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いっそ揺るがない地獄の方がいい。


僕は一体、何をしているんだろう。
今になって、何のつもりでそこへ行ったのか。
せっかく柄にもなく整えた髪も雨の湿気でどうしようもなくなって、ヒーロー気取りで遅れて行ったくせに「もう時間だから」と駆け足で退散。
その割には数分後には息が切れて、結局終電には乗れなくて1人タクシーに乗る。

どうしようもないし、もうわからない。
ナビが指してる先も、自分が行きたい先も。

全部わからない。


このまま意志もなく運ばれるのが嫌になって、適当なところでタクシーを降りた。
雨の中降り立ってみたものの、ここは、どこだ。
自分で降りておきながら小さく舌打ちをして、充電が切れかけている携帯を取り出す。

しばらくは大人しくGPSを頼りに歩いていたが、見知らぬ道からちょっと知っている通りになったら、”違う。ここ、もう知ってる。こっちの方が近い”なんて今まで頼り切っていたルート案内に悪態をついて地図を閉じた。


家への帰り道はわかったが、これから向かう道は果たしてどうだろうか。
僕はこの先どの道を、どう歩こうとしている?
近いから、早いから、面倒だからとまたいつものように目先の得や楽を取って、俯瞰してみれば遠回りか、もしくは動物園の動物のようにぐるぐると同じところを歩き回っているだけのような気もする。

何もわからないくせに、全てわかったような顔をして。


完治したと思って傷を笑いに行ってみれば、それは結局寛解でしかなくて、その状態もあっという間に揺らいでしまった。
0か100でしか考えられないこの頭には寛解なんて約束もされていないような安定はなんの励ましにも喜びにもならない。

だったらいっそずっと地獄の方がいい。
揺らぐ天国なんかより、確固たる地から動かない地獄の方が。
でもどうせ、地獄の底だって抜ける時が来るんだろう。
それくらい僕にだってわかる。
安息を手放しで求めているうちは、きっとそんなものはどこにもない。

死への恐怖と生きている恐怖は交わらないし、相互作用なんてしない。
別物だ。
どれだけ死ぬのが怖くたって、生きている間のどう生きるべきかと憂う気持ちは消えない。

どこを見ても不確かなら、いっそ揺るぎない地獄がいい。
僕の一番の恐怖は、「揺らぎ」だ。

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