檜書店

当店は1659年創業の「能狂言の本屋さん」です。 ここでは能楽に関する情報を載せていま…

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当店は1659年創業の「能狂言の本屋さん」です。 ここでは能楽に関する情報を載せています。 ■WEBマガジン「Noh+」 https://magazine.hinoki-shoten.co.jp/ ■ショップ https://hinoki-shoten.shop-pro.jp/

最近の記事

留守文様(模様)の一筆箋

「留守文様(るすもんよう)」という意匠をご存じでしょうか。 『源氏物語』などの古典文学、能・狂言等の登場人物を省いて、象徴となる背景や持ち物・小道具などから、その作品や演目、主題を連想させる表現方法で、工芸品の意匠として伝統的に好まれてきました。 少し難しく書きましたが、登場人物が留守にしている、の意味ですね。 絵画、蒔絵(まきえ 漆で絵や模様を描き、金粉などを蒔き定着させる技法)、着物の柄、かるたや双六にまで幅広く残っています。 檜書店で制作した「ひのき謹製 一筆箋」も

    • 『源氏物語』の能:NHK大河ドラマ「光る君へ」

      2024年のNHK大河ドラマ「光る君へ」の主人公は、女優の吉高由里子さん演じる紫式部です。 NHKホームページには、次のように書かれています。 1月7日からいよいよ放送が始まりました。 能の中には、『源氏物語』を典拠とした作品がたくさんあるので、楽しみにされている方も多いと思います。流儀による違いはありますが、現在上演されるいわゆる「源氏物」は10曲(「葵上」「浮舟」「落葉」「碁」「須磨源氏」「住吉詣」「玉鬘」「野宮」「半蔀」「夕顔」)です。 これと紫式部自身がシテの「源

      • 字幕サービス「能サポ」ウラ話 その1

        能の内容がわからない、何を言っているのか聞き取れない、といった声にお応えするために始まった、檜書店の字幕サービス「能サポ」。 字幕については、様々なご意見もあるかと思いますが、広く能や字幕に興味を持っていただければ…と願い、字幕制作のウラ話、苦労や失敗などを時々お話していきたいと思います。 流儀の違い能の台本である謡本は、シテ方の各流で出ていて、その通りに上演されますが、能はシテ方以外に、ワキ方や狂言方、囃子方、それぞれに流儀があります。また、小書(特別演出)も合わせれば、

        • 七夕にまつわるお能:「天鼓」「関寺小町」「呉服」

          7月7日は七夕ですね。 願い事を書いた短冊を笹に飾ったり、織姫と彦星の話を思い出す方もいるかもしれません。 「七夕」にまつわるお能がありますので、ご紹介いたします! 天鼓(てんこ)【あらすじ】 美しい音色で鼓を打つ天鼓という少年は、その名付けの元となった、生まれた時に天から降りてきた鼓を献上しなかったため、死罪となってしまいます。その鼓は宮中に置かれましたが、誰が打っても鳴ることはなく、帝は天鼓の父を呼び鼓を打たせます。 父は息子が処刑された恨みを抑え、息子を想って鼓を打

        留守文様(模様)の一筆箋

          かつては演出がちがった!?「古演出による」能について

          長い年月を経る中で、演出が変化した能がいくつかあります。 そうした演目を、以前行われていたであろう演出で上演するのが、「古演出による」「古式による」とした催しです。 5月28日(日)京都観世会例会では、古演出による「鵜飼」、6月18日(日)京都観世会復曲試演の会では、古演出による「昭君」が上演されます。 古い演出には、今は出ない作り物があったり、登場人物が多く出ていた…など、様々ありますが、シテの役柄が前場と後場で別人格の「鵜飼」「昭君」では、古くは、前シテが中入りせず舞

          かつては演出がちがった!?「古演出による」能について

          根底に能がある映画「Village」

          公開中の映画「Village」では、能のシーンが印象的に描かれています。 映画はまず「邯鄲(かんたん)」の演能場面から始まります。人生は夢のように儚い...というテーマは、物語の根底に流れ続けます。 舞台となるのは、霧深い山あいの美しい自然に、巨大なゴミの処分場が建つ、霞門村(かもんむら)。いったん社会から落ちこぼれた人間は復帰するのが困難という、現代日本の縮図のような村の中で、主人公の優と幼なじみの美咲が見せるきらめく瞬間。これが一睡(炊)の夢に重ねられ、邯鄲男の面(お

          根底に能がある映画「Village」

          今年も北鎌倉で虫干しをしてきました!

