わたしたちは知っている。
またささくれができてる。
わたしは気になってそれをつまんだ。
「やめなよ。痛くなっちゃうよ」
そう言ってわたしの手を止めるのは彼。
わたしたちは知っている。
無理に触れると余計に傷ついてしまうのを。
そう、わたしはもともとそういう性格だ。
見つけると、小さな棘が刺さったままのようで
ついつい気になっては触れてしまう。
彼にずっとささっている棘も、ほんとはずっと気になっている。
でもわたしたちは知っている。
その棘は、あのささくれを深追いするのと同じだということを。
手を繋いで歩いて
やっとささくれが気にならなくなった。
それでも途中、改札を抜けたり携帯を出したり傘を差したり
ただ歩いているだけなのに、その手はしょっちゅう離れてしまう。
でもわたしたちは知っている。
離れたあと、再び手を繋いだ時に
お互いの手が指が、細胞のひとつひとつが満たされていくことを。
そう、そうだ。傘。
やっぱりあの日も雨だった。
またすぐ取りに来るからと置いていった彼の傘は
もうずっとここにある。
窓を開け、ベッドの上で濁った空を見上げて、傘を捨てようと決める。
わたしたちは知っている。
もうあの時には戻れないということを。
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