。

気を取り直して。

企画・脚本・絵コンテ・ロケハン・オーディション・撮影・仮編集を終えて、仕上げ段階の話。

〈映像〉
・カラーグレーディング(色調調整)
・CG制作
・モーショングラフィック制作
・画面制作
・本編集(合成作業)

〈音〉
・音楽制作
・主題歌制作
・効果音制作
・MA(整音作業)

昨日は映像の仕上げについて書きました。

今日は、〈音〉の仕上げです。これにて、完成します。
では、いきます!


音は指差せない

音は難しく、しかし楽しいです。なぜか。

音は目に見えないからです。

映像は、 "指差して議論"ができます。画面を一時停止して画面の一部を指差し、「ここのこれをこうしたい」という議論が誤解なくできます。しかし、音は違います。「いまのとこもう1回流してください」「いまの!いまのブーンって音」「…どれですか?」ってなことが起こりえます。波形を見ながら指差すことはできなくはないですが、ここでもうひとつ音の難しさが立ちはだかります。

音は分離できないのです。

厳密には周波数を狙い撃ちしてある程度分けて聞かせることもできますが、映像のように一部を切り抜いたり、消したりということができません。セリフ、足音、衣擦れ音、車の音、セミの鳴き声はすべて同じ空気の振動としてマイクに到達します。現場で録音した音は、完全分離できないのです。分離して管理できるのは、後から個別に追加した音だけです。

日本ではセリフはほとんど現場で収録した声を活かしますが、ハリウッドではけっこうほとんどアフレコ(後日映像に合わせてスタジオでセリフを録音しなおす)と聞きます。こうすれば、セリフと、後からつける効果音などをすべて分離して調整することができます。しかしここでまたハードルが。演技に再現性がないといけません。現場の本番で出た奇跡の芝居。表情は最高。後日、スタジオでアフレコ。現場の迫力が出ない。口と合わない。その場で言ってるように聞こえない。これでは困ります。日本でアフレコが主流にならないのは、費用や時間の問題が大きいと思います。が、先日論じた通り演技法がじゅうぶん体系化されていない、また現場のなんとなくの "二度とできない芝居至上主義"のため、再現性が重要視されていないということもあるような気がします。もちろん、ほとんどの俳優さんたちは再現性のある正確なお芝居ができます。しかし、再現性がない→アフレコしない→アフレコしないから→再現性を重要視しない というループがないとは言えないような。豊富な映画経験をつんだわけではないので、推測でしかないのですが。

音は見えないので、監督の腕が出る、とも言われます。映像のクオリティは文字通り "目に見え"ます。微差が認識できます。しかし音は、調和しているか、整理されているかの認識解像度が映像より低い。人間の脳が外界の情報を取得する手段として、視覚情報よりアテにされていないからです。ある程度まとまってたら、オッケーしたくなります。しかしデキる監督は、微細な音量差やバランスにこだわり、まるで違うレベルまでクオリティを上げてきます。どこが足りないのか、どこが過剰なのか。100点から先の磨き上げにおいて、音は映像より難しく、しかしだから楽しいと僕は考えます。


音楽制作

本作を制作する前から、音楽プロデューサーの川村さんの紹介でよく聴いていたアーティストがmachìnaさんです。

「いいアーティストがいるんですよ!」と言われて聴いたり、LIVEに行ったりしたら、素晴らしかった。その中でも『Born To Love』という曲はとんでもなくドラマチックで、壮大で、しかし大げさでなく、かっこいい。いつしかエンディングテーマに使わせてほしいと思うようになっていました。

それを相談したところ、なんと劇伴(劇中の音楽)もやってくれることに。そしてオープニングも、『Born To Love』を感じさせる曲にしようというところまで決まりました。仮編集でオープニングに『Born To Love』をあてていたところ、これがドハマリしました。オープニングも『Born To Love』にしたい!とお願いし、何日も何時間もアレンジやミックスしなおして、本作オリジナルの『Born To Love-TOKYO COMET ver.-』が誕生しました。

劇中の音楽については、僕はほんとはハンス・ジマー、スティーブ・ジャブロンスキー、ジェームズ・ホーナー、アラン・シルヴェストリのような壮大なオーケストラが大好きなのですが、今回の映画には違うと考えていました。好きと似合うは違う

