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インチキペテン師のドキドキ恋占いと青春の懺悔

今日は過去の懺悔をしようと思う。
ここだけの話だが、私は昔、人を騙してお金を稼いだことがある。
1人や2人ではない。その数は1000人とはいかないまでも数百人にも上ったと思う。
しかも私がそれを行ったのは若干16才。高校一年生の時だ。

ここに懺悔として、その当時のことを記そうと思う。
あれは高校の制服にも慣れた頃、青春真っ只中の文化祭の時の話だ。


文化祭。
年に一度催される、高校生活の中でも1.2を争う一大イベントである。
同じ「祭」のつくものでいえば体育祭も盛り上がる人は盛り上がるだろうが、いかんせん体育祭は運動が得意かどうかという大きなハードルがある。
それに対して文化祭は、自分達が催すだけではなく色々な催し物をやっている教室などを回ったりして客となって楽しむこともできる。文字通りお祭りに近い、多くの学生の心が踊るイベントだろう。
まぁもちろん中には全然興味がなかったり楽しい思い出がないという人もいるだろうが。

私も文化祭がいい思い出ばかりだったわけではない。
ずんもりした記憶でいうと、とあるキャピキャピした女の子とひと悶着するというなんとも言えないイベントが巻き起こったこともある。

しかし、今回はその話ではない。
これは、私が文化祭でインチキ占い師兼恋のキューピットもどきになり、いたいけな高校生たちから大金を巻き上げた話である。


私の高校では、文化祭の催し物が学年ごとに決まっていた。
それぞれクラスで1つテーマを決め、1,2年生は教室展示といって、教室の中で何かそのテーマにそった出店のようなものを出す。
そして3年生になると教室での展示はなくなり、その代わりに体育館で演劇など何かしら発表を行うというスタイルだった。
私が詐欺師兼キューピット、もとい恋のペテン師になったのは1年生の文化祭でのことだ。


勝手もわからない上に、1年生の教室展示はとにかく縛りが多い。
お店の種類があまりかぶらないように、飲食系の出店を出せるのは2年生と暗黙の了解で決まっていたため、1年生はゲームのような遊びっぽいお店を出すのがその学校では通例となっていた。

そうなると、やはり人気どころはお化け屋敷だったり輪投げや射的、ヨーヨーつりなど、大体が子供の喜びそうな、お祭りで見るようなものになる。
「教室展示」なんて銘打っているが要するに食べ物にしろ遊びにしろ夏祭りの出店の廉価版みたいなものが多くなるのだ。

「ドラゴンボール」や「ジブリ」などの皆がわかるような人気キャラクターがいるようなテーマや「ホラー」「大正ロマン」なんていうイメージっぽいもの、さまざまなテーマが各クラスで決められていく中、女の子の方がどちらかというと発言権が強かった私のクラスでは「ディズニー」がテーマになった。
ディズニー。かなり大枠である。

ディズニーをテーマとした、飲食物を出さない催し。一体何ができるだろうか。まさか遊園地を作るわけにもいかない。
何人かでグループになり「じゃあこっちはシンデレラの顔出しパネル作るね」「じゃあこっちはミッキーの顔で輪投げでも作るわ」そんな感じでぽつぽつと各グループで"アトラクション"が決まっていく。

そして、私たちのグループが考えた催し物は「占い」だった。
自分達の教室の展示を充実させるよりも、手離れのいいものにして他の色々なクラスを遊び歩きたいというずるい考えを持っていた我々のグループ。
どうにか店番も少なくすんで忙しく接客などしなくてよい楽そうなものはないかな〜なんて考えていたのだ。
そこで思いついたのが「占い」である。

ディズニーが好きなのは大体女子。そして女子と言えば大体占いが好きだろう。
そんな安直な考えから占い屋を開店することにした私たち。
でもただの占いだけでは面白くない。
うちのクラスは夢の国がテーマである。
それでは夢のある占いを提供しようではないか。
高校生がわくわくするような夢のある占いとはなんだろうか。
そりゃあ、恋愛占いに決まっている。
そこで私は、名案とばかりに思いついたアイデアをグループの面々に提案した。

「この学校で"運命の相手"が見つかるような占いにしたら面白いんじゃない?」

「それいいね!」「そうしよう!」

グループ内での賛同は得られたものの、さっそく「じゃあどうやってその占いを作る?」という問題が浮上した。


そこで私は、まず職員室に行って全校生徒の名前の名簿が欲しいと告げた。
卒業アルバムなどもあるわけだから名前くらいたやすく教えてくれるだろう。
案の定(時代のせいかもしれないが)簡単に全校生徒の名前をゲットした私。ついでに教職員の名簿ももらった。

これをネットからひっぱってきた名前の総画数か何かでわかる占いに当てはめて「あなたはこんな性格よ」みたいなそれっぽいことを最初に書き、そんなあなたと相性がいいのはこの人!という、この学校にいる"運命の人"が書かれたリストをあげちゃうという作戦だ。

あらかじめ作られたリストを用意しておけば、紙を渡すだけなので店番なんて楽勝である。

「すごい!楽だしなんかそれっぽいのできそう!」と盛り上がるグループ。
言い出しっぺの私はみんなの好感触にいい気になって「じゃあちょっと私、それっぽい占い調べて土台みたいのを作ってみるね!」なんて気楽に言ってしまった。
そしてさっそくリストの制作に取り掛かったのだが、すぐにとっても単純かつアホみたいな問題にぶちあたる。


