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能の登場人物が後ろ向きで謡う謎:「次第(しだい)」について

お調べが終わり、幕から囃子方が、切戸口から地謡が出てきて、さあ、これから能が始まるぞ、という時、わくわくしますよね。
 
揚げ幕が上げられ、橋掛りから役が出てくる時、笛・小鼓・大鼓による登場音楽が囃されることが多いですが、「次第(しだい)」と呼ばれる登場音楽は、多くの演目で演奏されています。
 
最初に笛がヒシギという甲高い音を出すと、大鼓と小鼓が掛け声をともない打ち始めますが、笛の後、大鼓が打ったら、それが「次第」です。
 
「次第」の演奏のなか、能の役が登場します。囃子の「次第」が終わると、今度は同じく「次第(しだい)」と呼ばれる謡を謡います(歌詞は曲によって違います)が、その謡はなぜか斜め後ろを向いて謡います!(※登場人物が複数の場合は向き合って謡います)

こちらの動画では4分20秒くらいから、ワキ方が斜め後ろを向いてから「次第」を謡います。

『能を観る。「鵺ぬえ」公演映像ノーカットでお届けします!"KYOTO de petit能 2022.5.6"』 
Soichiro Hayashi

なぜ、演目の第一声の謡なのに客席のほうではなく、後ろ向きで謡うのでしょうか。
一説には、昔は今の囃子方がいる場所の後ろに地謡が座っていて、その人たちに向けて謡っていた、その名残が現在まで伝わっていると言われています。
 
昔は、合唱でいうパートリーダー的な立ち役が、地謡に向けて今日の声の「音」を確認させていたとも考えられています(昔は舞台に出ている人全員が一緒に謡い、「同音」と言われていたこととも、関連してくるようです。※過去の記事参照)。
 
その証拠に…なのかどうかわかりませんが、「次第」を謡った後には地謡が確認するかのように、必ず「地取(じど)り」と呼ばれる謡を謡います。現在では定型化していて、何やら低い音でボソボソと謡っているように聞こえますが、登場した人物が謡った「次第」の最後の一句を繰り返して謡っているんです。
〈上の動画だと5分30秒くらいから「地取り」を謡っています〉

ちなみに、登場の際、笛のヒシギの後、小鼓が打ち出したら「一声(いっせい)」と呼ばれる登場音楽 、笛だけの時は「名ノリ笛」という登場音楽です。まれに狂言方が出てきて、これから起こる出来事のいきさつを語って始まる「狂言口開(きょうげんくちあけ)」と呼ばれるパターンや、大鼓と小鼓だけで囃す「会釈(あしらい)」と呼ばれる音楽で登場するパターンなどもあります。
〈「鵺」の動画だと10分25秒くらいから「一声」が始まります〉


また、謡本にも「次第」が載っています。

観世流大成版謡本「巴」より

下記の動画では「次第」が、26分35秒くらいから見ることができますよ。
挿絵と比較してご覧くださいね!

大槻能楽堂自主公演能特別版 感染対策トライアル公演
公益財団法人大槻能楽堂

能を観に行った際には、最初のポイントとして、登場の場面をぜひ注目してみてくださいね。

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