テンプトラック(仮編集のときに、イメージとしてあてる既存の楽曲)は主にトレント・レズナーの『ソーシャル・ネットワーク』『ドラゴン・タトゥーの女』から使用しました。主張が激しくないけど、心理的に静かに影響は及ぼしてきて、妙に不安になる感じ。彗星衝突を控えた東京に鳴る音楽として、この方向が正しいと考えました。ほかに使ったテンプトラックはハンス・ジマー(やっぱり好き)が主張の激しいメロディを捨てた『インターステラー』、ジョン・ウィリアムズがめずらしく控えめだった『A.I』です。

ちなみに最近のハリウッド映画は、テンプトラックがハマりすぎて、それ通りにつくらせて、それがまた別の映画のテンプトラックになり…と、コピペが容易になったデジタル化の悪しき影響で劇伴が無個性化してるとの噂です。個人的にもそう思います。音楽シーンもそうかもしれませんが、なんというか "メインメロディ不在の時代"というか。トレント・レズナーの音楽がアカデミー賞にノミネートされたのが象徴的ですね(本人は「シュールな出来事だ」と言ってますが) 。ハンス・ジマーも『マン・オブ・スティール』でメロディを捨てました。

『アベンジャーズ』の音楽と言われて、口ずさめますか?僕やシネフィル、マーベルファンならできます。しかしふつうの人はどうでしょう。誰もが聴いてわかる、または口ずさめる映画音楽のメロディは、『パイレーツ・オブ・カリビアン』(2003)が最後なのではないでしょうか。あの有名な「He’s a pirate」、1作目のクレジットはクラウス・バデルトですが、実際はハンス・ジマーの作曲だったようです。ハンス・ジマーすごい。

話がそれましたが、そんなふうにしてアカデミー賞クラスの音楽を仮あてしていたわけです。それを渡して、「超えてくれ」ってんだから乱暴な話です。しかしmachìnaさんは短期間でバッチリ以上の仕事をしてくれました。映画音楽は初めてとのことでしたが、映画を観てくださったお客さんの感想でほんとに多いのが「音楽がよかった」です。主張の激しいメロディではないのにこの感想が出てくるのはなかなかすげーことです。マジで日本の映画関係者のみなさん、目つけといた方がいいです。もう一度貼りますね。machìnaさんです。

よろしくです。


主題歌制作

昔飲んでて知り合った、友達の友達で楠野くんという男がいます。彼は作曲家です。彼はまだひとり暮らしだった僕の家に遊びに来たとき、僕が大切にちびちび飲んでいたウイスキーを飲んじゃったあげく、『トランスフォーマー ダークサイド・ムーン(3D)』のBlue-rayのジャケットにこぼしてジャケットシートをしわくちゃにするという失態をおかしました。これに怒って、なんとなく "曲で弁償"という乱暴な約束を取り付けつくってもらったのが、この映画の企画段階で制作したPR映像にのせた、賛美歌調のこの音楽です。


これがすごくよかったので、本制作でもなにかお願いできないかと相談したところ、彼の上司にあたるプロデューサーの近藤ひさしさんを紹介してくれました。おふたりは当時、ビーイング所属です。ビーイング…大好きな、僕の永遠のNo.1アーティストB’zの、ビーイングです。運命だと思いましたよ。

六本木で飲んで盛り上がり、主題歌をお願いすることに。と、文で書くと簡単ですが、とんでもないラッキーでありがたいことです。彼らがプロデュースするLily’s Blowさんに、『東京彗星』のためのオリジナル曲を歌ってもらえることになりました。脚本を渡し、近藤さんに歌詞を書いていただく。楠野くんには曲をつくってもらいます。

近藤さんはこの物語のテーマを深く理解した素晴らしい歌詞をつくってくれました。

楠野くんにつくってもらった楽曲はデモが何曲かありましたが、一緒にGuns N’ Rosesのライブを観に行ったことをきっかけに、必殺の朝令暮改。 "女子が歌う「You could be mine」をつくろう!"ということにしました。楠野くん、すまんでした…。