数が多すぎるのだ。

当たり前である。
今まで片田舎の全校生徒でも100人にも満たない中学校にいた私が、リストなんてすぐできるよね〜なんて思って何の気無しに言ったアイデアだったが、高校は地元から離れたある程度開けた都市の学校。
クラスは一学年で7〜8クラス。全校生徒でいうと約1000人程。
中学校の10倍の生徒数がいる。それをあんまり考えていなかった私は、顔も知らぬ生徒1人1人の名前の総画数をちまちまと数えることに早々に根を上げた。
今思うとそれこそネット上に簡単に数えてくれるサイトなんてありそうである。絶妙にアナログなところがまたアホ。


め、めんどくさい...。

誰なんだ、こんなめんどくさいシステムを考えたやつは。紛れもなく私だ。

こんなはずでは...。
そう思いながらも、それでもなんとか80人分くらいの画数を数え終えた私。
道はまだまだ長い。そして、夢の国のキューピットになりかけていた私に、悪魔の国(どこ?)のペテン師がささやく。

「もう、テキトーでよくない...?」


悪魔に魂を売ってからの私の仕事はすこぶる早かった。
まず、いくつかのグループを作る。
それにネットからひっぱってきた、それっぽい「あなたの性格はこんなタイプ!」と書かれたテキストを放り込んだ。
誰しも性格診断の結果なんてある程度どんなことが書いていようと「あ〜そういうとこあるかも〜」なんて思ったり「えー全然違う!」なんて思いながらも、でも私ってそんな側面もあるのかな...なんて書かれていた内容に自分を当てはめてみたりするものである。
本物の占い師さんの前でそんなことを言ったらタコ殴りにされてしまいそうだが、良くも悪くも都合のいいことは信じるというタイプだった私は、そんな軽い気持ちで当たり障りなくそれっぽいことが書いてある性格診断のシートを作り上げた。


さて、次は「運命の人リスト」である。

80人分くらいの総画数を真面目にメモした紙は見なかったことにして、私は全校生徒の名前を先ほどのグループにどんどん振り分けていった。
適当に。無差別に。
これで、インチキキューピットのなんちゃって運命の人リストの完成である。


そして文化祭当日。
これが、予想以上に大盛況してしまった。
一応ディズニーっぽい装飾を施したハリボテの占いの館による「(なんちゃって)運命の人占い」のコーナーは、文化祭初日、2日目と日を追うごとにものすごい人が押し寄せた。
同じ学校に実在する「運命の人」が書かれたリストは、一般のお客さんにはなんじゃこりゃだったものの、在校生からとてつもない反響を得たのである。

「なんか、うちの学校の中の人で相性のいい人がわかるらしいよ」

「誰の名前が書いてるんだろう。あの先輩の名前、私の紙に載ってるかな…」

そんな高校生の淡い恋心や出会いのドキドキを利用したインチキリストは、たちまち文化祭の間で話題になり、みんなこぞって占いと言う名の、ランダムに在校生の名前が書かれたただの紙きれをもらいにきたのである。
一回100円。その被害総額は数万円にも及んだ。


今思うと「私の運命の人にあの子の名前が書いてあるのになんであの子の紙には運命の相手であるはずの私の名前が載ってないの?」なんてちぐはぐな部分もあったり、そもそも「運命の人」が何人もいて男女問わず乱立しているリストというのも怪しさ満点である。
しかし、お祭りの空気に浮かれ、夢の国(が一応テーマ)の教室に迷い込んだ高校生たちには、そんなことは突っ込まれなかった。

友達連れで占いをしに来て偶然お互いの名前が載っていて喜んだり、この名前の人は何年何組の人なんだろう、なんて心を踊らせ「あ、これ、うちの部活の先輩だよ!」なんて聞こうものなら、じゃあそのクラスを覗きに行って顔を見に行こう!と学年の垣根を飛び越えて教室を訪れるなんていう相乗効果まで生まれ、占いは大盛況に終わった。
もはやディズニーでもなんでもない高校生とついでに先生まで入れ学校全体を巻き込んだ合コンのような催しである。


こうして一回100円のインチキ占いコーナーによってかなりの利益を得た我がクラスは、それを元手に盛大に打ち上げパーティを行った。
と言っても、みんなでお菓子を買ったりカラオケに行くなんていう健全な打ち上げだが。

少しばかり罪悪感は残りつつも、そのおかげで新たな人と巡り会えたり、"学祭マジック"も相まって本当に運命の相手かも…なんて思ってそこから恋が生まれたりしていたら、結果オーライじゃない?と呑気に喜ぶ私たち。
「あの占い面白かったよー」なんて声をかけられるとなんとも言えない笑みをこぼしたのだった。

これが数百人を巻き込んで大金を騙し取った手口である。

あの時運命の相手を真剣に探そうとしたみなさん、ごめんなさい。
ここで懺悔させていただきます。


今となってはあの文化祭のような、何かをみんなで作り上げたりする楽しさや、瞬間的なドキドキ、「今」を謳歌する気持ちって、あの時だからこそ感じられた貴重な青春だったんだなぁなんて思う。

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