          資料と人形の虫干し 江戸時代(万治2年、1659年~)より続く謡本の版元である弊社では、代々の当主が、謡本をはじめ、能楽に関する書物の蒐集も行ってきました。 紙は古い物ほど不純物が少なく、虫がつきやすいため、1年に1回はそれら資料を点検し防虫剤を入れ替える、いわゆる虫干しをします。 去年の活動はこちら! 古書の整理と虫干しをしてきました!in 北鎌倉|檜書店|note 資料のほとんどは社内の書庫に保管していますが、一部は、鎌倉の檜家旧宅にもあり、先日こちらの虫干しをしま

          今年も北鎌倉で虫干しをしてきました!

          対訳でたのしむ「百万」刊行!「物狂能(ものぐるいのう)」について

          この度、対訳でたのしむシリーズから「百万」が刊行されました! 詳細はこちらからご覧くださいね! 百万のあらすじ・見どころはこちら! ■能「百万」とは 能「百万」は作者の世阿弥が後世まで廃れることはない名曲だと太鼓判を押していた曲で、作られてから現在まで一度も途絶えることなく続いている曲の一つです。 春の京都・嵯峨野の清凉寺でわが子を探す母が念仏を唱え、舞を舞い、わが子と再会する物語です。 シテ(主役)の百万という女が登場後、すぐにアイ(門前の男)を笹で叩くシーンがあ

          対訳でたのしむ「百万」刊行!「物狂能(ものぐるいのう)」について

          「式能」は江戸時代に作られた演能形式

          2月19日(日)に国立能楽堂で「式能(しきのう)」が開催されます。 翁付五番立(おきなつきごばんだて)と言われる番組構成で、毎年2月に能楽協会主催で催されています。 第63回 式能 https://www.nohgaku.or.jp/shikinoh2023 ■式能について 式能の番組構成です。 はじめに翁があり、能→狂言を繰り返していきます(能五番・狂言四番)。脇能の次に演じられる狂言は「脇狂言」とも言われる祝言性が高い演目になります。 演目の種類(曲趣)も決まってお

          「式能」は江戸時代に作られた演能形式

          「兎と波」の伝統文様の元ネタは能!?

          新年も明けて、早くも1月が終わりましたね。 今年は卯年なので、可愛い兎の年賀状をもらった方も多かったかもしれません。 早速ですが、こちらの絵柄を見たことはございますか? 「波兎(なみうさぎ)」という日本の伝統文様です。 波の上を走る兎の絵柄ですね。 工芸品などでも取り上げられる縁起物の図柄です。 兎といえば月をイメージする方が多いでしょうが、なぜ兎に波なのでしょう。 それは能「竹生島」にある謡の一節から引用されていると言われています。 能「竹生島」のあらすじは次の通り

          「兎と波」の伝統文様の元ネタは能!?

          御題小謡(ぎょだいこうたい)「友」を謡ってみた!

          毎年、檜書店では宮内庁の歌会始(うたかいはじめ。今年は1月18日に行われました)のお題に合わせて、御題小謡を作成しています。   これは、文化人に作詞を依頼し、節付を観世宗家がなさるものですが、記録でたどる限り、昭和初期から80年以上続いています。 過去の記事はこちら。   また、これまでの御題小謡リストも作成しましたので、ご参照ください。 皆さんの生まれた年の御題小謡は何だったでしょうか? さて、今年のお題は「友」で、作詞を法政大学能楽研究所所長の山中玲子先生にお願いし

          御題小謡(ぎょだいこうたい)「友」を謡ってみた!