これには実は理由があって、この映画はけっこう重く終わるんです。そこにかかる『Born To Love』もなかなか重めな曲です。そのまま観客を現実に戻してしまうと、ずっしりしんどい想いが残る。それはちょっとやりすぎかなと思ってました。あくまでも希望と前向きな気持ちを宿したい。劇中で描くのは災害と残酷な現実ですが、観客が戻るほんとうの現実から、生きる力を削ぐ狙いはありません。少し前向きになれる楽曲が必要でした。ノー天気な曲ではミスマッチです。バランスを探していました。そこで思い出したのが僕の生涯ベスト映画『ターミネーター2』です。親指溶鉱炉からモノローグを経て、ダダンダンダダンでスタッフロールなのですが、途中でGuns N’ Rosesの「You could be mine」に変わるのです。そこで気分がすっきりします。現実に戻る準備ができます。その感じをやりたかった。だから "女子の「You could be mine」"というオーダーになりました。

楠野くんは見事に答えてくれました。そして『ターミネーター2』の「You could be mine」は、劇中でもジョンがラジカセから流す曲として、ちょっと出てきます。同じように本作の主題歌『This Life』も、劇中ちょっとだけラジオから流しています。そのへんも『ターミネーター2』っぽくしてみました。どこで使われているかは、23日(日)にシネマート新宿でお確かめください!

ちなみにこの主題歌『This Life』は、MVも監督させていただきました。晴海客船ターミナルと、本作の出演者 榎本 "CHAMP"光永さんのバー、銀座HOLD ON(中央区銀座5-5-11)でロケさせてもらい、『東京彗星』の映像も使用しています。是非ご覧ください。


効果音制作

僕は仕事での映像制作でも効果音はずっと、ジミー寺川さんという大ベテランの効果マンの方にお願いしています。ジミーさんは僕がまだペーペーだったとき、『イナズマイレブン』のCMの効果音をお願いしたことで出会いました。僕がほしい音、その音をそこにおく目的を話してオーダーしたものに対して、全然想像してなかったけどめちゃくちゃアリな音を持ってきてくれて、「そうかー自分の理想がゴールじゃないな、もっとよくできるんだ」と感動したことがきっかけで、ずっとお願いしています。

(キャリアアップのタイミングでスタッフをとっかえて出世していく監督も多いですが、僕は基本的にペーペーの頃に世話になった人と一緒に上がっていきたいので、ペーペーのときに力を貸してくれた人と仕事をします。『東京彗星』に力を貸してくれたスタッフの人たちはほとんど、僕がぺーぺーの頃からお世話になっている人たちです。感謝です。)

ジミーさんとはお互い映画好きというのもあり、仕事場でも仕事以外でも映画の話でよく盛り上がります。「いつか映画撮りますから」と言い続け、やっとそのときがやってきました。いつもはCMの15秒やマックス60秒の効果音をオーダーするのですが、今回は25分。しかもCMのようにアテンション重視で記号化された音づくりではなく、ストーリーテリング上の邪魔にならず、しかし気分をチューニングするバランスが求められる、映画の効果音です。

しかし、仕事のやりかたはそこまで変わることはありませんでした。ずっと一緒にやってきたから、話が早いのです。

・どういう音がほしいのか
・なぜその音が必要なのか
・その音で観客の感情に対してどのような効果をもたらしたいのか

この3点を話していく。それのみです。なにも不安はありませんでしたが、期待以上にバッチシ決めてくれました。ありがとうございます。効果音を文で説明するのはなかなか難しいのですが、わかりやすいところを3点ほど。

・緊急地震速報の音
仮編集では本物の緊急地震速報音を使っていたのですが、いろいろ問い合わせたところやはり映画での使用はNGでした。理由は、フィクションで使用して視聴者が聞き慣れることで、実際の地震のときに避難をうながす効果が薄れることを防ぐため。納得です。なので、オリジナルで警報音をつくることになりました。似せてもダメ、しかし離れすぎても実際の危険を想起することができません。僕とジミーさんは「人間が死の恐怖を感じる瞬間」の代案として、「飛行機の緊急降下時の警報音」を参考にしました。耳に気持ちよくない変則的な音階の変化と、表情のない一定の音色。どんな音かは…23日(日)シネマート新宿でお確かめください!


