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掌編小説「制限高3cm」

村の外れに高さ3センチほどのとても小さなトンネルがあった。誰がつくったのか、何のためにあるのか、向こう側に何があるのか村の誰も知らない。とても不気味で子どもらでさえ近寄らない。村へ引っ越してきたばかりの若者が血気盛んにこう言った。

「俺があのトンネルの正体を暴いてやる。」

新参者であったため村の者に勇気を示し村人として認めてもらいたかったのだろう。村の長をはじめ、ほとんどの者が反対したが、聞く耳を持たない若者は、ツルハシを持ってトンネルの周りを掘り始めた。思いのほか土は柔らかく順調に掘り進めることができた。

「もうすぐだ!」

トンネルに光が差し込んできた。3日間掘り続けた若者は身体中が筋肉痛ですでにヘトヘトになっていたが、力を振り絞り土を砕いていった。



数百年前、人は悪魔に虐げられ悪の世界が蔓延っていた。人が安心できる世界を作ろうと大魔術師が立ち上がり、激闘の末悪魔を封じ込めることに成功した。高さ3センチの小さなトンネルは封印後自然に出来た、人と悪魔の世界を結ぶトンネルだったのだ。長い年月を経て畏怖の念だけが村に残った。昔から村に住んでいた人たちは見えない何かを感じ取っていたのだ。

周りが忠告すればするほど人は反対の行動を取ってしまう。パンドラの匣しかり、禁断の果実しかり、ロミオとジュリエットしかり。いずれ人は押してはならない破滅のボタンを押すことになるだろう。

賑やかだった村の面影はもうない。紫色の霧がかかり昼間なのに薄暗い。時折奇妙な鳴き声が聞こえてくる。




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