          同じストーリーでも流派で「読み方・表記・演目名」が違う曲をご紹介!

          能の演目は同じ内容でも、シテ方五流によって「読み方」や「表記」が違う演目があります。 今回はよく上演される演目をピックアップしてみました。 1、同じ漢字で読み方が違う演目どの流派も漢字表記はおなじですが、読み方が違う場合があります。 「半蔀」と「卒都婆小町」をあげてみました。 ちなみに「卒都婆小町」の「卒都婆」は「塔」ではなく「都」です。 「半蔀」 『源氏物語』「夕顔」の巻に描かれる光源氏と夕顔の上の恋物語に取材した能。(あらすじ・見どころはこちら) 「卒都婆小町」 平

          同じストーリーでも流派で「読み方・表記・演目名」が違う曲をご紹介!

          能の登場人物が後ろ向きで謡う謎:「次第(しだい)」について

          お調べが終わり、幕から囃子方が、切戸口から地謡が出てきて、さあ、これから能が始まるぞ、という時、わくわくしますよね。   揚げ幕が上げられ、橋掛りから役が出てくる時、笛・小鼓・大鼓による登場音楽が囃されることが多いですが、「次第(しだい)」と呼ばれる登場音楽は、多くの演目で演奏されています。   最初に笛がヒシギという甲高い音を出すと、大鼓と小鼓が掛け声をともない打ち始めますが、笛の後、大鼓が打ったら、それが「次第」です。   「次第」の演奏のなか、能の役が登場します。囃子の

          能の登場人物が後ろ向きで謡う謎:「次第(しだい)」について

          アニメ映画『犬王』の中の演目「腕塚」の題材になった平家の武将、平忠度。 能「忠度」は世阿弥の自信作!

          平忠度は平清盛の末弟で、誉れ高い武士として、また優れた歌人としても有名な武将でした。  『平家物語』には、忠度が歌の師匠である藤原俊成(ふじわらのしゅんぜい)卿に自分の和歌を託したものの、平家が朝敵になったことから、俊成が編んだ『千載和歌集(せんざいわかしゅう)』に「読み人知らず」として載ることになった話(忠度都落)や、源氏の岡部忠澄(おかべただずみ)が忠度を討ち取りますが、箙(えびら・弓を収納する箱状の入れ物)に結び付けられた和歌から、自分が斬ったのは大将平忠度だと知り

          アニメ映画『犬王』の中の演目「腕塚」の題材になった平家の武将、平忠度。 能「忠度」は世阿弥の自信作!

          『鎌倉殿の13人』を振り返ってみよう!【源氏編】

          NHK大河ドラマでは、源平合戦を経て、源頼朝が亡くなり、ついにタイトルの物語が始まりますね。 能は『平家物語』を題材にしている演目が多いため、過去にもいくつかご紹介いたしました。 今回は、それらも含め、改めてご紹介していきます。 ここで少し『鎌倉殿の13人』を振り返ってみましょう! 七騎落(しちきおち)石橋山の合戦に敗れた頼朝一行は船で安房(あわ)・上総(かずさ)を目指して逃亡を計りますが、その人数は八人(源頼朝、土肥実平、土肥遠平、岡崎義実など)。 頼朝の祖父・為義、父

          『鎌倉殿の13人』を振り返ってみよう!【源氏編】

          世阿弥が書き残した「犬王」

          ミュージカル・アニメーション映画「犬王」はご覧になりましたか? 主役の犬王は観阿弥・世阿弥と同時期に活躍した実在の能役者です。 犬王は観阿弥や世阿弥が活動する大和(現在の奈良県)猿楽ではなく、近江(現在の滋賀県)猿楽の比叡座に所属していました。永徳二年(1381年)北野神社で犬王の能が行われた時、観客が拝殿の屋根にまで上がったという記録があるほど、その芸には人気がありました。 後に道阿弥(どうあみ)と名前を変え、応年20年(1413年)5月9日に亡くなったと言われていま

          世阿弥が書き残した「犬王」