・ヘリコプターの音
避難が進み人がいなくなった東京のシーン。現場で入ってしまった車や飛行機の音をなるべく消すような作業をしていたとき、思いつきました。「こういう状況のときはむしろ、自衛隊の避難用ヘリが飛んでるんじゃないか」現場の余計な音を消すのと同時に、薄くヘリコプターの音を足してみました。効果てきめん。ふつうに観ていると気づかない程度なのですが、演技がおこなわれている場より大きいスケールの出来事が進行中であることを、無意識に感じさせることができたんじゃないかと…思ってます。23日(日)、劇場でお確かめください!


・不良の車
主人公がヒッチハイクをしていて不良の車にからまれるシーン。実際に使った車はランエボでしたが、「ワイルド・スピード」みたいなイカツいアメ車のエンジン音をつけてもらいました。今回の不良は、ぱっと見ではわかりやすい不良の感じではありません。もちろんそれは狙いですが、観客に主人公の少年と同じ不安を感じてもらう必要がありました。海外映画祭に出品する予定があったので、海外の人にも瞬時にわかってもらわなければいけません。普通のランエボの音じゃなくて、海外のワルが乗ってる車が近づいてきた感じの「うわーイカツいの来たよ…」ってのを出したくて、車ファンに突っ込まれるのを覚悟で違う音をつけてもらいました。どんな音かは…(以下略)



MA(整音作業)


映像でいうところの、本編集に近いかもしれません。現場で収録したセリフなどの声、あとからつけた効果音、音楽などすべての音要素のバランスを整えます。聴かせるところは聴かせ、抑えるところは抑える。これがいわゆる、 "指差して確認しあえない"音の難しさを痛感する工程です。

こちらもペーペーの頃からお世話になっている、デジタルエッグの武石格さんのチームにお願いしました。武石さんには現場の録音もやっていただきました。ジミーさん、武石さん、僕のトライアングルで、たっくさんの仕事をしてきました。武石さんも映画好きなので、これもまた「いよいよそのときがきましたか」という感じです。

まるまる4日間くらいでしょうか。整音スタジオにカンヅメで、細かく細かくやっていきました。細かくやりすぎると、全体通して聴いたときにちぐはぐになってたり。全体で調整すると、今度は細かいところが気になったり。なおしてないのに、「今のところ変えましたよね?」と言っちゃったり。わかんなくなってきます。

しかし武石さんジミーさん、そして音楽プロデューサーの川村さん、音楽のmachìnaさんらみんな根気よく付き合ってくれました。じゃっかんバチったりしながら、しかし今思いだすと熱くたまらん何日間かでした。マジに、文化祭前夜です。クライアントがいないので、みんな遠慮なしです。それぞれのこだわりがあります。

ベテランの武石さんはMA作業の前に「最終的には洞内さんの判断でいきますから、遠慮なく」とLINEしてくれて、年下の僕が萎縮しないでやれるようにしてくれました。感謝です。

これもまた文章で説明できないのですが、オープニングとトンネル、ここは見(聴き)どころです。トンネルのミックスは賛否両論ありますが、これは僕が「これでいく」と判断して最終的にやってもらったものです。是非シネマート新宿で聴いて、ご判断ください!


さて…

完成しちゃいました。


そうです、映像が仕上がって、それに当てる音のバランス調整が終わったら…もうすることはありません。

2017年6月18日、短編映画『東京彗星』は完成しました。

画像2


企画書を書いてから10ヶ月。意外にもその瞬間は静かでした。

なぜなら、映画が本当に産声を上げるのは、スクリーンに映されて、観客のみなさんの心をノックするときだからです。

単独上映で、見ず知らずのお客さんがその映画を観るとき─今週日曜日、9月23日。シネマート新宿で、『東京彗星』は本当の意味で、完成します。

劇場でお待ちしています。

『東京彗星』新宿上映まであと、4日。


『東京彗星』上映@シネマート新宿
9月23日(日)
①開演18:50- (上映→舞台挨拶)
②開演20:15- (上映→トークショー)
場所:シネマート新宿
新宿区新宿3-13-3 新宿文化ビル6F

下記にてチケット発売中です!

とはいえ、一般公開の前にも大事な段階があります。
試写会、そして映画祭への参加です。

明日(今日)からはそのへんのことを書きます!

※『東京彗星』はVimeoで全編公開中です。


この記事が参加している募集

コンテンツ会議

また映画つくりたいですなぁ。夢の途中です。