掌編小説「エレベーター」
邯鄲の枕
有名な故事の一つだけれど
夢か現か幻か
今となっては確認しようがない
いいことがあったかと思えば
思い通りにいかないこともあったりと
慌ただしく妙に忙しかった日だった
「はぁ疲れた」
独り言にしては
とても大きな声を出した気がする
足取りが重いまま
定員4名狭く古びた
マンション用エレベーターに乗る
『もしもし』
通常の元気があったら
大声を叫んで反応していたことだろう
乗るときには誰もいなかったはずなのに
突然背後から声がした
『あっ、振り向かずに
そのまま私の話を聞いてください』
声は聞こえるが気配は感じない
人生で一度も
ケンカしたことがなかった私は
黙って彼に従うことにした
『手短に言います。』
チーン
そして静寂が漂う
自宅がある階にたどり着いた
慎重に降りたあと中を確認したが
誰も乗ってはいなかった
数秒間頭の中が真っ白になっていたが
落ち着きを取り戻し早々と行動へ移す
足取りは軽くなっていた
◇
翌朝自宅にほど近いホテルに泊まった私は
会社へ向かう前に一旦自宅へ戻ることにした
昨夜の確認もしたかったからだ
鍵を開けてドアを開く
床が物で散らばっている
部屋が荒らされていた
クローゼットは無事だったので
素早く着替え駅へと向かった
電車に乗ったあと
昨夜のことを振り返ってみた
背後から語りかけてきたのって
幽霊になった
別の世界線の自分だったのだろうか
背後霊の可能性もある
忠告を無視してそのまま帰っていたら
無事では済まなかっただろう
素直に奇妙な声を信用したのは
自分の声に似ていたからかもしれない
気づけばもう仕事場の最寄り駅だった
素早く電車を降りた
◇
帰りの電車の電子掲示板で
凶悪犯逮捕のニュースを見た
やはりというか
近所で逮捕されたようだった
あることを思い出し
大きなため息をつく
独り言にしては大きな声だったが
電車内の騒音にかき消された
「掃除面倒だなぁ」
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