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喜怒哀楽のジェットコースター -『浅草ルンタッタ』読書感想文-

多分私の読書史上最速。驚異のスピードで読めた。

私がこの秋読んだ2冊目の本はこれだ。


もうびっくりするほど、とにかく読みやすい。
読書が苦手で下手すると3行読むとたちまち睡魔がやってくる私でさえ、魔物が降臨する隙もないほどに夢中になって読むことができた。


立て続けに巻き起こる衝撃的な出来事の数々。
自分もその場にいるかのように、ドタバタしたにぎやかな臨場感に心躍り、どうしようもない、だけど許しがたいような辛く厳しい場面では何度も胸が締め付けられた。

もう、少女「お雪」の一挙一動にハラハラ。ところによりワクワク。
話が進んでいくほどにお雪のことが好きになるし、お雪の周りにいる心温かい人達一人一人にもあっという間に感情移入してしまう。


そして本書からは、読むだけでなく「書く」という側面でも驚きというか学びというか、うわぁなるほど...!というような感覚を覚えた。
うまく言えないが「そうかぁ。こういう風に、そこから書いていくのか」というような気持ち。

場面展開後の一文、新たに物語に入っていく瞬間。
私は小説などの新しい章を読んでたまに感じるのだが、しばらく読み進めて「えーとこれはどの話...?あれからどうなってこうなった...?」みたいに、前の章とのつながりに迷子になるというか、状況がうまく飲み込めなくなる時がある。

しかし本書では、少し遠くの「そこ」から始まっても、すぐ手繰り寄せられるように場面が繋がっていき、そして再び物語に引き込まれていく。
読みやすさとはこのようなところからも来ているのかな、と感じた。


音や歌が聞こえてくるかのようで、一文字一文字に夢中になる。
ある種予想ができてしまうようなワクワクにも「いけいけ」と心弾ませて次のページをめくり、ヒヤッとする場面では「やめてくれー!平和を壊さないでー!」と叫びそうになりながらおろおろと目を走らせた。

そして私は自分本位過ぎるのか臆病過ぎるのか、読みながら「いやいや、みんな。もっと自分のために生きようよ、逃げようよ」なんて、何度も何度も思った。
そう思うくらい本書の中には、さもなくば死んじゃうようなところで、それでも自分以外の人のために動く、という人たちがたくさん出てくる。

今の世の中と比べるとちょっと信じられないような話だが、ここの人たちは当たり前のようにそれをする。
義理人情というかなんというか、良くも悪くも要するに深く人と関わったからこそそう動けるのだと思う。人や愛、己の生き様のために行動する彼らにとてつもなく心が惹きつけらた。

正直「私もそんな風に生きたい」とまで言える勇気はないが(多分これも勇気とかじゃなくて勝手に体や心が動くものなんだろうけど)でもやっぱり私もこんな風に人と関わっていきたいな、なんてつい思ってしまうような魅力的な人々がたくさん住んでいる本だった。


そして初めて知った浅草オペラという世界。
最初は「ほぅ、大正時代のお話かぁ...」くらいの状況把握で、楽しく読みながらもいまいちその時代感などがピンと来ないまま「創作のお話」として本書を読んでいたのだが、浅草オペラのくだりに入ったあたりからこの物語は私の中ですごくリアルになっていった。

これは、本当にあった話だ...!なんて思うくらいこの世界に引き込まれた。(風見座や洋楼館が実在する芝居小屋だったのか調べたくらい)
本当にあった時代や題材を調べ上げ、そこにいたかのように書き上げる。
だからこそ読み手はこの世界の中に夢中になって入り込むことができるのだなと思った。


喜びだけが楽しさではない。
悲しくともどうしようもなくとも、絶望や何度も訪れる辛い出来事の中でも、一瞬の光や幸せ、ふと笑えるひとときがたくさん詰まっていて、ささやかでも笑顔になれる瞬間があるって、こんなにも日々を救うんだなと思った。


めげずに生きること、あきらめないこと、楽しい気持ちを忘れないこと、自分の心が動くものに正直にいること、もらった愛を忘れないこと。
私にとっては、そんなメッセージが染み渡っていくような本だった。



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