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映画・ドライブマイカー

去年、2021年に話題になった映画ドライブマイカーを今ごろになって観てきました。カンヌ映画祭4冠、米国アカデミー賞で長編映画賞を受賞、オバマ元大統領が2021年のベスト映画の10本の1つとしてツィートするなど話題満載の作品です。原作は村上春樹。

映画は3時間という長い時間、淡々とした語りで進行します。主人公・家福は演出家で、彼の愛車はサーブ900ターボ、見事にピカピカにされた文字通りの愛車として登場します。どこへ行くにもこの愛車がいっしょです。

ストーリーはセックスを通して家福の妻が語る不思議な物語から始まります。性の営みと夫婦の幸せという凡庸な生活の、そしてぼんやりとした不安が提示されます。

やがてストーリーの急な展開によって気付かされるのです。私たちの感じている日常の幸福の危うさです。私たちは身近な人の死を通してしか今ある自分の生を見つめることが出来ないのではないかという疑念です。

無意識に忌避してきた現実、死と向き合う時にはっきりと立ち現れる現実というレトリックです。

私たちが自分だと思っている自分は、周囲の人たちの死を除いて存在しないのではないか?現実の自分とは人々の死と向き合った時にこそ存在するのではないか?だとしたら、私たちは身近な人の死とどう向き合えばよいのか?という家福の苦しみと模索が続きます。

一方で、演出家の主人公が手がける舞台がオーディションを経て、着々と出来上がってゆきます。演出家と俳優たちとの繰り返されるありふれた日常、そこに見え隠れしながら忍び寄る死というメタファーが主人公の家福を次第に追い詰めてゆきます。

全編を通して、主人公・家福を取り巻く5人の死が描かれるのですが、この映画の最後にもう一つの「死」が現れます。それはおそらく、彼が自分の真実を得るために選んだ初めての挑戦だったと思われます。

死とは過去における身近な人々との別れであり、死とは自分の過去との決別でもあるはずです。であるなら、私たちにとっての死とは、新しい現実を受け入れるための積極的な人生の証ではないのかという帰着でした。

家福は新しい自分に挑戦し、それを現実のものとして生きてゆくという希望を得て映画は閉じました。見応えありました。


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