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とある温泉施設に書かれた新しい注意書き


彼女は猛烈に怒っていた。
ここは、とある日帰り温泉施設。

施設といっても、簡単な受付とちょっとした脱衣場所などが設置されただけのシンプルなつくりの温泉だ。
山の上というロケーションを活かしてほとんど周りには囲いを設けず、その分浴場からは大自然の雄大な景色を眺めることができる。


そんな、日頃の疲れも日々の鬱憤も綺麗に洗い流せそうな場所で、彼女は、猛烈に怒っていた。
久しぶりの休日に、ゆっくり羽を伸ばすために1人で訪れた温泉。
目の前には、雄大な景色。

と、その景色をバックにして携帯で自分たちを撮影する女性が2人。


当然のことながら、脱衣場には「カメラや携帯電話等での撮影禁止」の貼り紙がある。
観光客と思われる女性客2人は周りの怪訝そうな目も気にせず、平気で携帯を持ち込み、その絶景や自分たちを撮影していた。


彼女はたまらず声を上げる。

「あの!ちょっと!撮影禁止って書いてありますよね?他のお客さんもいるんですよ?」

女性客2人は悪びれもせず、くすくすと笑って彼女のことをあしらった。


注意をしても一向に携帯をしまおうとしない2人を見て、もう我慢できないと言わんばかりに彼女は浴場を飛び出し、ずんずんと受付に向かった。


「すいません!また携帯を持ち込んでる人がいるんですけど!迷惑なんです!どうにかしてくれませんか?私、この間も言いましたよね?」


彼女は付近に住む、その施設の常連だった。
そしてこのようなことは今日だけではなく、以前にも遭遇していたのだ。


おろおろとする店員。
ものすごい剣幕で怒りをあらわにする彼女に、近くにいた子供が驚いて「わぁ!」なんて声を上げる。
他の客もびっくりしながら目を丸くして固まっている。


"どうして私がそんな目で見られなきゃいけないの?ありえない!"
彼女は思った。そして語気を強めて言った。


「ああいうマナーの悪い人は入れないで下さい!もっと大きく注意書きをするとか、入る時に絶対禁止ですって説明するとか、できないんですか?」



興奮する彼女に、受付にいた店員は目を伏せうつむきながら、弱々しく答えた。

「あの、申し訳ございません。善処いたしますので...その、こちらでこのようにされますと、他のお客様の御迷惑にもなりますので...。」


「どうして私が迷惑なのよ!もうこんなところ、二度と来ない!」


彼女は堪忍袋の尾が切れ、そう叫んでどすどすと戻っていった。



次の日、施設の入口には新しく注意書きの紙が貼られた。

【お客様へ】
・浴場内への撮影機器のお持ち込みは固くお断り申し上げます。
・施設内は脱衣場・浴場以外の場所では必ず衣服の着用をお願い致します。

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